21 クラスチャンジ?進化?神化だよ!俺たち全員魔神だぜ!
大魔王との戦闘が終了したので、俺は転移魔法で部下たちを迎えに行くことにした。
すると連中、なぜか宇宙空間に勢ぞろいしていた。
それも俺たちの住んでいる星が、豆粒のような大きさにしか見えない場所でだ。
もう少し離れれば、宇宙に輝く星の一つにしか見えなくなるだろう。
「お見事でございます、我が主。偽神の塔の一撃で、かの大魔王を焼き払われるとは、感服いたしました」
部下筆頭であるメフィストが、俺の前で優雅に一礼して頭を下げる。
態度こそ恭しいが、メフィストなので仕草がいちいち胡散臭い。
……
しかしメフィストが口にした魔法名が、炎魔法・偽神の塔だった。
地上で使えば天まで届く巨大な火柱を生み出す魔法で、炎系魔法の最高位。禁術として指定されるほど、危険な魔法だった。
でも、俺が大魔王相手に使ったのは、ただの炎系中位魔法の火柱だ。
偽神の塔とでは、魔法の規模と威力に、とてつもない差がある。
メフィストからも化け物扱いされたくないので、ここは間違いを正さないでおこう。
「大魔王もアンデッド化して弱体化してたようだし、そこまで強くなくてよかったよ」
「フフフッ。かの大魔王を、そこまで強くなかったの一言で片づけますか」
「……」
ウワー、メフィストの笑いがメチャクチャ深い。
ろくでもないことを企んでますって、ありありと顔に浮かんでる。
「アーヴィン様、このまま魔王になって、世界征服しちゃいましょうぜ」
「アーヴィン様なら、星どころか、この宇宙にあるすべての星の手にできますぜ」
「アーヴィン様、宇宙を手にお入れください」
居並ぶ高位魔族どもが、口々に好き勝手なことを言いだす。
それと約1名、スペースオペラ界の名台詞をパクるな!
ああイヤだ。
大魔王を倒したせいで、高位魔族たちの期待が、これ以上なくマックスに振り切れている。
限界突破だな。
でも、俺は何度でも言うが、魔王になるつもりなどない。
「フフフッ、ダメですよ皆。魔王などと、主に対して大変失礼です。アーヴィン様は魔王になど興味の欠片もないのですよ」
俺は何度でも、魔王になるつもりはないと言い続けるつもりだった。
だが、俺が口を開くより早く、メフィストが間に割って入った。
「ほえっ、メフィストも主を魔王にしたかったんじゃないの?」
メフィストの突然の心変わりに、クレトが首をかしげる。
「ええ、確かに以前はそのように考えていました。ですが、アーヴィン様は何度も言われていたではないですか、俺は魔王にならない、と。私は、その言葉の真意を、ようやく理解できました理解できました」
邪悪に笑い続けるメフィスト。
イヤな予感しかしねぇー。
イヤな予感以外何もしねぇー。
一体何考えてやがるんだ。
「先ほど伝説に名を連ねる大魔王を、アーヴィン様は魔法の一撃で滅ぼされました。であれば、魔王はおろか、大魔王の肩書きすらアーヴィン様が名乗るには不足、ですので、私は提案します……」
顔は笑ってるのに、メフィストの目が全然笑ってねぇー。
マジな目になってるー。
その異様な雰囲気に、高位魔族たちまで固まってるぞ。
俺も内心で、何を言いだすんだと、戦々恐々だ。
「アーヴィン様は、既に神のレベルに達したのです。ゆえに、神の王……そうですね。この場合、我ら魔族の神の王という意味で……魔神王と名乗られるのがよいです!」
メフィストが狂信的な目で俺を見てきた。
ヤバイ、目が血走ってる。
「却下!」
俺は即座に、メフィストの案を没にする。
「魔神王か」
「素晴らしい名だな」
「魔神王アーヴィン様、万歳!」
が、俺のことなんて完全無視して、高位魔族どもが口々に騒ぎす。
こら待て、俺のことを無視するな!
「俺らも魔王より強くなって、とっくに神に片足突っ込んでるようなもんだからな。いい加減魔族をやめて、”魔神”にでもクラスチェンジしちまうか」
「いいな、進化しちまおうぜ」
「ヒャッハー!」
誰か助けて。俺の部下たちが、全く言うこと聞いてくれない。
てか、お前ら”魔神”になるって何なの?
クラスチェンジ超えて、進化だろう?
それとも”神化”するつもりか!
ビキビキビキ。
なんて思ってた俺の前で、高位魔族たちの体に亀裂が入った。
「えっ」
驚きで、思わず素の声が出てしまった。
高位魔族たちの体に亀裂が入ったかと思うと、虫が脱皮して中から新しい体が出てくるように、高位魔族たちが脱皮して、中から新しい体が出てきた。
やっぱり魔族って、脱皮するんだな。
あまりの事態に、場違いな感想を持ってしまった。
なお、脱皮した高位魔族たちだが、見た目はそこまで変化してない。
背中から黒く輝く羽が生えていたり、背中から暗黒の炎が飛び出していたり、腕の数が千本くらいになっていたり、頭の上に光るドーナツみたいなワッカが浮かんでいたり、全身が謎オーラに包まれていたり、八面六臂になっていたりするが、神化前より見た目がちょっと派手になった程度の小さな変化だ。
ただおかしなことに、高位魔族だった時より、持っている魔力量が桁違いに増加している。
俺より少ないが、さっき封印してきた大魔王より、明らかに高位魔族の魔力量の方が高くなっている。
大魔王より上ってことは、もう神だよな。
なんでこいつら、「神化しよー」って適当なノリで、神化するんだよ。
マジで、神になりやがった。
それも魔族の神だから、魔神だ。
「ウオオオー、力が溢れてくる」
「俺が神だー」
「さあ、世界征服しに行くぞー!」
神化した途端、もう好き勝手言ってる。
「いや、世界征服はなしだぞ。そういう物騒なのは禁止だ」
とりあえず、このバカどもをなんとか止めなければ。
「えー、せっかく神化したのに、つまんなーい」
止めようとしたら、大賢者の塔随一のバカが、つまらないとか言い出した。
ちなみにクレトの奴も、魔力量が馬鹿みたいに増えていた。
こいつまで、神化しやがった。
どうしてこうなる。
バカの神が誕生しちまったぞ。
「そうですよ、皆さん。焦ってはいけません。まずは我らの偉大なる主であるアーヴィン様に、魔神王としてふさわしい玉座を用意しなければなりません」
そしてメフィストはメフィストで、相変わらずブレない。
ブレないどころか、魔王から魔神王になって、さらにパワーアップしてるな。
「俺は魔王にも、魔神王にもならないぞ」
「フフフッ、ご遠慮なさる必要はありません。アーヴィン様が今まで魔王を名乗らなかったのも、全てこの時のため。魔神王の座に就くからには、前座でも魔王如きを名乗るなどバカバカしいですよね」
話を聞け、腹黒メフィスト。
もうヤダ。
俺、こんな化け物ぞろいの連中の王になんてなりたくねぇ。
勝手に魔神に神化して、俺の手には負えないぞ。
「よーし、それじゃあ主の玉座を作るために、まずは僕たちが住んでた星を潰して、材料にしちゃおっか。世界よ、滅びろー!」
クレトはクレトで、膨大な魔力をまとめだし、とてつもなくやばい攻撃魔法を構築しだす。
「……これ、俺が止めないといけないんだよな」
周りを見れば、
「よーし、やっちまえ」
「俺も協力するぞー」
「世界破壊!」
なんて、高位魔族改め、魔神になった連中が騒ぎ立てている。
世界を滅ぼされないためにも、俺はまだ頑張らないといけないようだ。
とりあえず、ここにいるバカども全員の躾をしなければ。
神化しても、頭は魔族の頃と大して変わってないので、力で上下関係を教え込めば、大人しくなるはずだ。
「いっけー」
「ヒャッハー」
その場のノリで、星に向かって破壊魔法を叩き込みだす、クレトと魔神たち。
そんな連中の魔法を、俺は次元魔法を使って別の世界へ飛ばした。
この後、俺と魔人たちによる、第二ラウンドが始まる。
大賢者の塔の玉座の間と化したフロアで始めた戦闘の、第二ラウンドだ。
あとがき
成り上がり物のお約束だと、最底辺から成りあがっていき、最終的に貴族から国王、そして神なんてパターンですが、この話ではいきなり神です。
魔神王様です。
やったね、1章目で早速チート神だぜぇー。
(普通のファンタジーを書くつもりだったのに、もはや欠片も残ってねぇ)




