20 古の大魔王との闘い
大魔王が召喚したモンスターの大半は俺が処理し、あわや星の滅亡となりかけた事態も、なんとか回避できた。
そして俺の作った血の人形2号が、現在も高位魔族相手に奮闘している。
奮闘と言うか、強すぎて100体の高位魔族に対して、かなり優勢に戦闘中だ。
大魔王より俺の方がヤバくね?
気のせいだと思いたい。
俺は普通でノーマルだ。
それとクレトのバカに関しては、現在地獄の刑罰を鼻歌交じりに満喫中。
これに関しては、どうでもいいな。
それより地獄の鬼たちが、この場にいた闇落ち勇者どもを瞬く間に捕まえて、フルボコの刑に処していた。
「ついでに、魔王の方も何とかしてくれないか?」
と俺は鬼に頼んでみたものの、
「あっちは氷結地獄の罪人だな。俺たちは溶岩地獄が担当だから、管轄外の罪人には手を出さんぞ」
と、断られてしまった。
どうやら地獄は日本の行政よろしく、縦割り社会のようだ。
地獄の鬼たちは、自分の管轄にある闇落ち勇者の処理はしても、氷結地獄の魔王のことは、完全放置ときた。
そんなのでいいのか、地獄?
そして、ひと騒動起こしてくれた大魔王だが、
「ガアアアッ、頭が頭が頭がー!」
と、只今絶叫を上げてる真っ最中。
「犬の分際で私に刃向かうとは、躾が必要ですね」
大魔王と対しているメフィストが、顔に笑顔を浮かべていた。
とてつもなく黒い笑顔で、物凄く嬉しそうにしている。
大魔王の部下だった頃の忠誠なんて微塵もなく、完全にただの悪党だ。
悪魔なので、悪党なのが当たり前か。
大魔王は、氷結地獄から伸びた”支配の鎖”と呼ばれる鎖に、雁字搦めにされている。
メフィストが足の裏で氷結地獄の地面を叩くたびに、大魔王が絶叫を上げる。
支配の鎖とは、メフィストが持つ特殊スキルで、縛った相手の意思を奪って操ることができる。
苦痛や苦悶、時には快楽を与えることで、相手の意思を思うがままにできるそうだ。
「ガアアッ、アガアア、メフィスト、貴様……」
「ククッ、犬の分際でまだ立っているとは、生意気ですねぇ」
「グオオオッ」
うわー、イヤだなー。
俺も将来メフィストに、こんな目に遭わされたらどうしよう。
今のうちに、メフィストと関係を切った方がいいかもしれない。
ただその場合、大賢者の塔の管理が不能になって、塔内にいる魑魅魍魎の魔族や、奇人変人の科学者たちが、世界に解き放たれてしまう危険がある。
俺とメフィスト以外のサブマスの顔ぶれを考えたら、大賢者の塔の管理なんて絶対にできない。
むしろ、クレトとイリアが、加速度的に状況を悪化させるに決まっている。
有能なのはいいが、腹の中が真っ黒で、常に謀を企んでるのがメフィストだからなー。
俺は一体どうしたらいいんだ?
「おのれ、悪魔ごときが余を侮るでない!」
「っ!」
なんて考えてたら、目の前で苦痛を与えられていた大魔王がキレた。
爆発的な魔力が巻き起こり、魔力だけで周囲の空間に雷撃が迸る。
「おおっ、さすが伝説の大魔王」
「やっぱ、世界征服しただけあって格が違うなー」
「主がいなかったら、あの大魔王に仕えたかったな」
外野の高位魔族たちが、感心している。
いまだに血の人形2号が猛威を振るっているのに、よそ見をして観戦とは、随分余裕があるな。
「チッ、この下種犬が!」
「裏切者が、腸を食い散らかして、二度と余に刃向かえぬようにしてくれる!」
そんなことをしてる間に、メフィストと大魔王の2人が、互いに睨み合って火花を散らしだした。
大魔王が魔力を放出した際、メフィストが施していた支配の鎖がはじけ飛んだ。
大魔王はメフィストの支配下から、完全に脱してしまった。
対するメフィストは、普段の笑みを消して、マジでキレていた。
先ほどの魔力の衝撃で額の端が切れ、そこから悪魔の黒い血が流れ出している。
大魔王だけでなく、メフィストまで膨大な魔力を放出し始めた。
睨み合う両者の間で、さらに魔力が増していく。
俺としては、このまま勝手に戦ってもらってもいいのだが、メフィストと同格かそれ以上の大魔王がこの場で全力戦闘すると、大賢者の塔が崩壊しかねない。
この塔を構成している次元魔法や、破壊不能物質では、両者の戦いを前にすれば、ただの紙切れ同然の強度しかないだろう。
それは大変困る。
「はあっ、関わりたくないが、仕方ないか」
俺は頭の後ろをかいて、ため息を一つついてから、覚悟を決めた。
俺はメフィストと大魔王の傍へ歩いていく。
「もういい。あとは俺がやる」
「主?」
メフィストが怪訝な顔で俺を見てくるが、今回は無視だ。
大賢者の塔を守るために、この場で大魔王を潰させてもらおう。
「全員、死にたくなければ、今すぐこの場から出ていけ!」
まずは部下たちに命令する。
「はーい、全員退避―」
一番最初に動いたのはクレト。
転移魔法を使って、この場から消えた。
「野郎ども、地獄に戻るぞ」
「撤収だ撤収。さっさと地獄に戻って、罪人どもをシバキ直すぞ」
「おら、レイプ勇者。お前は俺の腹いせに、サンドバッグになってもらうぞ」
地獄の鬼たちは、闇落ち勇者たちをひっつかんで、溶岩の中へ潜って消えていった。
それとともにクレトが維持し続けていた、理魔法・世界の上書きが解除され、この世界に顕現していた溶岩地獄が消滅する。
本来あるべき場所へ、地獄の最奥が戻っていった。
「アーヴィン様が本気で戦闘するぞ」
「この塔終わったな」
「塔より世界の方が終わるんじゃね」
「世界破壊より、征服の方がよかったんだけどなー」
高位魔族どもは好き勝手言いながら、転移魔法でこの場から消えていく。
中には戦闘で倒れたり、氷漬けにされた高位魔族がいるが、そういった連中も、仲間の高位魔族たちが連れていった。
なんだかんだで、仲間意識はあるのだ。
しかし、去り際に納得できないことばかり言われたな。
あいつら、俺のことを何だと思ってるんだ。
た、確かについさっき星魔法・星の輝きで、あわや世界最後の日を迎えかねなかったが、あれはほんのちょっとした手違い。事故だ。
一歩間違ってたら大惨事だったが、被害がなかったから、ノーカンだ。
「……主」
「邪魔だ、どけ」
「……御意」
最後にメフィストがこの場に留まろうとしたが、俺が一睨みして、この場から去らせた。
こうして、この場に残されたのは、俺と大魔王の2人だけになる。
おまけで血の人形2号がいるが、今は俺からの命令がなくて待機状態だ。
さて、俺は大魔王と正面から対する。
大魔王はドラゴンのアンデッドなので、俺は自然と相手を見上げる形になる。
「……”混じり物”か」
「確かに、俺は人間と魔族の血が入っている」
俺を前にして、大魔王が最初に発した言葉がそれだ。
魔族の中では、純潔が尊ばれ、他種族との間に血が混じった者を見下す風潮がある。
そういうものを、魔族たちは”混じり物”と呼んで蔑んでいた。
もっとも純血主義は魔族だけの特権でなく、エルフや獣人、人間においても、存在している考え方だ。
「まさか混じり物が今代の魔王とは、我がこの世を去ってから、この世界は随分と幼稚になり、穢れたようだな」
「生憎だが、俺は魔王じゃない」
「混じり物とはいえその魔力。お前が魔王でないとは、不思議な話だな?」
何度でも言うが、俺は魔王になるつもりなどない。
地獄に落とされていた大魔王相手でも、それははっきり言っておかなければならない。
だが、大魔王にとって、俺が何者でも関係ないといた様子。
「小僧、そこをどけ。いかに強大な魔力を有そうと、大魔王たる我の前に立ち塞がることは許されん。メフィストを我が前に差し出すのであれば、一度だけ罪を不問にしても……」
「理魔法・世界の上書き、”聖域”」
こいつ、おしゃべりが長い。
「はあっ、昔の魔王は随分おしゃべりなんだな。キャンキャン吠えてないで、さっさとやることをやろうか。魔族の流儀は力の上下関係。肩書でなく、自分より強い奴が全ての決定権を持ち、弱い奴は従うのが道理だろう」
「ほざけ、たかが聖域を展開したところで、我を弱体化させられたと思うな」
さて、話し合いはお終わりだ。
俺が戦闘開始の合図として、世界の上書きを発動したように、大魔王も魔力を集めだす。
まず、俺が展開したのは”聖域”。
メフィストやクレトが理魔法・世界の上書きを用いて、地獄の最奥をこの世界に顕現させたように、俺も世界の上書きを用いて、この場を聖域にする。
不浄の死者であるアンデッドにとって、聖域とは、その場にいるだけで力を奪い取られ、消滅へと突き落とされる毒になる。
いかに大魔王とて、アンデッド化した体では、完全に弱体化を免れることはできない。
とはいえ、伝説に名を残すような大魔王相手だ。
いかに世界の上書きを用いた聖域とて、その程度で弱まる力などたかが知れている。
そんな俺の前で、大魔王は口を開けた。
「消し飛べ!」
ブレス攻撃だ。
大魔王アーデガスト・ギュディエストの種族はドラゴン。
膨大な魔力が乗った光が、一条の細い光へ集約されて発射される。
強力な攻撃力で面を制圧するのでなく、1点に集中させることで、貫通力に特化させた一撃だ。
「理魔法・反射」
俺は反射魔法を用いることで、ブレスを跳ね返す。
光のブレスが反射魔法に触れ、180度進行方向を変えて、今来た方角を逆に進んでいく。
「ヌグオッ!」
大魔王が開けた口に、反射したブレスが見事命中した。
クリーンヒットだな。
口の中を攻撃されたから、メチャクチャ痛そうだ。
「あれっ、全部跳ね返せた……」
しかし、俺としてはビックリ。
てっきりブレスの何割かは跳ね返せず、俺もダメージを受けるだろうと踏んでいたのに、ひどい肩透かしを食らってしまった。
え、もしかしてこいつって弱い?
まさか、そんな馬鹿な話があるわけないよな。
きっと相手も様子見をしているに違いない。
俺はさっき油断して、勇者に背中を突き刺されるなんて目に遭ったのだ。
「えーっと、とりあえず炎魔法・火柱」
ここは油断しないで、さらに様子見の攻撃をしかける。
使うのは、炎系の中位魔法だ。
俺は魔法名を唱えると同時に、指を弾いて大魔王に魔法をお見舞いした。
火柱が巻き起こった。
いや、訂正させてくれ。
星を半壊できそうな、巨大な火柱が目の前に巻き起こった。
俺のいる場所からでは大きさがよく分からないので、感知魔法を使って調べてみる。
結果、長さがこの星の半分くらいある、火柱で済ませてはいけない何かが、俺の目の前に発生していた。
これはいろいろダメな奴だ。
俺たちの住んでいる星は、地球とほぼ同じサイズ。
地球の直径は、約1万2700キロメートルになる。
その半分ってことは、約6000キロメートルある炎の柱だな。
太陽フレアに比べれば小さいな。
太陽フレアは、1万から10万キロあるらしいので、それと比べれば小さくて当然だな。
……
ナニコレ、対惑星魔法か何か?
さっき使った星魔法・星の輝きといい、こんな魔法を地上で使ったら、星の環境が激変してしまうぞ。
最悪、そのまま滅亡コースだ。
ここが宇宙空間でよかった。
「ヌグアアアアアーッ!」
俺が星を滅ぼさなくてよかったと心底安堵していると、大魔王の叫び声が火柱(でいいのか?)の中から聞こえてきた。
大魔王だが、このわけの分からない炎に焼かれても、まだ生きているらしい。
アンデッドだから、とっくに死んでいるだろうというツッコミはなしでいこう。
骨だけの体なのに、この炎に耐えられるようだ。
炎の中で、防御魔法や転移魔法の気配を微かに感じるが、そのすべてを炎が消滅させている。
炎の力が次元まで歪めるのか、次元魔法が不発しているようだ。
逃げることをせず、反撃も来ないということは、大魔王にとって余力がある状況ではないだろう。
「これ以上上位の魔法を使うと、確実に星が死ぬな……仕方ない、ここは次善策で行こう」
最適解はこのまま大魔王を倒してしまうことだが、その場合俺の使った魔法に巻き込まれて、星が滅びてしまいそうだ。
中位魔法でこれだから、それより上位の魔法を使えば、世界の運命を賭けないといけない。
余波で世界が滅びましたなんてのは、ごめんだ。
俺はクレトみたいに世界破壊して、「ワッホーイ」とか言いそうなバカとは違う。
幸い、次善策を用いるのに、うってつけの媒体が、この場所にはあった。
「こっちにこい」
俺は、この場に残って待機状態になっていた、血の人形2号を呼び寄せる。
この血は、俺の血であり、莫大な魔力が宿っている。
魔法を使う上での媒体として、この世界に存在するすべての物質の中で、おそらくもっとも優れている。
やがて炎が収まると、そこには焼け爛れて真っ黒になった、大魔王が棒立ちになっていた。
「……まだ、消滅してないのかよ」
あの炎の中にありながら、それでも立っている辺り、凄まじい生命力だ。
だが、そこからピクリとも動かないでいる。
深刻なダメージを受けているに違いない。
もう一度中位魔法で攻撃する手もあるが、世界の運命が天秤に乗っかるので、次善策を用いることにしよう。
この状態の大魔王相手なら、次善策でも問題ないだろう。
「鮮血魔法・”封印”」
俺は血の人形2号を形作っていた血を分解し、新たな魔法のための媒体とする。
俺の血を用いて、古の大魔王を封印する。
封印することで、大魔王との戦いを幕引きとしよう。
膨大な魔力を秘めた血が蠢き、大魔王の体に巻き付いていって、体を拘束していく。
やがて血が、体全体を覆っていく。
あとは、大魔王の頭まで血が巻き付けば、封印は終わる。
その時、大魔王が口を動かした。
「よいか、メフィストを信用するな。あれは、我ら魔族とは異なる生き物だ」
そう不気味な言葉を残して、大魔王は俺の血に覆われ、封印された。
「メフィストを信用するなと言われても、いまさらなんだけどな」
大魔王は何やら不気味なことを口走ったが、何を言いたかったのやら。
まあ、これで大魔王のことは片付いた。
もしかしたら封印を破って出てくるかもしれないと、少しの間身構えていたが、どうやら封印は完璧に施されたようで、俺はホッと安堵した。
今回はアンデッド化して弱体化した大魔王だったから良かったが、これがもし生前の姿の大魔王だったら、今頃俺たちの戦いで星が破壊されていた気がする。
「よかった。星が壊れずに済んだぞ」
大魔王の封印以上に、星に何事もなくてよかった。
「あっ、そういや大魔王が闇のオーロラから呼び出した眷属が、まだ残っていたな」
半分以上は俺が消し飛ばしたが、残りに関しては、知らんふりさせてもらおう。
俺がこれ以上手出ししたら、世界が滅びかねないので、あとは魔物に襲われた、現地の人たちで何とかしてもらおう。
他力本願だが、世界が滅びるよりマシだからな。




