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異世界転生したら魔神王だった 魔王よりヤバい魔神たちの王だけど、世界征服も世界破壊もしたくない。マジで。  作者: エディ
第1章 魔王になって世界征服も世界破壊もしたくないと言っていたら、なぜか魔神王になっていた。意味が分からん
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19 闇落ち勇者と伝説的バカ

 メフィストと大魔王アーデガスト・ギュディエストとのやり取り。

 そして俺があわや世界を滅ぼしかけて、冷や汗を流していたのと同じ頃。


 クレトはクレトでやらかしていた。


 トラブルメーカーなので、いつものことだ。



「お前だけは許さねぇ。俺の仲間を、アイシャをリーシャを、ユリを、ミリアを殺した貴様だけは、絶対に許さねぇ」

「ほえっ?」


 メフィストと似たようなもので、アンデッド大魔王が反旗を翻したのと同じく、クレトが呼び出した闇落ちアンデット勇者の1体が、術者であるクレトに反旗を翻して襲い掛かっていた。


 クレトも、なんだかんだで古い魔族の1体に数えられる。

 過去の勇者と確執の一つや二つあっても不思議ではない。


 闇落ち勇者が、クレトに向かって骨だけの腕を突き出して攻撃。


「ブフォッ」

 しかし、クレトはどこからともなく取り出したこん棒で、襲い掛かってきた闇落ち勇者を殴りつけた。


「みんな、脱走だよ。集合―っ」

 そしてどこにともなく大声で呼びかける。


「脱走じゃねえだろ。お前が原因だろ!」

「よりによって地獄の一番底を現世に召喚するとか、この大バカ野郎!」

「罪人を野放しにして、俺たちの仕事を増やすんじゃねえ!」


 クレトの周囲に広がるのは、世界の法則を上書きまでして顕現させた地獄の最奥。

 そこに広がる溶岩の海の中から、地獄の鬼たちが次々に姿を現した。


 クレトの元同僚である地獄の鬼たちだが、全員がクレトに対して文句を言っている。



「クッ、仲間を呼んだか。だが、俺は仲間を殺したお前に屈することはない。貫け、雷魔法・雷撃(ライトニング)


 勇者が雷魔法を放った。

 雷が一直線に迸り、鬼の1体に命中するが、まるでダメージが入っていなかった。


「魔法なんか使ってんじゃねえ!」

「グアッ」

 逆に鬼は勇者を睨みつけると、そのまま頭突きを食らわせた。


「野郎どもタコ殴りだ」

「地獄の刑罰から逃げてんじゃねぇ」

「そもそも仲間殺しとかほざいてるが、貴様ただのレイプ犯だろうが。生前イケメン勇者だったからって、片っ端から女を襲って関係を迫った挙句、やった後には殺しやがって。いいご身分だな、俺なんて女房が怖くて、他の女に色目を使っただけで半殺しにされるんだぞ。くたばれ、死ね死ね死ね、リア充やろうなんて未来永劫くたばっちまえ!」


 以後、こん棒を装備した鬼たちが、よってたっかて勇者をフルボコにしていく。

 勇者と言っても、闇落ち勇者なので、生前はろくなことをしてないわけだ。


「グヘッ、グハッ、ヘボッ、グベシッ」

 中には私怨交じりの鬼がいないでもないが、とにかく勇者はこん棒でぶん殴られ続け、瞬く間に身動きできなくなってしまった。

 特に生前の罪ゆえか、やたらと股間部分をこん棒で強打されまくっている。



「かくして悪党は滅ぼされたのでした、めでたしめでたし」

「めでたくねえ!」


 勝手にいい話風にしようとしたクレトだが、そこに地獄の鬼の1体が割って入る。


「クレト、地獄の最奥を現世に呼び出すんじゃねえ。罪人どもを野放しにしたら、俺たち地獄の鬼が、閻魔大王から叱られるんだぞ」

「ゴメンネー」

「……てめえ、鬼のくせに気色悪い声出して、媚びた声出すんじゃねえ!」



 ガンガン、ゴンゴン。

 鬼が手にしたこん棒で、クレトの頭を容赦なく叩きまくる。

 叩く方は相当な力を入れているが、クレトはいくら叩かれても全く痛くないようで、ケロリとしている。


「ハアッハアッ、ちゃんと閻魔大王に謝りに行けよ……」

「いかないとダメかなー?」

「絶対に謝りにいけ!」


 元地獄の仲間同士ということもあってか、地獄事情を話し合う2人。


「うーん、それじゃあ今度お菓子をもって謝りに行こうっと。ごめんなさいって言ったら、大丈夫だよね?」

「大丈夫で済むと思ってるのか?」

「うん、閻魔も僕のバカさ加減に呆れまくってて、どうしたらいいのか分からなくなってるから」

「……」


 鬼が黙り込んでしまった。




 そしてなぜか、クレトがチラリと俺の方を見てくる。

 この時俺は、メフィストと大魔王のやり取りを聞いていたが、クレトの方にちょっと視線を向けたらこれだ。


「あんた、このバカの扱いは大変だろうが、よろしく頼むぞ。こいつが地獄に戻ってきたら、閻魔大王の胃に穴が開いちまう」

「クレト、地獄でもろくでもないことばかりしてるんだな」

「エヘヘーッ」


 どうやら、クレトは地獄でも扱いきれないバカらしい。

 俺と鬼に呆れられたのに、クレトはバカみたいな笑顔を浮かべた。


 実際、バカだ。



 なお、その後もクレトは元同僚の鬼から説教を受け続けた。

 針の筵の上に正座で座らされ、足の上に石でできた重しまで乗せられ、地獄の刑罰を受けさせられたが、当人は平然とした顔をしていた。


「今日も地獄は楽しいなー。アソレ、エッホッホッー」

 歌いだす始末で、口に針を千本突っ込まれる罰まで受けさせられたが、バカは針をボリボリと咀嚼して食べだした。


「おかわり―」



 ……

 大賢者の塔一番のバカだ。

 俺の手には負えない。

 元同僚の鬼も、バカの相手をしきれないと言った感じで、最後は途方に暮れていた。


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