1 大賢者ゲイルの息子アーヴィン
俺のこの世界での名はアーヴィン。
元日本人だが、ラノベよろしく異世界転生を経験し、大賢者ゲイルの息子として生まれた。
黒髪黒目で、きっと将来はチート能力を使って、イケメンリア充路線確定だな。
前世知識もあるし、異世界で活躍するなんて余裕だぜ。
もっとも、今の俺は3歳。
大したことができねぇ。
この世界の文字はまだ覚えきれてないので、大賢者の塔にある本を読んで時間を潰すなんてできない。
転生物らしく、生まれた瞬間から異世界の言語が理解できるわけじゃなかった。
本に書かれている文字も日本語でないから、ゼロから覚えていかないといけない。
体も小さすぎて、ろくなことが出ない。
とりあえず剣を振って、将来の冒険者家業に備えて鍛えてみるかと思ったが、塔にある木剣を振るおうとしたら、重さに負けてそのまま転んでしまった。
さすがに3歳児だから、しょうがないか。
ならば、魔法でも使ってみるか?
ラノベだと毎日気絶するまで魔法使い続けると、将来魔力量が爆発的に伸びて、チートできるんだろ。
そうなると楽しみだなー。
魔法の使い方なんて、まったく知らないけど。
「坊っちゃん、気絶するまで魔法使うなんてやめておいた方がいいですよ」
「へっ?」
なんて思ってたら、大賢者の塔に仕える執事の1人、メフィストが俺に話しかけてきた。
メフィストは黒に近い濃紺の髪に、黄金の瞳をしている。
均整の取れた体に、整った顔立ち。
執事然とした衣服を見事に着こなした、クール系を思わせる美青年。
……
リア充爆ぜちまえ!
前世の俺の記憶が告げるので、心の中だけで叫んでおく。
「坊ちゃんひどいです。私は坊ちゃんにお仕えする執事なのに、そんな私に爆ぜろだなんて、一体誰の教育が悪かったのでしょう」
「……」
俺は無言で、俺の教育係を務めている、目の前の執事を指さした。
「おやおや、私を指さされてどうかしましたか?おや、こんなところにホコリが付いていますね。教えていただきありがとうございます、坊ちゃん」
「……」
そう言って、にこりと笑うイケメン執事。
ダ、ダメだこいつ。
何やっても、まったく堪えちゃいねえ。
てか、さっきから俺は一言も話してないのに、俺の頭の中を読んでないか?
読んでるよな?
確実に読んでやがる。
「フフフッ」
「メフィスト、俺の心を読むのやめろよ!」
俺は耐えきれなくなって、目の前の執事に叫んだ。
「命令であれば、そうしますが?」
「じゃあ命令だ」
「承知いたしました、我が主よ」
そう言い、俺の前で恭しく一礼するメフィスト。
ただし、そのしぐさが物凄くわざとらしい。
てか、心を読むって……そういう魔法が存在しているのかよ。
この世界怖えな。
ん?
心を読んだてったことは、俺のことが前世持ちの人間だと、既に気づいてるんじゃないか。
き、気づいているよな。
「フフフッ」
「お前、俺の心を読まないって言ったよな!まだ読んでるじゃねえか!」
「いえいえ、私はご命令通り心を読んでいませんよ。ただ、坊ちゃんの表情を見ていれば、考えていることが筒抜けです」
ダ、ダメだ。
異世界転生3年目にして、俺が前世持ちであることがバレてしまった。
いや、落ち着くんだ俺。
前世持ちであるのを隠すのが、ラノベのお約束事だが、バレてもそこまで影響はないはずだ。
そうだ、少し考えればわかることだろ。
3歳の子供が前世持ちだと知られれば、悪魔付きだとか異端者扱いされ、魔女裁判で火刑。
それともお前は大賢者の息子ではないと罵られ、この塔から捨てられる。
火刑コースの場合、3歳児のガギではどうやっても逃げようがない。
捨てられる場合、3歳で見ず知らずの場所に放り出されて、その後どうやって生きていけばいい?
詰んだ。
俺の人生、たった3歳にして詰んだ。
俺は顔面蒼白で、これから訪れる自らの破滅を呪った。
「坊ちゃん、灰色になってどうしたんですか?口から魂が出かかってるようですが、お体でも悪いのですか?」
「ハッ!」
いかん、いかん。
将来を悲観して、気を失っていたようだ。
クツクツ笑うメフィストはむかつくが、その声で俺は何とか現実に戻ってこれた。
「メフィスト、俺が前世持ちだというのは……」
「そんなの生まれた瞬間から知っていますけど、それが何か?」
「ちょっとまて。心読むどころか、俺が生まれた瞬間から知ってるってどういうことだよ!」
このイケメン執事野郎、次々に爆弾発言してくるな。
俺は自分の正体がバレていたことに、パニックになってしまう。
やっばり、火刑か捨てられちゃうんですか?
そんな俺の不安をよそに、メフィストは首をかしげて不思議そうな表情をする。
「そんなこと言われましても、坊ちゃんを見ただけで分かりますよ」
「もしかして俺が気づいてないだけで、実はこの体から翼でも生えてるのか?それがあるから、俺が前世持ちだって一発で分かるとか……」
パニックになったせいか、俺は自分でも明らかに見当違いなことを口走ってしまう。
翼なんて生えてたら、前世持ち以前に、もっと別の方向で周囲の人間に驚かれるだろう。
「実は坊ちゃんの背中には、黒い悪魔の羽が……」
「ゲゲッ、それじゃあ魔女どころか悪魔裁判に連れてかれて、火刑なのか……」
「おいたわしいことです。齢3歳にして火刑とは」
メフィストはポケットから白いハンカチを取り出して、目元を拭う。
涙なんて全く出てないのに、涙をふくふりなんかするな!
なんてうさん臭い。
と、メフィストのうさん臭い態度を見ていたら、少し冷静になってきた。
「今のウソだろ」
「あっ、やっぱりバレましたか?」
「ウソだったのかよ……」
「ええ、そうです。というか、こんなバカな話に引っ掛かるなんて、私としては主の頭が常人にも劣る程度しかないのではないかと、かなり不安になってしまいます」
こ、こいつ、俺をおもちゃにして遊んでやがる。
見た目がイケメンなせいもあって、マジで爆ぜちまえ。
お前が火刑にあえよ。
「爆ぜろ、燃えろ、もげちまえ!」
「坊ちゃん、口汚い言葉で人を罵ってはダメですよ。まあ、私は人間でないので、構いませんけど」
「えっ、人間じゃない?」
「はいそうです。私これでも、700年ほど前に、この世界の半分を支配していた魔王様にお仕えしていた高位魔族ですよ」
そう言って、メフィストはにこりと笑った。
「今度は騙されないぞ。お前また適当なこと言って、俺をおもちゃにするつもりだろ」
「失礼な、今度は本当ですよ。今は人間の姿をしてますけど……ほら、こうやって黒い翼も生えるでしょう」
メフィストの背中から、蝙蝠のような翼が生えた。
その姿が悪魔を連想させる。
「はっ、えっ、お前、人間じゃなかったのかよ」
「ええ、人間のふりをしているだけの悪魔です」
クツクツと再び笑うメフィスト。
ただし頭の上から2本の黒い角が生え、黄金の瞳が怪しく輝き、人間以外の生き物であることを強く強調する。
「私が、坊ちゃんが前世持ちであることに気づいた理由ですけど、私は御覧の通り高位悪魔。種族の特性から、相手の魂を見ることができましてね。それで一目見て、坊ちゃんの前世に気づいたわけです。ご納得いただけましたか?」
メフィストは笑っているが、その顔が既に人間のものでなく、完全に人外の化け物と化していた。
「……」
「あれっ?坊ちゃん、白目向いてお漏らしするのはやめてくれませんか。誰が後始末をしないといけないと思ってるんですか。もしもし、聞いてますかー?」
俺の意識はここで途切れた。
転生したら、マジ物の悪魔に出会ったでゴザル。
悪魔じゃなくて、ロリの女神様に出会うのが、転生物のお約束じゃないのか?