18 過去に世界征服をした大魔王のせいで、世界滅亡の危機到来!
血の人形2号が頑張るのを横目に、俺はフロア端から外の景色を眺めた。
魔王城玉座の間そのものと言った雰囲気のフロアだが、これまでの戦いで、既に原形をとどめていない。
床は消滅して、ここから2、3フロア下まで、上から眺めることができる。
下のフロアに、攻撃魔法がいくつも貫通したせいだな。
幸いと言うべきか、下の階は無人で、被害はなかった。
大賢者の塔を魔改造した際、用途のない飽きフロアがいくつもできて放置していたが、こんなところで役立つとは思わなかった。
そして、俺たちのいるフロアの壁は、とっくの昔にきれいさっぱりなくなっている。
向こう側にあるのは、真空の宇宙空間だった。
上を見上げれば、満天の星空。
大賢者の塔は、宇宙空間にまで伸びる超巨大な塔だ。
ここは塔の最上部のようだが、天井どころか、このフロアから上の部分全てが、戦闘のせいで消えてなくなっていた。
「ここ、宇宙だな」
なお空気に関してだが、今のところ俺は酸素に困ってない。
昔実験したので知っているが、俺は短時間であれば空気なしでも、宇宙空間で生きていられる。
不足するようなら結界魔法で周囲を囲ったのち、水魔法と雷魔法を使い、水を電気分解して酸素を作り出せばいい。
「……人間じゃねえな」
俺は自分が普通でノーマルだと思いたいが、確実に人間……いや、生物の領域を超えてしまってる。
そんな俺と似たようなレベルにある高位魔族たちも、真空の空間で元気に戦闘中だ。
声を出しても空気がないため、音が出ない。
なので、全員が”念話”と呼ばれる魔法を用いて、頭の中に響く声で会話し合いながら、戦闘を継続していた。
「飽きもせずに戦い続けるとは、元気な奴らだ」
連中の戦いぶりを眺めながら、巨大な穴が開いた壁の向こうを眺める。
宇宙空間が広がっているが、遥か眼下を見れば、俺たちの住んでいる星が見える。
ここからなら、星が丸いことが一目見ただけで分かる。
青い海に大気の青。
陸地の形こそ違うものの、まるで地球のような星だ。
その星の空に、黒いオーロラが多量に浮かび上がり、怪しく揺らめいていた。
俺の位置からだと、下方で大量に蠢いているオーロラを見て取れる。
地上から見れば、空に黒と言うより、闇のオーロラが蠢いている、不気味な姿を見て取れるだろう。
まるで世界最後の日だ。
もしくは魔王を超えた存在。大魔王が復活したかのような、異様な雰囲気だ。
「俺は何もしてないぞ」
一応言っておくが、俺たちの住んでる星で、黒いオーロラなんて発生しない。
少なくとも、自然現象としてそんなものが起きることはない。
ついさっき、血が足りなくなってハイになっていた俺が、新しい自分がなんとかかんとかとなっていたが、それと黒いオーロラは一切関係ない。
どうしてかなー、と思いつつ、俺はこの怪現象を発生させている原因の方を見た。
原因は、俺たちが戦闘中のフロアにいる。
「おのれ、裏切者のメフィスト、貴様だけは殺してくれよう」
「これはこれは大魔王アーデガスト・ギュディエスト様、お懐かしゅうございます」
さて、俺たちのいるフロアの一角では、未だにメフィストが理魔法・世界の上書きを用いて、地獄の最奥をこの世界に顕現させていた。
死んだ魔王たちをアンデッドとして蘇らせていたメフィストだが、その中の1体が、術者であるメフィストに反旗を翻したのだ。
見た目は、ドラゴンの骨の巨大アンデッドだ。
「忠実な下僕を装いながら、我が王国に滅びをもたらした。裏切者の貴様には万死を!」
「いいえ、大魔王様。私はあなたを裏切ってなどはおりませぬ」
「ほざけ、この痴れ者が!」
何やらとても厄介な取り込み中のようだ。
アンデッド大魔王が怒るとともに、空から雷鳴がとどろいてメフィストの体を撃った。
雷の一撃でメフィストの着ている執事服の端々が黒く焦げるが、メフィスト当人にダメージはほぼない様子。
「なに、我の魔法に耐えたというのか」
「いやはや、どうかお怒りを収めていただけないでしょうか、大魔王様」
「……」
相変わらず、にこやかな顔をしているメフィスト。
かつては俺の祖父の魔王に仕えていたメフィストだが、当人は古い魔族であり、その人生(魔生?)は人類の歴史とほぼイコール程度にあるらしい。
ちょっと何言ってるのか分からないなーってくらい長生きしている魔族だが、クレトの方も、似たようなものかそれ以上に長く生きてるらしい。
そんなメフィストは、俺の祖父の魔王以外にも、様々な魔王に仕えたてきたそうだ。
それだけ生きてたら、魔王に何度も仕えていることがあっても不思議でない。
魔王は過去の歴史上何度も出現した存在であり、俺の祖父が唯一の魔王というわけではない。
そんなメフィストと話している相手、メフィストが大魔王アーデガスト・ギュディエストと呼んだが、この名前を俺は知っている。
と言っても、当人と直接の面識があるわけでなく、大賢者の塔にある資料の中で見た魔王の名前だ。
なんでも、今の文明が栄えるよりも2つ前の文明、先々史文明の時代は、魔導科学が非常に発達していた時代で、空飛ぶ戦艦や浮島が存在していたらしい。
その時代にもメフィストはいたわけで、当人曰く、
「主の前世の知識にある天空の城が、多量に飛んでいた時代と思っていただいて結構です。ちなみに、天空の城が装備していた雷兵器も搭載していたので、当時の文明がどれだけ進んでいたのか、そして危険な戦力を有していたかもご理解いだだけますね」
とのこと。
メフィストの奴、子供の頃の俺の頭の中を読んで、いろいろ知識を蓄えてやがる。
それはともかく、天空の城がたくさん浮かんでいる状況を、ファンタジーと捉えるだけでは危険だろう。
ひとたび戦争が起これば、核兵器並の威力を持った兵器を使った戦いが始まり、その応酬で世界が滅びるんじゃないかってレベルだ。
それほど進んでいた時代に終末をもたらし、その後魔族による千年王国時代を築いたのが、大魔王アーデガスト・ギュディエスト。
通常の魔王が魔族の王止まりで済んだのに対して、大魔王は世界を完全征服し、魔族による支配国家を打ち建てた存在だ。
当時の高度な科学文明も、人間の国も、エルフや獣人たちの国も、全て滅ぼし、世界で唯一の国家の主となった大魔王だ。
そんなヤバすぎる大魔王が、今メフィストの前にいた。
当人が故人なので、その姿はアンデッドになり果てているが、俺の祖父の魔王程度とは、格が違い過ぎる。
おそらく歴史上に存在する魔王の中で、トップクラスの実力を有する存在だ。
そんなのに仕えていたとか、メフィストもそうとううさん臭い魔族だな。
今更だけど。
「私は大魔王様を裏切ってなどおりません」
「……」
俺の見ている先で、メフィストと大魔王アーデガスト・ギュディエストの会話が続いていく。
メフィストの申し開きに対して、大魔王は静かに言葉を聞いているように見える。
「私は、あなた様に対して心底お仕えしてまいりました。魔族を従え、世界を統一し、神々の干渉を排して、あなたは世界に千年王国を開いてくださいました。そのことに、とても感謝しております。ええ、とてもね」
そこでメフィストが、にやりと笑った。
何か企んでいることが、まるわかりの笑顔。
あいつ、本当にろくな性格してないなー。
俺のことも、絶対何かに利用してるよなー。
とは思うが、俺は当人同士の争いの場に、今のところ口をはさむつもりはない。
黙って聞きに徹する。
「ですが、あれだけお仕えしていたのに残念です。大魔王様では、世界から神の干渉を排することは出来ても、神殺しにまでは至れなかった。本当に、役に立たないお方だ」
メフィストが神殺しとかいう、とんでもないことを口走った。
そして場の空気が変わった。
俺が体内の魔力を解放した際、このフロアにあった空気が質量を増して重くなったが、その時とよく似た変化だ。
既にこの場は真空状態で、空気はなくなっている。
けれど、明らかに魔力による圧力が増す。
「メフィスト、貴様、我をとことん愚弄するか!」
「私はあなたに目をかけ、誠心誠意仕えてまいりました。でも、肝心なところで役に立たなかったので、処分させてもらいました。私はあなたを最初から利用していたので、裏切りなんて働いてませんよ。フフフッ、死者は大人しく、墓の下で寝ていてもらいましょうか」
「この痴れ者が!わが眷属よ、こやつを引き裂け!」
膨大な量の魔力が舞った。
しかし、メフィストのろくでもない過去話を聞いてしまった。
俺も既にメフィストの手のひらの上で、いいように踊らされているのだろうか?
本当、こいつってろくでもない魔族だ。
でも、こいつがいないと大賢者の塔の管理が大変になる。
この奇人変人の塔からメフィストがいなくなると、俺にかかるストレスが確実に増えてしまう。
なんだかんだ言っても、メフィストは副管理者としてかなり有能だからな。
俺の胃のためにも、メフィストを切り捨てるというのは無理だな。
ところで、大魔王が放った膨大な魔力だが、それによって眼下で不気味に蠢いている黒いオーロラに変化が起きた。
「どれどれ、何をしたのかな」
と、俺が遥か下方に広がるオーロラを眺める。
通常の視力ではよく見えないので、身体強化魔法にプラスして、サーチ系の魔法に分類される”遠見”の魔法も併用した。
その結果、オーロラから湧き出るようにして、魔族たちが現れていた。
アンデッド化した高位魔族に、骨だけのドラゴン。
頭が3つあるキメラ種のモンスターに、翼を持つのはハーピーに……サキュバスもいるな。
この世界のサキュバスだけど、ゴブリンの顔の方が遥かにマシに見えるくらい、醜い顔をしている。
メフィストたち魔族は、「とても美人だ」と評しているが、俺の審美眼では、あれはゴブリンよりヤバいモンスターだ。
地球で言われるような、サキュバスイコール美人ではない。
オッパイは大きいが、それ以外は見た目の酷い化け物モンスターだ。
そんなサキュバス以外にも、様々な種類のモンスターが、オーロラから出現していく。
かつて世界を征服した大魔王の魔力は絶大であり、黒いオーロラを世界中に展開させるだけでなく、そこから魔族やモンスターまで生み出せるらしい。
「メフィストー!」
と、塔にいる大魔王は大激怒中だ。
そんな大魔王の激怒に合わせて、闇のオーロラから生まれたモンスターたちが、俺たちのいる大賢者の塔最上部を目指して、翼で飛んでくる。
数を数えるのが馬鹿らしくなるほどだ。
まるで星を覆いつくさんがばかりの数で、モンスターと黒のオーロラによって、星の空が黒一色に染まったと、勘違いしそうになる。
「でも、ここって真空だから、翼で飛んでくるのは無理だな」
空気のない場所では、いくら翼を動かそうとも飛ぶことはできない。
物理法則で考えれば、そうなるはずだ。
ここにモンスターの大群が来るのは不可能。
とはいえ、大魔王の力によって世界中にモンスターがばら撒かれている現状を放置するのはマズイ。
俺は世界征服も破壊もしたくない人間だし、地上がモンスターパラダイス化してしまい、人間の文明が終焉しましたなんて結末も望んでいない。
「星魔法・星の輝き」
と言うことで、眼下の敵を殲滅するとしよう。
俺が使ったのは星魔法中位。正確には中の下あたりに分類される魔法、星の輝き。
魔法の発動とともに俺の手から白い星が飛び出していき、それが眼下に広がる空で砕け散る。
星が砕け散ったのち、砕けた欠片から多量の光が飛び出した。
いつもの事なのであれだが、俺の魔力量が馬鹿みたいにあるせいで、星の欠片から飛び出した光は、直径100キロほどの太さがある。
「おかしいな。前はもっと細かったはずなのに……」
どうも、先ほど生まれ変わっただなんだのせいで、俺の魔力量がさらに増してしまったらしい。
……大気圏って、確か100キロくらいしかないよな。
あの光が地上すれすれを飛ぶと、それだけで大地が蒸発してしまいそうだ。
そんな大地を蒸発させる光が、星の欠片から次々に飛び出していく。
空を黒一色に染め上げるモンスターの大群を塗りつぶさん勢いで、空がスターライトの白い光で溢れていく。
空を覆うようなモンスターの大群を殲滅しようと魔法を使ったら、それが世界最後の日になりましたでは大変マズイ。
そんな俺の危惧を無視して、欠片から飛び出した光は、空を飛んでいるモンスターの大群を薙ぎ払い、消し飛ばしていく。
飛び出した光は、モンスターを消し去りつつ直進を続ける。
直進した先で別の欠片にぶつかると、まるでガラスが光を乱反射させるように、スターライトの光も乱反射して、複数の方向に分かれて飛んでいく。
乱反射した光が直進していき、さらにモンスターの大群を消滅させていく。
「……地面に飛ばないように調整して撃ったし、大丈夫だよな」
モンスターの大群より、俺の使った魔法の方が遥かに危険すぎる。
眼下で、スターライトの光が乱反射を続けることで、次々にモンスターを消し飛ばしていく。
空を黒一色で染めるほどいたモンスターたちは、瞬く間に消えていった。
だがそんなモンスターの事より、俺は心の中で「とにかく地上に向かって飛ぶなよ!世界最後の日の引き金を引いたなんてことになりたくない!」と、とにかく乱反射するスターライトの光が、地面へ飛んで行かないことだけを強く祈り続けた。
そんな俺の祈りが通じたようで、スターライトの光は地面に命中することなく、やがて魔法の効果を終わらせた。
「よかった、世界最後の日にならなくて」
俺は全身から冷や汗を流しつつも、世界が終わらなかったことに安堵した。
今の魔法で、モンスターの5から8割は消し飛ばした。
残りがまだいるが、あれが宇宙空間まで辿り着くことはない。
行き場を失ったモンスターの生き残りが、地上に跋扈してしまうかもしれないが、それは地上にいる人々に何とかしてもらおう。
俺が殲滅しようと広範囲攻撃魔法を撃つと、今度は誤射で世界が滅びかねないからな。




