13 大賢者の塔リフォーム 7
クレトのカオスでバカな地獄フロアを見て回った後、俺たちは親父の生前から使われているフロアを見て回った。
そもそも大賢者の塔は親父が建てた塔であり、本来の目的は魔導の研究にあるといっていい。
魔族が住み着いているのは、あくまでもおまけだ。
そのため、塔内には魔術の研究フロアが存在する。
親父も大賢者として魔術の深淵を究めんと研究する一方、1人ではできることに限りがあるため、数多くの賢人が塔に招かれていた。
その多くは人間の魔術師だが、中にはドワーフやエルフ、獣人などもいる。
変わり種では、魔族も参加していた。
もっとも、魔導の深淵を覗くためには人間の寿命では足りないと考え、リッチやエルダーリッチとして転生し、亡者になり果てて研究を続けている連中もいた。
非常に研究熱心なことだが、魔法キチな性格の連中が多く、常人がコミュニケーションをとろうとすると、非常に苦労させられる。
「偉大なる魔導の神よー」
とか言われて、俺の前で五体投地してくる奴もいるほどだ。
それも複数で。
精神病んでないか?
こっち見んな。
目がイッてて、かなり怖いぞ。
魔導の神なんて知らないぞ。
俺としては、魔法キチの極みにいるような連中は、勘弁してほしい。
「主の魔力量を考えれば、我々魔族から見ても、神のようなものです」
「俺、ただのニンゲンだから」
「それ、本気で言ってますか?」
メフィストに何か言われたが、こいつは一体何を言ってるんだ。
俺は普通だ、ノーマルだ。
変人どもがはびこる塔内で、数少ない常識人だぞ。
あと、魔法キチの中には、魔導の深淵を覗こうと、悪魔と取引して魂を差し出したなんて、物騒極まりない奴もいる。
魂を差し出したら、真理の扉とやらが目の前に現れて、扉をくぐるとこの塔にいたそうだ。
「おお、ここに集うは深淵の叡智。集う賢人たちは、神と悪魔の領分をも犯して、混沌の最奥へ至らんとするか……」
悪魔も何考えてるんだろうな。
ただでさえ奇人変人オンパレードの場所に、厨二病患者まで連れて来られても困る。
そんな魂を差し出した厨二病患者だが、この前頭が18本もある、キメラドラゴンを作って喜んでいた。
「これぞ至高の生物。この頭一つ一つは、それぞれ最上級の魔法を使いこなすことができ……ウギャーッ」
まあ、その後作ったドラゴンに、頭をパクリと食われていた。
頭なし死体が1体できてしまったが、ゴブリン衛生兵がやってきて、謎注射を打って事なきを得た。
ゴブリンの時と同じで、頭でも再生する蘇生薬だからな。
でも大丈夫だろうか。あの薬の副作用には、ハッピーになる効果がある。
「死の世界を垣間見た」
厨二病患者は、その後悟りを開いたとかなんとか言って、ひたすら瞑想するようになったし……
こうして日々、賢人と変人によって魔導の深淵とやらが研究されているが、一方で科学技術の研究も盛んだ。
理由は単純で、親父が異世界から超文明の遺産を拾ってくるから。
ドワーフ連中を中心に、異世界の超文明の遺産を分解・解析し、技術の模倣をしたり、新たな発明につなげようとしている。
研究成果は上々で、可愛いところでは太陽電池付きの電卓の量産化に成功して、塔内の様々な場所で役立てられている。
商業フロアでの売買や、魔法・科学研究での計算。
戦争ゴッコの際にも、武器弾薬の残量の計算などで役立っている。
一方、可愛くないレベルになると、
「この超高出力マイクロウェーブ照射機を用いれば、大都市であっても一瞬でレンジでチン。都市中の人間を一瞬で、殺すことができますぞ。人間でも、獣人でも、エルフでも、なんでもゴザレ!」
「どこが何でもゴザレだ!」
親父が拾ってきた超文明の遺産を元にして、とんでもない大量殺りく兵器を作り出している。
魔導の研究者に魔法キチが多ければ、科学の研究者にはマッドサイエンティストが多い。
こいつらは基本、自分が作ってみたいものを作りたいという理由だけで、研究を始めてしまい、事の善悪を全く判断しようとしない。
おまけに、完成すれば実際に使ってみないと気が済まない。
そんなマッドどもと、非常に相性のいい奴がこの塔にはいる。
「大変面白い兵器ですね。ところで質問ですが、この兵器を人工衛星に取り付けて、地上の都市を攻撃することは可能でしょうか?」
「やれないことはないが、人工衛星に搭載すると、エネルギーの問題から一発で打ち切りの、使い捨て兵器になるぞ」
「ふむ。それでは数で補うとして、200機程度用意すればいいですかね。椅子に座ってコーヒーを楽しみながら、ボタンひとつで、世界征服が完了しそうです」
メフィストの奴が、マッドと喜々として会話していた。
なお、賢者の塔の最上階は宇宙空間にあるので、わざわざ地上からロケットで人工衛星を打ち上げる必要がない。
最上階辺りから、宇宙空間に人工衛星を放るだけでいい。
「お前ら、世界征服は禁止だ。大量殺りく兵器も没収」
「ヌオオオッ、ワシの努力の結晶がー」
「チッ、主は相変わらず頑固ですね。さっさと魔王を名乗っていただければいいのに……」
人類の気づかない所で、世界征服の下準備が始まろうとしていたが、俺が止めておいた。
ただ、俺の認識が甘かったようで、
「照射!」
後日マッドの1人が、超高出力マイクロウェーブ照射機Mk.2を開発して、それを北の山脈に向けてぶっ放した。
幸い、山脈に住んでいるドラゴンたちは、ちょっと暑いなと感じた程度。
竜の鱗がマイクロウェーブを無効化したようだ。
「この程度の出力ではドラゴンは死なぬか、ならば次は出力を上げるために、エネルギー問題の解決から……」
「物騒な兵器の改良をするなよ……」
マッドは挫けずに、頑張っていた。
その熱意を、もっと平和な技術開発に向けてくれればいいのに。
俺としては勘弁してほしいばかりだ。
大賢者の塔に集まっている研究者たちは、もともと親父が集めた連中だ。
2代目大賢者である俺は、そんな連中のトップに立たないといけない。
ストレスで俺の胃に穴が開くぞ。
この塔には、まともな常識人がいないのか。
俺の胃に優しくない研究部門の数々。
あとは塔内に、鉱山フロアや農業フロアなど、様々な設備があるが、それら一連の施設を視察して回った。
塔の魔改造後の姿を確認し終え、俺たちは最後に残ったフロアへ向かう。
「最後のフロアは、我々の力作です」
「うん、凄く頑張ったよねぇー」
俺は最後のフロアの詳細をまだ知らないが、フロアに入る前からメフィストとクレトの2人が自信満々にしている。
「私も協力した。エッヘン」
イリアは成長途上で、未だに膨らみが全くない胸を張って、偉そうにする。
「クリスも協力したのか?」
「僕は、魔力が足りなかったので……手伝いに入れませんでした」
俺だけでなく、クリスも最後のフロアの詳細は知らないとのこと。
フロア内の設定をダンジョンコントローラーで操作するには、魔力が必要になるが、クリスの魔力量では無理だったそうだ。
しかし、クリスが戦力外と言うことは、魔力をバカ食いして、最後のフロアを作ったことになる。
「一体どんなフロアを作ったんだろうな?」
この時の俺は、好奇心から最後のフロアのことを楽しみにしていた。
もちろん、そんな俺の期待は木っ端微塵に消し飛ぶけどな。




