10 大賢者の塔リフォーム 4
「我らゴブリン軍団、祖国の自由と平和を守らんがために、この地を死守する」
「ウオオオオーッ、祖国に勝利をー!」
砲弾が飛び交い、灰と硝煙の香りに満たされた戦場。
ゴブリン兵士たちが、戦場を右に左にと大活躍。
舞台は完全に第一次大戦の戦場だ。
「味方の飛行戦艦が落とされたぞ!」
空中に浮かんでいた飛行戦艦……と言っても、天空の城に出てくるような重装備の飛行戦艦でなく、装甲など施されていない空中飛行が可能なだけの飛行船……が、船体を真っ二つにしながら墜落していく。
「クッ、なんてことだ。敵の装甲列車が到着してしまった」
線路上を走ってきた装甲列車は、巨大な大砲と、車体左右に大量の銃座を備え、戦場を圧倒的な武力で支配した。
大量に吐き出される弾薬に、大砲からの砲撃は一撃で大地に大穴を作り出す。
「やったぞ。爆薬で装甲列車が吹っ飛んだ。ざまーみやがれ!」
だが、装甲列車の活躍も一瞬。
車体下部に設置された爆薬によって吹き飛ばされる。
「装甲車に続いて突撃せよ―!総員突撃―!」
「死して祖国の礎となれー!」
ライフルを持ったゴブリン兵士たちが命令一下突撃するが、それと敵対する別のゴブリン軍団がライフルを放ち、ガトリング砲の弾幕で、次々にゴブリン兵士たちを殺戮していく。
初期の戦車である装甲車が、分厚い鉄の装甲にて敵の弾をはじき返しつつ前進するものの、手投げ弾が放り込まれて、爆発炎上する。
「ど、毒ガスだ。ガスマスクを装着しろー!」
「し、死にたくない」
さらにはゴブリン兵士たちの足元に毒ガスがばら撒かれ、ガスマスクの装着が遅れたゴンブリン兵士たちが、次々に息絶えていく。
戦場がゴブリンたちの死体であふれかえり、やがてすべての戦いが終結した。
「さあ、死んだ皆さんにはお注射チックンしますね」
その後、どこからか現れたゴブリン衛生兵が、打つとハッピーになれる謎注射を、戦場に倒れるゴブリン兵士たちに手際よくぶっさしていった。
「ヒャッハー、俺はまだ戦える」
「お花畑だ、お花畑で俺はチョウチョになる」
「ウフフ、ラララ―」
死んでいたゴブリン兵士たちが、息を吹き返して蘇る。
中には手足が吹き飛び、頭が潰れたゴブリン兵士もいたが、謎注射効果でハッピーになりつつも、体の欠損全てが修復され、蘇っていた。
カオスだ。
相変わらずカオスすぎる。
「近代兵器のオンパレードに毒ガスとか、ここは地球なのか?俺は第一次大戦の最中にタイムスリップしたのか?」
第一次大戦当時は、まだ毒ガスに対する禁止条約がなかったため、どの国でも使いたい放題だった。
第二次大戦当時においては、条約によって禁止されていたものの……いや、そんな御託はどうでもいいな。
「わー、楽しそうだねぇ。あの空を飛んでる飛行戦艦に乗ってみたーい」
「私も乗る」
こんなカオスの場でも、相変わらず能天気なクレトと、それに毒されたイリアが、嬉しそうにしていた。
さて、大賢者の塔の魔改造によって、今回一番の目的である戦争ごっこ専用のフロアを作った。
防音対策も完璧で、次元魔法によって他のフロアから隔離されているため、このフロアの音が外部に漏れだすことは完全になくなった。
「それはいいが、この兵器の数々って……」
「もちろん大賢者のゴミ拾いの結果です」
「ああ、うん。やっぱり親父が原因なんだ……」
メフィストに冷静に言われたが、親父はどこまでやらかしているんだ?
今の大賢者の塔の戦力なら、第一次大戦当時の戦場に殴り込みをかけられる戦力がありそうだ。
封印の間の超兵器を使えば、殴り込みどころか、現代の地球も征服できる過剰戦力だが。
「ちなみに航空飛行母艦なるものを、”この前”異世界の海から拾ってきたそうで、大量の艦載機が載っていました。新たに空戦ごっこもできますよ」
「そうなんだ……」
親父が自由人過ぎて、もはや驚きを通り越して、何も感じなくなってしまう。
てか待て。
「メフィスト、”この前”って言わなかったか?」
「はい。死んだ後にも異世界に行っていたようで、またしても超文明の遺産を拾ってきました」
「親父、ボケて異世界にまで徘徊に行くとか、止めてくれよ……」
「あの大賢者ですからねぇ」
親父が自由人過ぎて、マジで困る。
死んでも生前と変わらない姿で徘徊しているのは知っていたが、その徘徊先が異世界にまで及んでいるとか、どこまで規格外で常識知らずなんだよ。
俺だけでなく、さすがのメフィストも、呆れてるぞ。
「兄上、父上を止めるのは無理ですよ」
「うん、知ってるから」
俺としては親父に徘徊をやめてもらいたいが、クリスに言われるまでもなく、あの親父を止める手立てはない。
拘束魔法程度では抵抗されて全く意味がないし、成仏させる方法も散々試して、全て失敗した。
悪魔であるメフィストには大反対されたが、大天使の降臨術を用いて、大天使を召喚し、何とか親父をあの世に連れて行ってもらおうともした。
だけどさ、
「すみませんが、この人はこちらでも引き受けきれないので無理です」
きっぱりと断られ、大天使はそのまま天界へ帰っていってしまった。
前世で、ボケ老人が介護施設に受け入れ拒否されることがあるという話を聞いたことがある。
まさかこの世界で、大天使から似たような宣告を受ける羽目になるとは……
「はあっ、これからも俺は親父の奇行に付き合っていかないといけないのか」
俺は魔力量では親父といい勝負できるくらいあるのだが、まったく勝てるビジョンが浮かばない。
親父のことはひとまず置くとして、今回の主目的である戦争ごっこ用のフロアの防音化は成し遂げた。
「それじゃ、次のフロアに行くか」
てなわけで、俺たちはさらにリフォームした塔のフロアを、見て回ることにした。
次にやってきたのは、広大なフロアの中に、活火山、海、密林、山脈の4つのエリアがある。
このフロアは特別で、ダンジョンコアを操作して、魔物が出現するように設定されている。
モンスターたちは各エリアの特徴ごとに、スポーンするようになっている。
活火山エリアでは、炎の精霊や不死鳥などの炎系統のモンスター。
海エリアでは、シーサーペントに巨大一角クジラといった海洋モンスター。
密林エリアであれは、アナコンダや竜蛇と呼ばれる巨大蛇モンスター。
山脈エリアでは、ロックゴーレムと呼ばれる岩系モンスターに、巨大人型モンスターのジャイアントなど。
そして、それぞれのエリアの最奥には炎、水、風、大地を司る、属性ドラゴンがボスとして君臨していた。
本物のダンジョンだ。
俺がゲームを作っている気分になったのが原因で作った、RPG風冒険フロアだ。
なお、各エリアのボスドラゴンを倒すと、次のフロアへの入り口となる階段が出現するのだが、次の階に行っても何もない。
「このフロアを作り終えたところで、飽きたんだ」
という、もっともな理由によって、製作が終わってしまったのだ。
俺にゲーム制作者としての、根気と粘りはなさそうだ。
1フロア作った時点で、やる気が全てなくなったぞ。
「兄上、このフロアって何か意味があるんですか?」
そんな俺に疑問を投げかけてきたのはクリス。
「いや、何もない。単に趣味で作っただけだ」
「「……」」
あっ、クリスだけでなく、メフィストからも冷たい目で見られた。
「意味がないなら、壊してもいい?ドーンと派手に一発やっちゃおうか?」
「楽しそう。フフフッ」
あまつさえ、クレトとイリアの2人は、俺が時間をかけて作り上げた冒険フロアを破壊しようとしてくる。
「やめろ、ここは俺の努力と趣味が詰まったフロアだぞ。このフロアを破壊されたら、俺は泣くぞ!」
ガチで止めに入る俺。
「ええーっ、主ってつまらない趣味してる」
「アーヴィンお兄様、さすがにこれはちょっと……」
なぜか、普段問題ばかり起こしているクレトと、同類であるイリアから、俺はダメ人間のように見られてしまった。
クッ、なんて屈辱だ。
よりにもよって、この2人からそんな目で見られるとは。
「ロマンの分からない奴らだな」
だが、ここで負けないぞ、俺は。
「アーヴィン様のロマンは、私も理解しかねますね。オカマカフェといい、このフロアと言い、まったく理解できない」
「グハッ」
このフロアだけならまだしても、例のオカマカフェのことをメフィストに言われて、俺はこの場に崩れ落ちそうになった。
ダ、ダメだ、ここで倒れるな、俺。
あれは俺の趣味ではない。
やつらの性別に気づかなかったせいで、地獄の扉を間違って開けてしまっただけなんだ。
このまま勘違いされては、俺の沽券にかかわる。
「あ、兄上がどんな趣味をしてても、僕はいいと思います。その、趣味は、人それぞれ、ですし……」
だが、俺が反論する前に、クリスに気を使われてしまった。
でも、かなり途切れ途切れのセリフで、無理をしているのが分かる。
なんか俺、痛い子扱いされてない?
泣くぞ。




