9 大賢者の塔リフォーム 3
「よし、みんなで塔を一回りしてみるか」
大賢者の塔の魔改造が一通り完了した。
俺は塔のサブ管理者である、クリス、イリア、メフィスト、クレトを連れて、塔内の視察をすることにした。
最初にやってきたのは、俺が作った商業フロア。
基本形を作ったのは俺だが、その後クリスが細かい部分を手直ししてくれている。
街の中心に大通りを敷き、左右に白亜の大理石でできた建物が立ち並ぶ。
大理石を多用したせいで、商業フロア全体が白く眩しい。
通りは魔族を中心に、塔の近隣の住人である、エルフや獣人族、それに人化したドラゴンの姿などがある。
また、魔族と同じく塔に長年住みついた種族には、ドワーフや精妖精族などもいるため、そんな彼らも通りを歩いていた。
なんと素晴らしいファンタジー世界。
街行く様々な種族を見ていると、ここが改めてファンタジーの世界だと実感させられる。
剣と魔法の世界。
「親方、俺が作った剣を見てくだせえ」
「バカ野郎、こんななまくら剣じゃゴブリンも斬れねぇぞ」
商業フロアの一角では、カーンカーンと鉄の叩く音がして、武具が鍛えられている。
そこで働くドワーフの職人たちが、大声でどなり声をあげていた。
「この皮は質が悪いから、買い取るなら銀貨1枚分値引きだね」
「ちょっと待ってくれ、これは大森林の奥に住む巨大リザードマンの皮だぞ。いくら何でも銀貨1枚も値引くのはひどすぎる。そんな価格じゃ売れないぞ!」
魔物の皮の価格を巡って、言い争いをしているのは女魔族の店主と、皮を売りに来たエルフ。
「りんご飴」
「はいはい、イリア様」
「ん、ありがとう」
あと、イリアが出店で普通に買い食いしている。
今回は視察が目的なのだが、まあ、いいか。
我が妹は悲しいことに親父の腹ペコ属性を引き継ぎ、食欲旺盛な性格になってしまった。
やたら糖質と炭水化物の類を摂取するが、なぜか太ることがない。
太ることがないが、ついでに年齢にしては身長が低く、相変わらずロリな見た目をしていた。
12歳ならギリギリロリの範囲に入るだろうが、イリアの身長のだと、ギリギリという言葉をつける必要がなかった。
もっともそんなイリアに、クリスは身長でもちょびっとだけ負けていた。
我が兄弟最弱にして、身長も最下位なのがクリスだ。
弟妹のことはいい。
商業フロアの賑わいを見ていると楽しいな。
お、あそこの店で売っているのはもしかして……
「安いよ安いよ。今なら鉛弾1000発に、バズーカの弾も1発おまけしちまうよー」
ゴブリン店主が、売り文句を叫んでいる。
「……おい、なんで鉛玉なんて物騒なものを売ってるんだ?」
「旦那、ライフルもバズーカも弾がなきゃ使い物にならない。当然の事だろう」
「いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて……」
なんでだよ!
剣と魔法の世界はどこに行った。
思い切り近代兵器を売りつけてやがる。
ここはアメリカか!
俺は異世界でなく、ホームセンターで銃を買えるアメリカに転生したのか!
俺はここ最近、戦争ゴッコをして遊んでいるクレトの方をつい無言で見た。
「この店品ぞろえが悪いね、地雷がないや」
「やめんか!地雷は撤去が面倒で、後始末で死人が出るほど危ない兵器だぞ。そんなものを売り出すのは俺が認めん!」
「ケチー」
「ケチじゃない!このアホが」
さようなら、剣と魔法の世界。
ようこそ、剣と魔法と近代兵器の世界。
俺の中の異世界情緒が、まとめてふっ飛ばされてしまった。
「商業フロアで銃火器と弾薬を売り出すのは禁止だ。販売禁止の禁制品リストを作らないといけないな」
「承知しました我が主。ですが、人間の国でも近年はライフルが実用化されてるので、ライフルと弾くらいは売ってもいいのではないですか?」
「えっ、マジで!?」
「マジです」
メフィストに言われ、結局ライフルと弾の販売を禁止させることまではできなかった。
むろん、バズーカや地雷はさすがに禁止だが。
しかし異世界情緒、マジでどこに行った。
商業フロアには、相変わらず地球に存在しない多種多様な種族が行き来している。
だけど、俺はひょっとしてアメリカに転生したのではないかと、少しばかり疑ってしまった。
そんな商業フロアだが、とある一角に、またしても異世界情緒をぶっ壊す施設があった。
メイドカフェだ。
「俺、メイドカフェに行ったこと、一度もないな」
なぜメイドカフェなるものが、この世界に存在しているのかはなはだ謎だ。
だが、なぜか商業フロアの一角に、メイドカフェがあるんだよ。
俺、前世含めてメイドカフェって行ったことがない。
カフェの窓際に水色の髪をした可愛い女の子がいたが、その女の子と俺の視線が偶然合った。
女の子が笑顔になって、手を振ってくる。
「よし、行ってみるか。これも視察だからな」
そう、これは大賢者の塔の魔改造後の姿を確認するための視察だ。
俺の心にやましい思いなど何一つない。
決して、女の子の笑顔につられたわけじゃないからな。
「メイドって、普段僕たちの世話をしてくれてますよね?」
「わざわざメイドがいるカフェに行く理由が分からない」
クリスとイリアの2人が不思議そうな顔をするが、この2人には分からないことなのだ。
そう、俺たちは魔王の孫であり大賢者の息子として、数多くの執事やメイドたちに普段から囲まれる生活をしている。
まるで王侯貴族か、金持ちのボンボンみたいな高待遇だ。
そんな2人にとって、メイドカフェとは、存在理由そのものが理解できないのだろう。
だがしかし、俺の前世の記憶は告げる。
『行け、漢の浪漫へ!』
と。
「フッ、クリスとイリアには、漢の浪漫が理解できないようだな」
オコチャマな弟妹に、俺は大人の漢として鼻で笑う。
「私にも理解できませんが」
「僕もわかんないやー」
追加で、魔族のメフィストとクレトにも理解してもらえなかった。
「ムグッ」
誰からも理解を得られない。
さすがに、俺の旗色が悪いな。
だが、視察と言う名目があるので、俺はそのまま一行を引きつれて、メイドカフェと言う名の浪漫の場へ向かった。
――カランカラン
浪漫の扉を開けると、ベルの音がした。
「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」
そして野太い声がした。
それもたくさん。
よく見ると、さっき俺に笑いかけてくれた水色の髪の女の子も、変わらない笑顔で俺を見ていた。
でも、喉に喉仏が付いてないか……
――バタンッ
俺はたった今開けた、地獄の扉を閉めた。
「ここに浪漫はない。ここは地獄だ。営業許可を今すぐ取り消せ!」
あの店内、店の奥にゴリラのように筋骨隆々の姿をした、マッスル姿のメイドまでいた。
いや、あの場にいた全員をメイドと認めてはならない。
「奴ら全員、オカマかよ!クソウ、俺の夢と希望を弄びやがって!」
こんな店、今すぐ俺の権限で取り潰しだ。
大賢者の塔の主である俺が、この店の存在を断固として許さない!
「フッ、見た目に惑わされるとは、主も浅はかですね」
そんな俺は、メフィストに鼻で笑われてしまった。
畜生が―!
なお、これは完全に余談だが、メイドカフェと言う名の地獄は俺の権限で営業停止にし、商業フロアから追い出した。
が、その後塔内の別の場所にて、俺の目を逃れて地下営業を再開した。
「チョコチップクッキー、ミント味」
なぜかその店にイリアが出没し、商連客になっていたとかいないとか……
そんなうわさ話が、後日俺のもとに届いたが、俺はそのことをきれいさっぱり忘れることにした。
世の中には、知らない方がいいことが多い。
あの地獄が存続しているというだけでも悪夢なのに、俺の妹がまさか常連で通ってるわけないよな。
……俺には、真実を知るだけの勇気はない。




