プロローグ
まえがき
1章が終わった段階で、主人公は魔神王になります。
ジャンル詐欺が激しすぎたため、ファンタジーからSFに変更しました。
第2章-βまではファンタジー要素がメインですが、以後SFにとって変わられます。
なお途中でジャンルを変更したことで、一部まえがき、あとがきにおいて、辻褄の合わないことを書いている場合があるのでご注意ください(本編には影響ない程度の話です)。
(2019/11/1)
昔々あるところに偉大にして、至高にして、崇高にして、究極にして……面倒臭過ぎるので中略して……邪悪な魔王様が存在しました。
魔王様は悪の大王の法則という名の定番にのっとって、魔王軍を組織。世界征服を開始しました。
「魔王たるもの、ここは人間の国の美しき姫をさらい、かどわかしてこそ惡の華というものよ」
世界征服ついでに、美人で知られている姫を攫うため、人間の国の王城へ魔王様自ら突撃訪問。
城の兵士たちが次々に現れますが、魔王様の前ではそのような塵芥の存在など取るに足りません。
千切って投げる必要すらなく、魔法によって次々に立ちふさがる兵士の命を刈り取ります。
なお、王城に単独で乗り込めるくらい強いなら、
「姫なんて攫ってないで、とっとと国王殺せよ」
なんて、言ってはいけません。
そんなことを口にすれば、
「お約束という名の伝統を守らずして、何が魔王かー!」
なんて怒鳴られて、存在消去魔法で、体の半分くらい消し飛ばされてしまいます。
ああ、思い出しただけでも、あの時体をぶっ飛ばされた痛みが蘇ってくる。私以外の者に存在消去魔法なんて使ったら、死んでいますよ。
……
と、私のことは関係ないので、昔話を続けましょう。
魔王様は人間の姫を城から攫いだし、自らの居城である魔王城の一室に、姫を閉じ込めました。
「おい、美人と有名で、肖像画も見たが、絵と本物が違い過ぎるぞ!」
不細工ではなかったものの、姫の容姿は可もなく不可もなく、普通というやつでした。
ただ、どちらかというとぽっちゃり体型だったので、安産が望めそうなのがよいところ。
魔王様は肖像画と現実の前に、文句タラタラ。
とはいえ臣下としては、魔王様にとっととやることやってもらって、姫に健やかなるお子様を懐妊してもらいたいのです。
王の責務を果たしてもらわないと困るので、臣下一同団結して、魔王様にとっととすることをしてもらいました。
こうして姫は無事にご懐妊、お子様が誕生しました。
めでした、めでたし。
え、それのどこがめでたいのかですって?
臣下としては、主君が子を作られることこそが、もっともめでたいのです。
これ以上めでたい話が、一体どこにあるというのですか!
ああ、はいはい、わかりました。
話を続けるのでそんなに睨まないでください、坊ちゃん。
では、この話の続きと行きましょう。
魔王様がやることやっている間に、人間の国の王は姫を取り返してくれと国中に触れを出し、その結果魔王討伐のために、勇者、戦士、プリースト、大賢者の4人が立ち上がりました。
まあ、ぶっちゃけ勇者と戦士とプリーストは何の役にも立ちませんでした。
大賢者が、1人で全部やっちゃいました。
あの大賢者、ひどすぎますよ。
魔法の1発で魔王軍の半数を吹き飛ばし、山どころか山脈を消し飛ばし、大陸随一の面積を誇る湖の水を完全蒸発させてただのクーレーターにしてしまい……魔王様以上に、ヤバいったらありゃしない。
魔王様も存在消去魔法なんていう、防御力無視の破壊魔法を使えたので大概でしたが、大賢者の方が格上でした。
環境破壊を散々しまくった結果、魔王様も討ち取られてしまいました。
ああ、あんな結果になるんだったら、魔王様じゃなくて、大賢者の方を魔王に祭り上げておけばよかったですね。
それとこの大賢者が、坊ちゃんの父上ですからお忘れなく。
……でもですね、人間が言うように、魔王様が討ち取られてめでたしめでたしというほど、世の中とは単純ではないのです。
まだ、私の話には続きがあるので、ちゃんと聞いてください。
魔王様は討伐されたものの、騒動の発端となった姫は、既に魔王様との間に自らの子を産み落としていました。
とても愛らしい女の子です。
「わたしの夫が死んだなんて。私もこの塔より身投げして、夫のあとを追います」
と、姫はそのまま魔王城の天辺より投身自殺。
魔王様と姫が死んでしまいました。
ですが、魔王様とのお子様は生き残っていました。
その子供を見て、いまさらながらに大賢者は自分がしでかしたことに大後悔。
姫を助けに来たつもりでいたら、逆に夫を殺し、姫を自殺に追いやった張本人と化したわけです。
しかも、子供は生まれてすぐに両親がいない有様。
「私がこの子を育てよう。それがせめて、姫への罪滅ぼしだ」
そう、大賢者は決意しました。
遅きに失したとはいえ、立派な決意です。
少なくとも私の基準では、大賢者は、この時やっとまともな判断をしてくれた、と思います。
とはいえ、魔王様と人間の間に生まれた子供という存在は、当時は魔族からも人間からも受け入れられない存在でした。
しかたなく大賢者は、魔族も人間もいない僻地に出向き、そこに大賢者の塔を建てました。
以後そこに籠って、魔族と人間の子……つまり坊ちゃんのお母上をひっそりと育てることにしたのです。
その後、坊ちゃんのお母上は大賢者の塔で700年ほどの時を過ごし、すくすくと健やかにご成長なさいました。
魔族と人間のハーフですから、大人になるまで、それくらい時間がかかってしまうのです。
ちなみに大賢者ですが、奴は魔王様よりヤバい魔法を使えるだけあって、その名に恥じず童貞をひどくこじらせた男でした。
700年経っても、童貞を維持しているあたり、さすがは大賢者。
ええ、本当に凄いです。
淫魔相手にしても、指一本動かさないほどです。
凄すぎて、奴は不能だろうと、油断してしまいました。
魔力も魔王様以上にあったので、バカみたいな魔力を使って、人間ではありないほど長い時間を生き続けました。
それでも所詮は人の子。
悠久なる時を生きる魔族と違い、いかに魔法によって延命しようとも、700年の時間によって、大賢者にも老いが訪れました。
……あの野郎、自分の老いを悟ったら、我らの大切な姫君を……坊ちゃんのお母上に……手を出しやがりました。
なんという不覚。
不能野郎と侮っていたのに、よりにもよって、奴が坊ちゃんのお母上に手を出したのです。
こんなひどい話がありますか!
ハーハー、フーフー。
いけませんね、私としたこがつい興奮してしまいました。
少し魔力が漏れ出して、周辺が凍り付いてますね。
「あっ、坊ちゃん生きてますか?もしもーし、生きていたら返事をしてくださーい」
……返事がない。
ヤ、ヤバいかも。
顔が真っ青になっているし、唇の色が紫。
すぐに温かくするので、死なないでくださいねー。
……
ふう、よかった。
危うく坊ちゃんに引導を渡してしまうところでした。
それでは、話に戻りましょう。
けして、坊ちゃんを殺しかけたのを誤魔化すために、話を続けるわけではないですからね。
大賢者野郎が、坊ちゃんのお母上に手を出した結果、ご懐妊され、それによって三つ子を身ごもられました。
つまり、坊ちゃんと、弟のクリス様と妹のイリア様ですね。
ですが、坊ちゃんたち3人の子供を産むのと引き換えに、坊ちゃんのお母上は、出産の場で亡くなってしまいました。
大賢者の魔力があまりにも強大なため、その力を受け止めきれなかったのが原因でしょう。
本当に、大賢者はクソ野郎です!
もっともお母上だけでなく、童貞でいたことで高い魔力を維持し続けていた大賢者も、700年目にしてついに童貞を放棄。
結果、魔力の大半を失ってしまい、大賢者の寿命も10年を切っているでしょう。
これが、私たちにまつわる昔話であり、今の大賢者の塔の内情です。
坊ちゃんの父上も、10年と生きられないので、今後のことはちゃんと考えてください。
坊ちゃんが、我らの主なのですから。