魔物は出禁です。
地下18階の入口付近を探索していた、冒険者アルとその仲間たち。
階段を下りてすぐ普段あまりみかけない上薬草が生えていたので、ここぞとばかりに採取を開始した。
現時点では、20階層辺りまで探索に来るのは、アルのグループともう一組、ミナという女性がリーダーをしているグループだけである。
そして今日はミナたちのグループは、今年初採れのピーチを凍らせ蜜をかけた
『ピーチソルベ』の屋台が出ると聞いて村に残った。
というか、屋台の始まる二時間前から既に並んで待っている。
いつも競争しながら探索していたので、居ないとなると少し淋しい気もする。
「下層に行くほど強い魔物がいるからこんなに上薬草が採れてラッキーだな、みんな!」
もちろん普段から装備も携帯食も薬品類も抜かりなく準備はしてある。
しかしどんな不測の事態が起きるかもしれないのだから、現場で採取できるモノはしっかり採取していく。
嬉々として採取していたアルたちが異変を感じる。
小刻みに地面が揺れる……地鳴りしているのだ。
「みんな集まれ!」
下層へと向かう階段に向けて特大の光源を放つ。
照らし出されたのは無数の魔物。
「おいおい、マジかよ」
そしてアルは王都で耳にした話を思い出す。
「ここ数年で新しいダンジョンがいくつも見つかってるらしいぜ」
「なんか最近魔物が増えて来てるよなぁ……」
「隣国の辺境の村が異常発生した魔物に襲われて一夜で壊滅したって行商人のおっちゃんが言っていたよ」
「去年現れた勇者、まだ二十歳くらいらしいぜ」
「………魔王が……復活したらしい」
背筋に冷水を浴びせられたような悪寒をこらえ声を張る。
「逃げろ!これはきっとスタンピードだっ!村まで一気に戻るぞ!
階層を上がった瞬間に他の冒険者にも知らせろ!避難を呼び掛けろ!」
階層を上がる毎に、いくつもの光源を放ち大声でスタンピードを知らせる。
高レベル冒険者として殿をつとめるつもりではあるが、念入りには見て回る程の余裕はない。
途中、足を挫いて置いてきぼりの魔術師らしき女性を肩に担ぎ、地上へと出た。
そこで村のみんなに危険を知らせる花火を2発打ち上げる。
ひゅぅ~~ひゅぅ~~
ドォォーーン! ドォォーーン!
「みんな!一気に村まで走るぞ!きっとミナたちが花火を見て防衛にまわってくれてる!」
もう初心者たちは皆、村にたどり着けただろうか……
村人たちの避難は出来たのだろうか……
などと考えていたらようやく門が見えてきた。
と、ひょっこり顔を出すジェイド。
思わず脚が止まりそうになった。
「あのガキんちょめ、危ないことしやがって!」
とブツクサ言った瞬間、背後から恐ろしい程のプレッシャー。
「ヤベェ……あともうちょっとなんだがな!」
「アルさぁ~ん!もうちょっとだよぉ~~!
逃げてぇえ!【速く逃げてぇえ!】」
「いやなんか字がちげぇd………ぉお!?」
どびゅ~ん!
ゴーール!!
「……あれ?」
「やったねアルさん、めっちゃ速い!」
「ちょっとアル!呆けてないで攻撃準備して!
空からも来てるわよ」
「あっ……あぁ悪いな、ミナ。しかしこの数……」
「ひや~~!なんなの?この魔物の群れ!村に入って来るつもりなの?【魔物は出入り禁止!】」
ドガッドガッ!
ガキン!ガツン!
「ぐぅ。。。ぐぇ」
全方位から村に突撃しようとした魔物たちが、まるで大きな壁にぶつかるように張り付いた。
空から来た魔物はクビの骨が折れそのまま力なくずるずると、半円を描きながら村の外にずり落ちていく。
あちこちから村に走り入ろうとしていた魔物たちも、見えない壁にぶち当たり、後続の群れに押し潰されていった。
「ミナ姉ちゃん、今だよ!後ろからくる奴等にドカンと一発ヤっちゃって!」
「……あぁ、そうね。皆さん一気にいくわよ!
それぞれこちらに向かってくる魔物に広範囲魔法をしかけてちょうだい、よろしく!
いくわよ!【テンペスト】」
それに併せて各々が自身の得意とする広範囲魔法をしかけていく。
二十数分の総攻撃のあとに訪れた静寂……
「やった……のか?」
「助かったの?わたしたち!」
など、あちこちから呟きがもれ、ついには……
「やったぁ! 助かったのね私たち」
「今回ばかりはダメかと思ったよ!」
皆が涙を流し抱き合い無事を確かめあった。
アルの機転もあり、いち早くスタンピードに気づいた人々は逸早く村内に逃げ込み、冒険者たちが戦闘準備を始めていた。
村人たちは、不安に押し潰されそうになりながらも、冒険者たちの力強い眼差しに、パニックにならずにシェルターへと避難した。
そんな関係の村人と冒険者、あとは飲めや歌えの大騒ぎである。
「おじさん、ピーチソルベちょうだい!早く!」
「串焼きこっちね~」
「ビールと芋揚げ4つずつね♪」
いろんな場所に屋台が出て、誰かがイスやテーブルをセットし……
あちらこちらで大盛り上がりである。
「さて……と。道端の魔物たちを【お片付け】してこようかな」
鼻唄まじりで息絶えた魔物たちを次々収納していくジェイド。
粗方片付いた頃、やっと皆のお腹も気持ちも落ち着いて来たので、後始末に向かおうとして門から出たアルとミナは絶句する。
「おいミナ!どういうコトだ?魔物の死骸が消えているぞ」
「わ……私もこんなこと初めてよ!」
道の向こうから、ジェイドが歩いてくるのが見えた。
暢気に、【おっ片付けぇ~おっ片付けぇ~】と歌いながら。
その様子を見て、ホッとしながらもクスッと笑ったアルとミナの笑顔が凍りついた。
「おいおいジェイド!まだ息のある魔物がいるかもしれねぇんだから外に出ちゃあぶねぇじゃないか」
「そ……そうよ、ジェイド君。………ところで今、何をしてたの?」
「大丈夫だよ♪ 冒険者のお兄さんやお姉さんたちがやっつけてくれたから、この辺りにはもうスライムすら居ないよ~♪
みんなスゴいねぇ~~カッコいい!
僕、魔法が苦手だから憧れちゃうなぁ~
普段はちっとも困らないけど、今日みたいなことがあった時には何も出来ないもん。
冒険者の人たちが居てくれてホントによかった~♪
ありがとう!」
「誰かが防御壁を張ってくれたから、攻撃に専念出来たおかげよ。ところでさっきの質問だけど、ジェイド君は何をしてたの?」
「あぁ!魔物の死骸をほったらかしてたら、匂いを嗅ぎ付けて他所から魔物が来たり、病気になったりしたらダメだから、お片付けしてたの♪」
「「マジで?」」