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ガイの大冒険

「じゃあ、魔法も手に入れたし一度国に帰るか… 王様んとこ行く前に、みんなの家族に挨拶に行こうぜ♪」


とジョージが言うと、ジェイドの顔が曇った。


「ジェイド?何も無理矢理ご両親に会わせようとか言うんじゃないよ?君の一番大切な人に、元気な姿を見てもらって安心してもらうためさ。村長さんやミナさんたちに顔を見せに行きたいと思わないかい?」


「あ!うん!行きたい♪長いこと会ってないから村長さんたちに、僕がこんなに大きくなったのを見せたい!」


「あはは♪そうだなジェイド、すっかり逞しく……は、なってないけど、背も高く……ん〜〜まぁ昔に比べたらちょっとは大きくなったし、ずいぶん成長したよね、みんな驚くよ」


「むぅ〜〜!一生懸命トレーニングしてるのにぃ!何で僕って筋肉つかないんだろう…… ねぇガイさん、筋トレ教えて〜〜!」


「ジェイド、お前は大剣振り回すタイプの戦法じゃないだろ?戦い方によって筋肉がつく場所もタイプも違うんだから、オレみたいに筋肉があっても有効とは限らん。むしろジャマになるからな」


「う〜ん、そうなんだぁ…… でも筋肉もりもり、カッコいいなぁ〜」


「うへへっ♪ジェイドの顔にガイのカラダをくっつけたの想像した(笑)」


「うっ!……確かにそれはイヤねぇ。ジェイドは男の子だから、『かわいい』って言われるのイヤかも知れないけど、ジェイドの顔立ちとか戦法からすると、今のままの感じで成長した方が良いと思うわよ」


「それに、俺達も見た目筋肉無いだろ?でも戦いの時にはしっかり作用してるよ。ガイとは質が違うんだ。柔らかい……というかしなやかというか、筋肉が無いように見えててもしっかり有るのさ。もちろん、ジェイドにもね」


「そうなの?だったら嬉しいな♪」


「じゃあ最初は……ガイん家行く?」


「「「お〜〜!」」」




「父上、ただいま戻りました」


「おぉ!ガイ!お帰り。皆さんもようこそおいでくださりました。ガイはご迷惑になってはおりませんか?なんせこの子は無口で不器用ですから、集団の中には入りづらいかと心配しておりましてな」


「こんにちは!ジェイドと言います。ガイさんは無口だけど気遣いさんだしとっても優しくて、いつもあったかい気持ちになります♪」


「おぉ!まだまだ子どもさんではないか。ガイのことが怖くはないかな?」


「うふっ♪最初に会った時にガイさんから言われました。もちろん、全然気にならなかったけど、そのあと偉い人達に会いに行くとき、僕、緊張でガチガチになってたら、ガイさんそっと手を繋いでくれたの、優しいの♪」


「そうかそうか……良かったなガイや。お前の事をきちんとわかってくれる皆さんと出会えて。本当に良かった……」


うっすらと涙ぐむ父親の姿を見て、このパーティーに参加するまでのガイの苦悩が垣間見えた。

実はガイには顔面にひきつれたような傷痕がある。

子どもの頃、近所の友達と公園で遊んでいた時に、迷いこんだウリボァを見つけた友達が、冒険者ごっこをそのウリボァで始めてしまった。

「かわいそうじゃないか!やめるんだ!」


ガイがそう叫んでも皆は、笑いながら木の枝を持ち殴り付け、蹴りあげた。


ウリボァの悲鳴を聞きつけ、母親であるロックボアが怒り心頭で駆けて来た。


今までさんざんウリボァをいたぶっていた子ども達は恐怖に足がひきつり、動けない。

へたりこんで声も出ない。


その集団の中に突っ込んで行くロックボア。

標的となった友達(キアル)を庇うように、ガイが覆い被さって反転した。


ロックボアは、ソロならDランクほどの強さだが、周りには冒険者どころか大人もいない。

乱入してきたガイに目線を向け、前足で砂を掻いている。

再び走り込んできたボアの牙でガイはこめかみから頬にかけて深い傷を負った。


気を失いそうなほどの痛みのなか、何度も避け続けるうちに大人達がやって来た。


手に持ったバケツや鍋をガンガンと叩きながら威嚇すると、やがてウリボァを連れて茂みの方へと去って行った。

そしてガイの意識は途切れる。


それから4日の間、熱に魘され意識は戻らなかった。

菌が入り、化膿したのだ。


目覚めた時には、決して治らない大きな傷が出来ていた。


その時ウリボァを虐めていた友達は、気まずいのか、ガイとは疎遠になっていた。

キアルはガイの傷痕を見て、絶望的な顔をして家に逃げ帰った。

以来、ひきつれた傷痕のあるガイは、年頃の女性には敬遠され、幼児には泣かれてしまい表通りを歩かなくなった。


裏の畑の向こうにある道場(騎士になるための訓練所)には、猛者ばかりで傷痕のことも気にしないでいてくれたので、毎日のように通いつめ訓練に励んだ。


努力に見合う才能が有ったのか、13歳の頃には冒険者登録し、あっという間にAランクまで登り詰めた。


しかし、やはり傷痕のせいでか誰もパーティーに参加しないかというような話は持ち掛けて来てくれなかった。また、断る時に相手が気まずいだろうなという思いでガイの方からは声をかけずずっとソロで過ごしていたが、ある日、初心者パーティーが魔物の集団に襲われていたところに出くわした。魔物を殲滅して助け、大怪我を負ったリーダー格の子に中級ポーションで治療しようとしていた時、偶然ジョージ達に出会い、ミカが魔法で治療してくれた。

ミカが若い女性であることから、しどろもどろで礼を言ったあと、そそくさとその場を離れた。


仲間じゃないの?と尋ねたら、たまたま近くにいたソロのAランクの人が助けてくれたのだと応えてくれた。

この中級ポーション、どうしましょう……と悩む初心者に、これからもまた危ない目に遭ったらダメだから貰っとけ!というジョージに動揺しながらも、有り難く頂いたのは、ガイの知らない話。


初心者パーティーは、ガイのことは知っているがソロだし無口だし話しかけ辛かったけど、横柄なこともないし、礼儀正しい人です♪とジョージに告げた。


ある日ギルドでガイを見かけたミカが、あの時のポーション、あの子達にあげたけど、良かったのかな?と話しかけたら、あぁそういうこともあったなと笑いながらもともとあの子達に使うつもりだったから、かまわないよ♪と言った途端、ご飯食べに行こう!と引っ張られ引きずられジョージのもとへと連れて行かれ、パーティーに加わってほしいと、二人して頼み込まれた。

戸惑うガイに、強さだけではない、その清廉さ優しさが大事だと2時間程の説得の末ようやく了承を得た。

夢見心地で放心状態で帰宅し父親に今日あったことを告げると心配げな顔をしていたが、ガイの決意が堅い様子に何事も経験よ!と祝福してくれた。




その日はガイの家で夕食をご馳走になり、泊めて貰った。

天井を見つめて考え事をしているジョージに、「どうしたの?ジョージさん……」と尋ねると、真剣な顔で

「ガイの傷痕はな、普通のヒールでは治らないんだ。組織が破壊されてて元の皮膚には戻らない。ジェイド、一度試してみてくれないか?元の……正しい皮膚に戻してみてくれないか?」と言った。


「ジョージさんでは無理なの?」


「いや、俺でも出来るだろうけどきっとガイは断ると思う。もし失敗したら俺が傷付くだろうと思って、このままでいいと言うだろう。だからジェイドに実験させてやってくれ、ダメでもともと治れば儲けモノ♪とかなんとか言って、自信無さげにやってくれ」と言った。


「うん、わかった!……でも出来るかなぁ」


「ちょっと俺の顔を触ってみ。自分や俺の顔をイメージして、ガイにもそうなってほしいと強く願うんだ」


「やってみる!」



今日も今日とて漢字練習帳に書き込んでいたところ、ガイがぽふぽふと頭を撫でながら

「勉強熱心だな。でもあまり無理するなよ」と言ってきた。


「ジョージさんがね、こつこつやらんと忘れちまうんじゃ!って言ったの。でもこの漢字って難しいなぁ〜(涙)」


「ははは、オレには何て書いているのかさっぱりわからんよ、ジェイドはスゴイな」


「少しでも簡単魔方陣を開発してみんなのくらしを楽にしたいからね、頑張るよ、僕」


「やぁ、おはようガイ。ジェイドは勉強捗ってるかい?ちゃんと、とめ・はらいを意識して一つずつ正確にね♪」


「はぁ〜い!でも、〈とめる〉の楊枝と〈はねる〉の揚げるって、とっても似てて意味わかんない……」


「楊枝は〈きへん〉と言って木に関すること。これが楊枝。楊は……たぶん柳のことかな。枝は木から横に生えてきてる部分、エダっていうんだ。両方とも、木に関することだろ?

揚げるって、〈てへん〉っていって、主に手でする動作……かな?持つとか投げるとか。ちょっと自信ないけど。前に、漢字には一文字一文字意味が籠められてるって言ったけど、こうして部首……つまり、きへんやてへんだね、そこにも意味があるんだ。だから色んな意味で、一つの文字に意味が詰まっているんだ」


「きゅ〜〜! んじゃ丸写しじゃダメなんだね、一つ一つ意味を理解しなきゃ……」かきかき


「おいジョージ、ちょっと厳しすぎなんじゃないか?」


「う〜ん……俺もそう思う。。。んだけど、何だか心が急いているんだよね。今!この場で俺が教えられることは全て教えこんでいかなきゃ!……って思いが」


「ジョージ……お前……」


「いやいや、別に悪い予感が〜〜ってことじゃなくて、なんとなく急がなきゃ〜って感じ」


「はふぅ〜!なんかだんだんわかってきたよ、ジョージさん」かきかき


「そういやジェイド、ヒールは出来るようになったか?」


「うん……でも小さな傷なら出来るけど、命にかかわるような傷はまだ……やったことないの。痛い痛いって泣き叫んでいる人に僕みたいな子どもが『初めてだけどやります!』なんて言えないよ……でも少しでも多くの人を助けたいの」


「そうか……んじゃ症状が固定してる人で試したら?脚を失くした人とか腕が動かなくなった人とか」


「そんな!期待してないよ♪って言いながらも微かな希望を抱く人に対して絶対失敗出来ないよ!かえって絶望して死んじゃうかもしれないじゃない!」


「う〜ん……治っても治らなくても生活に支障をきたさないような傷痕かぁ……」ちろっちろっクイクイ


「……ジェイド、オレで試してみるか?顔面だから別に治らなくても戦闘にも生活にも支障をきたさんぞ」


「えぇ?いいの?でも……失敗したらどうしよう……」


「失敗してももともとだからな、気軽にやればいいさ」


「ガイさん、ありがとう!僕頑張るね♪」ぎゅぅ〜!ニヤリ ぱちん


「まぁ、気楽にな」ニヤッぱち!


「うゎぁ!椅子に座ってても僕、届かないや……くすん

ガイさん、どこかに寝てもらっていい?」


「じゃあ部屋に行くか」すたすた


「じゃあ始めるね、うゎぁドキドキしてきた」


「ジェイド、イメージ大事。どこをどう治したいのか、しっかりイメージして」


こくんと頷くと目を瞑り綺麗に治ったガイの顔が浮かんだ。破壊された真皮を取り除き新しく再生する。

カッと目を見開くとすかさずジョージが

「私、失敗しないので!」


【わたし、しっぱいしないので!】


暖かな金粉がガイの傷痕に集まりやがて……整った顔が。


「あれ?あれぇ〜〜?」ぱちくり


失敗したと思ったガイが気を遣い、

「ところでジョージ、呪文が全然聞いたこともない言語だぞ、何て言ってるんだ?」


「誰にも理解できないようにある国の言葉で♪さぁ鏡見てこいよ、ガイ」


「……ぇ?」


「うゎぁ〜ん!ガイさんが!ガイさんがぁ!シブイ男前から優しげなイケメンに変わったぁ〜!

くすん」


「なんだよジェイド(笑) 傷痕がなくなって泣くんじゃないよっ」


ジェイドの泣き声で、みんながどうした?とやって来て、ガイの顔を見た。


「おぉ!威厳がなくなってる!めっちゃイケメンだ!」


ワイワイみんなにからかわれ、はにかむガイのもとに父親が。


「おぉ!ガイ!おい、母さんや!大変じゃ!ガイが!ガイの傷痕が!」ぽろぽろ、ダダダっ


母親は、ガイを愛するあまり絶望して気に病んでいた。

醜い傷痕を見てではなく、その傷痕が原因で中傷され疎まれていることに。

もとはと言えば、他の子達が面白半分に魔物を痛め付け、その報復で親に攻撃されても仕方のないこと。ガイが庇わなければ何人が無事でいられたか……。

それなのに、否の無いガイだけが攻撃を受け、今こうして生死の境をさ迷っている。

目覚めた後も誰も近寄らず、ガイは元から居ないもののように扱われた。

ある時、走ってきた幼児がガイにぶつかりごめんなさいを言おうと見上げた途端、その傷痕に驚き大声で泣き叫び、母親が慌てて抱き上げ、穢らわしそうに睨み付けてきた。ガイの方から苦笑しながら去って行くこともあった。


裏通りにある騎士訓練所だけがガイを受け入れてくれた。

傷があろうが無かろうが関係無い、要は努力するかしないかだ!と、異例の低年齢での訓練参加を認めてくれた。


元気に道場に通うガイを見て少し安心する。

しかし、しかし!

と母親の心はどろどろと怨嗟の渦に巻き込まれていく。

買い物の途中、あの時の子達が楽しそうにガールハントをしている。母親の冷たい視線に気付くとそそくさとその場を離れた。女子がどうしたの?と聞くと、あのおばさんチの子どもと同い年なんだけど、スゴイ傷痕があって家から出られないんだ。

と、まるで自分たちに原因はなかったかのように話す。


知らず知らずのうちに事件は風化して、ガイの傷痕という現実だけが取り残される。


悔しい!うちの子が何をしたというのだ!こんな仕打ちを受けるならあの時、放っておいて自分だけ逃げれば良かったんだ!

と、父親にすがり泣く母親を見て、ガイが静かに言った。


「母さん、みんなが無事で良かったんだよ。もしあの時僕だけ逃げていたら、他のみんなが死んでしまったりしたら、僕は自分が許せないよ。そんな思いはきっと少しはアイツらにもあると思う。僕は僕が誇らしいんだ!」


その言葉を聞いて、なんて大人になったんだろう……と、頼もしくも嬉しく思った。


「父さん、母さん、僕冒険者になってたくさんの人を救いたい。いいかな?」


「貴方の思うようになさい。でも気をつけてね。危ない時は無理しないでね」


「うん、わかったよ。

では、父上、母上、これから俺は冒険者ギルドに登録して来ます」


「あらあら、すっかり口調まで男らしくなって一人前ね(笑)

いってらっしゃい気をつけてね」


そして冒険者になってからのガイはめきめきと頭角を顕しやがてAランクになり、少しずつ母親の心は凪いで行くのだった。



ガイの傷痕の無い端正な顔は母親譲りで、思わず手を当て、そしてぎゅっと抱きしめた。


「ガイ、ありがとう。ジェイド、今の感覚忘れないでね。さぁ行くよ。お父様、お母様お世話になりました。またいつか寄らせていただきますね、お元気で♪」


「こちらこそ、皆さんにはガイが可愛がっていただき、そして傷痕も治していただき、感謝しても足りません。ありがとうございました。皆さんのご武運を祈念致します。どうかご無事で」











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