哀しみのセシル
わたくし、医療従事者ではありませんので、詳しくはありません。
あれ〜?と思う事があっても生暖かくスルーしてくだされ♪
その頃のジョージたちは、ダンジョンの奥底にある転移の井戸の前にたどり着いた。
「みんな、ここをくぐれば新しい地に到着する……はずだ、文献によるとアストラタ王国から東に200キロのところに在る山脈を越えた辺りだ。そこから一月程歩いたところにルーメンという村があるらしい。もっとも300年位前の文献だから今もその村が在るかどうかは謎だが……」
「へぇ!早く行こうよ!ふふふっ楽しみ♪」
「ジェイド……お前な……なんかこう、不安とか無いの?」
「え?いきなり魔界に行くわけじゃないでしょ?山を越えたところの草原だから大丈夫だよね♪」
「まっ、そうだな、なんか脱力。。。」
「あはは、さぁ行くよ!」
そして転移の井戸をくぐって草原に出た。
出てくる時は地面から、ぴょん!と飛び出す感じで面白い。
そこは、見渡す限りのザ・草原だ。
「ふぁ〜〜!風が爽やか、気持ちいい〜♪」
「ちょっと待っててね♪」 ピュイ〜〜!
色とりどりの小鳥がやって来て、セシルの肩に止まる。
「君たち、この近くに人間の住んでるところはある?ん〜〜無いのか……。じゃあもっと遠くでもいいから、ここから一番近くはどこに在るの?」
小鳥たちは首をかしげ、ぴよぴよと囁きあい、やがて、ぴ!と啼いた。
「どうもありがとう!」
やがて飛び立った小鳥たちは、少しの間頭上で円を描いていたが、一声啼くと思い思いに進んでいった。
「あの子達が言うには、あちら方面に10日程行ったところに集落があるみたい。」
「セシルさん、すごい!小鳥さんの言う言葉がわかるんだね♪それにしても、セシルさん、テイマーさんは魔物さん達が協力して敵と戦ってくれるから、基本的に体力無い人が多いってことだけど、セシルさんって強いよね♪さっきもトロールを瞬殺してたし♪」
「ボクのテイマーの素質は強力すぎるんだ。幼い頃、何も知らずに魔物や動物達と仲良くなってね、ある日オーガに出会った時、『助けて!』って言ったら、敵いもしないのにうさぎやシープファングが……ボロボロになっても何度叩き潰されても立ち向かって行ったんだ。だからそれから強くなって、友達に助けてと言わなくてもいいように鍛えてるのさ。チャウダーは、とても頭が良くてね、ボクの心のお師匠様だよ」
セシルはテイマーとしては強すぎるスキルを持っていた。スキルといっても、この世界には、『スキル』という認識は無い。だからレベルが上がったら急に達人の動きが出来るとか、そういう事ではない。日々、鍛練の末に徐々に、着実に上達していくようなモノである。
だがセシルの場合はもはやそういう次元ではなく、まるで魅了のように引き寄せられていく。
テイムしたつもりもなく、『お友達になってね♪』というだけで《身命を賭してセシルを守る》となってしまう。
あの時、助けてと言わなくても、同じ結果になったであろう。
友達と遊んでいた時に、悪ふざけで背中を押され、足を踏み外し、崖から墜落した時もセシルが落下していく間に次々に周辺にいた動物達が崖から飛び降り、まるでセシルを庇うように胸に抱き、落下した。慌てて教師が飛んできたが、大勢の動物の死骸のなか、セシルだけがほぼ無傷で、そして愛おしそうに抱かれていた。
さすがにおかしいと、両親が教会に連れて行き調べてもらったところ、そのような事が発覚した。
そしてそれはセシルにとって、とても悲しい事であった。
今まで、友達と思っていたのに、まるで命令されたように強制的に縛られてるのではないか?
かわいい、好き♪と思い思われてると思っていたのに、実は苦痛だったのでは?と。
塞ぎこみ、枕を抱きしめ寝ていたところ、父親が部屋に入ってきた。
「セシル、見てごらん、森リスの赤ちゃんだよ。この子の両親はね、この子を守るために必死になってウルフと戦ったんだ。絶対敵うハズもないのにね。それでも愛するこの子を守るために、死ぬとわかってても戦ったんだ。」と、片手に収まる小さな命を預けた。
まだ眼も開かない森リスの赤ちゃんは、すぴすぴと寝ている。口は半開きだ。
「ふふっかわいい……」
「愛なんだよ、セシル。愛するが故にこの身を賭して守る……決して強制でも何でもない、愛なんだよ」
「お父さん、ボク強くなるよ!誰もボクを庇って傷つく事がないように、強くなる!」
それから、血の滲むような訓練が始まった。
チャウダーと名付けられた森リスは今でもずっと仲良しだ。
「そうだったんだ……大切にしていたお友達が傷つくのはとても悲しいよね。でもそれは魔物さん達もそうだったんだじゃないかな。人間みたいに色々考えて迷って〜〜ってことじゃなく、本能的に守らなくちゃ!って思いが強くて。だからその子達の思いの分、幸せに生きなくちゃね♪」
「そうだね。失ってしまう哀しみよりは、自分が!って思いが強かったんだね。そう、ボクは愛されてた。強制的に縛られていたなんて思う事が彼らに対する冒涜なんだ。みんな、ボクは幸せに生きているよ!」
空を見上げて呟くセシルは堪えた涙を落とさないようにしているかに見えて、皆はそっと見守っていた。
「うっわぁ〜〜!ここ、薬草の楽園!いっぱい生えてる!あはははははっ!」
「……ジェイド……なんか色々台無し……」
「ふふふっ!チャウダー、ジェイドと薬草採取の競争するかい?」
「きゅきゅきゅ〜〜!」ぴよ〜ん
「いやぁ〜〜〜!チャウダーくん、それ、起死回生草じゃないの?とっても貴重なんだよぉ〜〜!」
「きゅふっ」にやり
「あははっチャウダーの勝ち!さすがは森の賢者♪」
がっくりと項垂れるジェイドの肩をぽんぽんと優しく叩き、チャウダーが起死回生草を差し出す。
「え?くれるの?」
「きゅ〜」ふぃ〜〜
両手の平を上に向け、仕方ないねぇ〜とばかりにため息をついた。
「ありがとぉー!大好き♪」脇に手を入れ、チューをしようとしたジェイドにげしげしと蹴りを入れるチャウダー。
「ひどっいよっ、チャウっダーくん、いたっ止めってぇ〜〜!」最後は顎に極り、クルっと2回転して、着地。10点満点!
ふんすと腰に手をあてふんぞりかえってる。
みんなは大爆笑、ついにはジェイドも笑い出した。
「ジェイド、そんなに貴重な薬草を集めても錬金術師が何処にも居なかったらどうするんだい?」にやっ
「え?なに?ジョージさん、悪い顔してる……まさか?」
「よし!今夜のお勉強は錬金術だっ!」
「のぉ〜〜〜!!」
陽が傾いてきたらパーティーハウスを出し、早めの夕食をとったあと、ガリガリ勉強会だ。
ジョージが度々やっている方法とは違ったやり方ををしている。
「ねぇねぇジョージさん、なんか違うかな?前の時は、『錬成!』って言ったらポーション出来てたのに、こんなにややこしくなかったよ?」
「錬金術はね、物質から効能のある成分を取り出してそれを一定の比率で混ぜ合わせていくんだよ。もちろん魔力もその配合に関係するんだ。その工程が理解出来てきたら、錬金術師と呼べる。だからそれが理解出来るまではこうして初級錬金術の方法でやるのさ」
「ほへ〜〜」
「この世界に魔法があるからかな?ケガをしたら『ヒール』すればたいてい治るからね。地球ではあらゆる物質の成分の抽出が出来ている。それは魔法では治せないから一生懸命研究するんだよ。さっき、ケガはたいてい治る……って言ったよね。じゃあ、腕をスパンと落とされたら、どう?」
「え〜?多分無理なんじゃないかな、止血して、命を助ける事は出来るけど……」
「でも地球ではすぐに処置すれば、くっつくし少し障害は残るかも知れないけど、動かすことも出来るんだよ。何故だと思う?」
「う〜ん……あっ!綺麗な切り傷なら、そこをペタんとくっつけて、ヒールする!」
「それじゃあ腕はくっつくけど、指先から腐ってきて死んじゃうよ」
「え?何で?」
「人間の身体は複雑でね、俺も医者じゃないから詳しくないんだけど、この可愛い腕の皮膚の中には、筋肉やら骨、神経なんかがぎっしり詰まってる。」ぺちぺち
「シンケイ?」
「そう、それが切れると動け!って命令しても動かなくなるんだ。だからそれらをひとつずつひとつずつ、丁寧に繋ぎあわせる、そうするとちゃんと動くようになるんだ」
「腐っちゃうのは何故?」
「血がたくさん出ちゃうと死んじゃうだろ?それには理由があるんだ。」
「よく鉱山で死亡事故が起きるだろ?あれは悪い空気が充満するって言われてるけど、実際は酸素がなくなって、頭に酸素が行かなくなって死んじゃうんだ。俺達、生き物は呼吸をして、酸素を取り込んでる。その酸素を運んでいるのが血管、血液が流れるように作られた管なんだ。血液にくっついた酸素が色んなところで活躍する。それは筋肉だったりご飯を消化したり色々考えたり。だから大量に血がなくなると死んじゃう。筋肉だって酸素がなくなったら死んじゃうよ。そして死んだところをそのままにしておくと、腐ってくる。だから、訳も分からずただくっつけてしまうと、きちんと血管がくっつかず神経も途切れたまんまでやがて腐ってくるんだよ、知らんけど」
途中までふんふんと真剣に聞いていたジェイドは最後にガクっときた。
「もう!真剣に聞いていたのに!」
「悪い悪い(笑)
まぁさっきも言ったけど、俺も医者でもないからきちんとしたことはわからんけど、概ね合ってるよ。俺はイラストレーターやってたから人間や動物の骨格なんかは詳しいけど、さすがに神経やら血管がどこら辺にあるのかはわからん。でもヒールするときに、きちんと『血管繋がれ〜神経繋がれ〜』ってイメージしたら大丈夫だ」
「そうなんだぁ……」
「ジェイド、今度魔物の解体するときに一度しっかり見ておこうね」
「はいっ」
そうして、錬金術の勉強は遅くまで続けられた。
夜の間に、色々な勉強をして行くジェイド、少しやつれている。
「なんだなんだぁ?しっかりしろよジェイド。若いうちはどんどん吸収できるからな、しっかり勉強しろよ!」
「むっす〜〜!アンリさんもまだまだ若いから吸収できるよね!じゃあ一緒に勉強しましょ♪」
「いや、オレは遠慮しとく(汗)」
「あはは!今日は魔方陣の勉強しようか。簡単魔方陣だ♪」
夕食後、浄化の魔方陣を見せてもらう。
「え〜っと……『闇に蠢く穢れしものよ其は邪なるものよ神より賜りし光のもと清らかなれ其は闇を祓い崇高なる光のもと悪しき心よ清浄となれ』……おぅ!覚えられるかな」
「でもってこれが『浄化』魔力をのせてみ♪」
きらきらきら〜
「うわぁ♪きれい♪」
「じゃあこっちの普及されてる魔方陣ね、魔力をのせてみ」
きらきらきら〜
「おんなじだぁ!……あれ?でもこっちの方がたくさん魔力要ったような……」
「ジェイドは保有魔力が多いから、ちょっとした違和感ですむけど魔力の少ない人にはたいへんなんだよ。描くのもたいへん、使うのもたいへん」
「ほえ〜〜!んじゃ魔力の少ない人の為に簡易版魔方陣を作らなきゃね!」
「その前に!漢字を勉強しようね♪たくさん意味を持つ漢字を教えるよ!アンリ、君もどう?」
百字練習帳に、コツコツ書いて行くのであった。
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