繋がる縁、廻る因果
『明日にもヤヌスが候補者を連れて来るかもしれないからな、我はその準備を行っておくゎ。お前はもう帰って寝ろ』
『魔王さま!わたくしにもお手伝いさせて下さりませ!』
『んじゃ図書館から、例のなんとかの偉業とか言う書物を持って来てくれるか?
その後は休め。今日は色んな意味で疲れておるであろう?』
『畏まりました。早速行ってまいります』
図書館の警備の兵士達に礼を述べながら魔王のもとに戻る途中のイーブンと、親族の家から自宅に向かうヤヌスが出くわした。
『ん?お主は確か……』
『はっ!イーブンにござりますヤヌス様』
膝をつき、頭を下げながら名乗った。借りてきた書物は胸に抱いている。
『このような時刻に何をしておるのじゃ?』
『はっ!魔王さまより、ヤヌス様ご親族様への登用試験の参考に為さるため、持ってこいと言われました書物を図書館より借りて参りました』
『ほう、そうであったか。大儀』
チラッとその書物を見て、ニヤリと笑うヤヌス。
大臣に任命される予定のイーブンに軽く殺意を抱きながらも、今コトを起こせば魔王に発覚するおそれもあり、グッと我慢をしながら尋ねた。
『して、お主は何やら環境大臣とか言われておったが、どのような仕事の内容かもう聞いたのか?』
『はっ!何やら、ゴミを処分する係とか仰有られましたが、まだ詳しい説明はございません』
『ほほほっ、ゴミを処分とな?またなんとも……』
少し溜飲は下がったようで、上機嫌で去っていった。
(今、私に一瞬殺意を向けておられたな……
返答の内容次第では、無礼討ちされていたかもしれない。それに書物の題名を知られてしまったようだが、試験に影響があるかもしれないから、早く魔王さまにお伝えしないと!)
急ぎ足で魔王のもとに戻った。
『魔王さま、書物を借りて参りましたが帰路でヤヌス様に出会いまして……
この書物の事を聞かれました。多分何の書物か知られてしまったと思われます。申し訳ございませんでした!』
部屋に入るなり平身低頭のイーブンに愉快げに言った。
『そうか。あの抜け目ない男のことだ、しっかり見ていただろうよ。親族にどんな助言をするのか見物だな(笑)
しかしあやつに出くわしてよく無事だったな、良かった』
『はっ!一瞬殺意を持たれたようでございますが、仕事の内容をお聞きになり少しご機嫌が良くなられたようで、そのまま去って行かれました』
『ん?仕事の内容で?』
『はい、どんな仕事かとお尋ねになられましたので、ゴミを処分する係と伺いましたが詳しい説明はございませんと答えましたら、笑いながら帰って行かれました』
『あはは!どんなゴミかも知らずに笑っておったのか』
『……あの……魔王さま? わたくしは、ゴミを処分する……という名目で、食糧の配給をして下さるのかと考えておりましたが、違うのでございますか?』
『アホぬかせ!お前の家族に渡す食糧をゴミ扱い等するものか、バカにするな!』
『申し訳ございません!お優しい魔王さまのことでございますから、そういう名目でご配慮下さるのかと……。失礼いたしました』
『先ほど言ったであろう?給金も食糧もアップしてやるぞと。ゴミ処理はまた別のモノじゃ。まあ、今日はもう帰って寝ろ。お疲れさん、ありがとな!』
『いえ、こちらこそ感謝いたします。では御言葉に甘え、休ませていただきます。おやすみなさいませ』
宿舎に戻ると、仲間達が待っていてくれた。
『イーブン無事だったか、良かった!あの魔王さまなら大丈夫だとは思ったが、やはり心配したよ。遅くまでお供していたのだな』
『うん、あれから兵隊長の御自宅に謝罪に伺うと仰有られたから同行させていただいたんだ。自分のせいでこのようなことになってしまって申し訳ないと、奥様に頭を下げられた。
奥様も、兵隊長の事は悲しい事だが魔王さま自らお越しいただいたんだ、夫も喜びますと言って下さった。
魔王さまは、私達に対する教えに深く感謝する……と、給金も引き続き支払うと仰有られた。
奥様は恐縮してお断りになられたが、兵隊長のおかげで兵士達は素晴らしい志を持っているから、その功績に報いさせてくれという魔王さまに、感涙されていた』
『そうか。まだまだ子供さん達も小さいから今後の事を心配してたんだがさすが魔王さまだな!起き抜けの魔王さまはもう、めっちゃ怖かったけど、我々のことも考えて下さって本当に良い方だ!』
『そうだね、考え方は兵隊長と同じだと思う。きっとこれからこの魔国も良い方に変わっていくと思うよ♪』
『イーブン、おかえり!今日はありがとう〜♪あの魔王さまの怒声によく名乗りを挙げたな!オレなんてもう唇が岩になったみたいに何も喋れなかった(笑)お前スゴ〜い!』
『いや、恥ずかしながら名前聞かれた時にちょっとチビっちゃったよ。
まさか我等一兵士の名前なんて聞くとは思ってなかったし、ヘタなこと言ったらなぶり殺しだゎ〜って、ガクブルだったよ♪』
『それよりもさ、ユング見てみなよ、瞼の中にスライムが入り込んだみたいになってるぜ!あれから親元に聞きに行ったらしい。そしたら子供の頃に、はぐれフォレストウルフに襲われて、瀕死のところを名ハンターのムーヴさんって方に助けられて手当てまでしてもらったらしい。
ご両親はまだポーションでもなんとかなったらしいが、ユングは小さかったから傷も深くてとても危険な状態だったらしい。
懸命に手当てして下さってなんとか一命はとりとめたそうだが、完全に治してやれなくてすまない……と、逆に謝られたそうだ。
本人は恐怖のせいでか、そのあたりの記憶がないみたいで、ご両親もわざわざ怖い事を思い出さすのも……と、ずっと言わなかったみたいだ。
ご両親は今でもその方に感謝してると言ってたって!
だってフォレストウルフをやっつけてくれた上に、傷まで治してくれたのに、ユングの事を完治させてやれなかったって、深く頭を下げたらしいぜ!
普通は偉そうにして、カネを寄越せと言いそうなモノなのに、あの方ほどご立派なお方は居ない!……って、さっきから泣きっぱなし(笑)』
『『『……どうした?イーブン』』』
問われて、自分が涙を流していることに気づいた。
『世界というものは、縁で繋がっているものなんだな。
今夜知ったことなんだが、その名ハンターのムーヴさんというのは兵隊長のお父様だよ。
800年ほど前、まだムーヴさんが幼い頃に人族に捕まり、手足の腱を切られて磔状態にされていたところを、ある方に助けられて傷も治してもらったらしい。
自分チは痩せた土地で作物が育ちにくいから……と、見よう見まねで狩りをしていた時だったって。
そんな危険な目に遭っても、やはりハンターになって家計を助けたいと言ったムーヴさんにその方は、狩りの仕方や解体の仕方を教えて、そして生きざまを教えてくれたらしい。
もし、ムーヴさんがそこで死んでしまっていたら我々に大切な事を教えてくれた兵隊長はこの世に誕生せず、我々の兵隊長は他の人で、みんな今こうして無事な姿でいられたかどうか。そして幼いユングは助からなかった。なんとも良い縁が繋がっていたのだろうか……なんて、ちょっと感傷的かな(笑)』
『オレ、兵隊長の御自宅に伺っても良いかな?そんな命の恩人を今まで綺麗さっぱり忘れていたなんて、情けない!』
『そうだね、しばらくはAチームの職分けやら大臣の登用試験なんかがあってバタつくけど、その後なら大丈夫じゃない?今はまだ家族の方たちだけで居させてあげて?』
『うん、わかった。ありがとうイーブン』
翌日、ヤヌスは現れなかった。どうやら親族の家を飛び回っているらしい。
図書館からは全ての『歴代魔王様の偉業』が貸し出しされて一冊も残っていないとのこと。
新入り兵士に貸し出す為にけっこうな数を揃えてあったらしいが、オール貸出中となっていて、司書も不思議がっている。
イーブンは(やはりしっかり見ておられたんだな。試験に影響はないのだろうか……)と、自分の不手際で魔王さまにご迷惑がかからないかと不安だった。
『あれ?君は確かイーブン君だよね?』
『あっ!ミラージュ様、お久しぶりにございます!』
『いやいや(苦笑) 、様はヤメテ!』
『どこかにお出掛けでございますか?』
『あぁ、クソオヤジが借りてきた書物を図書館に返そうと思ってね。こんなモノ読んでも何の役にも立たないのに、何をギャーギャー喚いているんだか……。本当にワケのわからん人だよアレは』
『魔王さまが、ヤヌス様のご親族の登用試験を為さると仰せで、その資料にされたのではないでしょうか……』
『なるほどね、思慮の浅い御仁は考えることも意味不明だよ、てかホントに考えてるのかどうかも怪しい(笑)
こんなモノ読んでも時間をムダにするだけだから返しに行くんだ。
ところでイーブン君よ、敬語止めてくんない?少しの間だったけど同級生じゃないか。
すごく疎外感があるよ、ボク悲しい……(笑)』
『ミラージュ様、壁に耳ありですからね。ヤヌス様にタメ口がバレたら私は一瞬で消し炭ですのでね(苦笑)
でも心のなかでは、いつも優しくして下さって一緒に遊んだ幼なじみですよ♪
ヤヌス様にバレないように用心するのも難しいですけど、一度飲みに行きたいですよね!』
『ああ!ホントにあのクソオヤジ、早く召されてくれないかな。鬱陶しくて敵わんよマジで!!』
『相変わらずの毒舌ぶりだね(笑)でも君って読書が大好きだったように記憶してるけど?』
『あぁ、読書は大好きさ!こんなクソ書物じゃなけりゃな(笑)
君は兵士になったんだからこれ読んだんだろう?為になったかい?』
『う〜ん、私は大きな声では言えないが、平和主義なんで、あまり好きな類いではなかったな……』
ヤヌスの八男のミラージュとは同い年で、イーブンの父親が亡くなるまでは同じ学校に通い、よく遊んだ仲であった。
子供の頃から父親であるヤヌスを嫌っており、よくこうして愚痴を言っていた。
『まぁ、登用試験とやらは気がすすまないけど魔王様には興味があるから会ってお話してみたいよ。そういえば君、大臣に抜擢されたってオヤジが言っていたけどホント?』
『う……うん、環境大臣になれって言われて。ちょっと戸惑っているんだ』
『おぉ〜〜♪ホントだったんだ!じゃあボクも本気で試験受けてみようかな!鬱陶しいから適当に流すつもりだったけど、君も大臣なら逢える機会が増えるじゃん!やった!』
『あっ!そうだね!意見の交換……とか言って飲みに行ったり出来るかも♪頑張ってね!公正さを期す為に、魔王さまの言動や思惑なんかを話す事は出来ないけど、応援してるよ!』
『はっは〜♪俄然やる気が出てきた。とりあえずこの書物は返却してくるね。また逢おう、約束だよ♪』
『はい!いつでもお声をかけてください。お待ちしております!』
『うわぁ……また敬語に戻った(笑) じゃあね!』
魔王より仰せつかった用事も済ませ帰城したイーブン、少し気分が高揚していて自然と鼻歌まじりで仕事をしていた。
『なんだ?えらくご機嫌じゃないか、良い事があったのか?』
『魔王さま!ただいま帰りました。実は幼なじみにばったり出会いまして。わたくしが環境大臣に任命されたことを喜んで下さいました。
そして今回の試験に本気で挑戦して自分も大臣になるから、一緒に頑張ろうねと言って下さったんです♪』
『ん?ヤヌスの身内か?』
『あ……はい、ヤヌス様の八男でございます。身分を気にせず親しくしてくださいました。それと、彼から聞いたのですがヤヌス様は例の書物をご親族様全員に読んでおくようにと、厳命したようでございます。わたくしがきちんと隠し持てなかったせいで試験に影響を及ぼすのではないかと、申し訳なく思っております』
『いや別に。どんな事が書いてあるのか我が興味を持っただけで特に影響などないぞ。それより、その友人に[魔王]について話したりしてはおらんだろうな?』
『もちろんでございます。魔王さまの言動や人となり等も一切話しておりません。彼自身、そういう不正めいた事を嫌いますので、あちらからもそんな事は一切お聞きになりませんでしたよ』
『ふぅ〜ん。ヤヌスの息子とは思えないな(笑)』
『……彼とヤヌス様の間に何があったのかは分かりかねますが、子供の頃から父親であるヤヌス様を嫌っておいででした。今でもそれは変わっていないようでございました』
『名前を聞いておきたいところだがやめておこう。お前達が不正はよくないと言っているのだからな。我も先入観を持たないように聞かずにおく!』
『はい!』
'




