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魔王と兵士たち

イーブンは、すたすたと先を行く魔王に慌てて追い付いた。

他の兵士たちは、ふぅ〜っと安堵の息をつく……その瞬間、魔王が振り返り『おい!そこの兵士ども、お前らもついてこいよ!』

と、声をかけたものだから心臓が止まる思いをした。


『はい!ただいま!』

ギクシャクと不揃いな行進をしたものだから、鎧の擦れる音がなにやら騒がしい。


『くくくっ、ナニ?お前ら緊張してんの?鎧で音楽会やってるみたいだぜ、あはは!』


ここは笑っていいトコロなのか、肯定すべきなのか……と、余計に緊張し汗びっしょりになった。


訓練所に着くと、他にもたくさんの兵士たちが訓練していた。

『ほれ、お前らも訓練に混じってこい。我が見ていてはやりにくいかもしれんが、何時ものように訓練をしておけ。我はここで大人しくしておるからな、気にするな』


気にするな……と言われても……

何時なんどき、ご不興をかうかもと思うと訓練に身が入らない。集中できないのだ。


イライラとしてきた魔王が一言。

『お前ら、何のために訓練しておるのだ!? 叱られない為にか?違うであろう?

お前らの、大事な家族や仲間を守るために強くなろうとしておるのではないのか?

我が見ておるぐらいで気を散らすではないわ!』


まったくもってその通りである!と、全兵士の顔が引き締まった。

それからは何時もより気持ちのこもった訓練が出来た。

各々が、想定をしながら、対処法を考えながら、家族を思い魔国を思い浮かべ、いかなる襲撃にも立ち向かう事を学んでいった。


二時間近く、そうしていただろうか……

魔王から『よし、止め!整列!』と声がかかり全員が素早く整列した。


『おいそこのへばってるお前、お前もだ、それからお前!

お前らはちょっとコッチに集まれ!』と、次々と指名され、その20名ほどの者達が壁際の場所に集まる。顔色は蒼白だ。


『んでお前はコッチな。お前もお前も!』とまた違う場所に集まるよう指示された者達。


戸惑う兵士達だが、どんどん指名されて結局5組のチームに分けられ、ABCとチーム名をつけられた。


『よし!Aチームは今から一時間の休憩のあと、またこの場所に集合な。他のチームは解散!』


Aチームとは、最初に呼ばれた、あまり体力のなさそうでまともに剣を打ち合う事が出来なかった者達だ、揃って絶望的な顔をしている。

そして、一時間の休憩……ということは、その間に遺書を書くなりしておけ!という意味か?と、全員が黙々と家族に宛てて、今までの感謝の気持ちや不甲斐ない自分を謝罪する内容の手紙を書き、同僚に預け訓練所に向かった。


他の兵士たちは解散と言われた手前、装備のままで行くことは出来ず私服に着替えて訓練所へと向かった。


魔王とイーブンが訓練所に入った時には、Aチームは先ほど魔王がいた辺りを基準に整列し、他の兵士たちは壁際で整列していた。


『お?感心感心、きちんと並んで待ってるぞ!……で、お前らナニ?お前らは解散って言っただろ?』


壁際の兵士たちを見て発した魔王の言葉に皆、凍り付き誰もが震えがきてうまく口を開くことが出来なかった。

イーブンがすかさず『おそれながら魔王さま、彼等は皆、私服に着替えておりますので、解散後に仲間たちの行う訓練の見学に来たものだと思いますが。そうですよね、皆さん!』と皆を代表して言葉にする。


イーブンの助け船に、全員が敬礼しながら『そうであります!』と答えた。


『ふぅ〜ん、そうか。んじゃ始めるぞ!とりあえずお前ら、その鎧を脱げ!邪魔だからな!』


覚悟を決めてこの場に来たとはいえ、鎧を脱げと言われたAチームはカタカタとぎこちなく脱ぎ、綺麗に纏めて置いた。


『お〜〜!お前ら、強さはアレとしてもしっかりと教育されておるな。自分を守ってくれている装備を丁寧に扱えることは大事なことである。

これもコボルト兵隊長の教えか?』


唇をぎゅっと噛みしめイーブンが答える。

『左様でございます。もちろん、兵士でございますから強さは重要ではありますが、その方向性を見誤らぬようにと常々おっしゃっておいででした。

強さに溺れぬよう、傲らぬよう、常に「自分は何のために強くあろうと鍛練しているのか」をきちんと自覚して、その初心を忘れぬようにと……』


イーブンの目に涙が浮かんだことで、事情を知らない兵士たちはざわついた。

その場面にいた兵士たちは号泣しだした。


『お前達に謝っておく。我の不用意な一言のせいで何の落ち度もないコボルト兵隊長が命を奪われた。

我としては至極当たり前の事を言ったつもりであったが、伝えた相手が悪かった。

チカラ至上主義の者であった。

止める間もなく兵隊長のアタマを潰した、弱者は強者の前ではこの通り!と、誇らしげにな!

寝起きでイライラしていたとはいえ、もう少し言葉を選ぶべきであった。

兵隊長とその家族には済まない事をした』


なんというコトだ!と、兵士たちは涙を流す。


『お前らは、兵隊長の教えを忘れぬよう、しっかりと努力を惜しまぬようにな!』


最敬礼で、はい!と返事する兵士たちを見て満足げに頷き、言った。

『よ〜し、んじゃ早速始めるぜ♪さっき一番に呼ばれたヤツ、ん〜〜と、お前か?ちょっとここに来い。他のやつらは危ないから下がってろ。一応結界は張るがな』


……と言われ、うっかり忘れていたが自分たちは訓練という名の呼び出しを受けたのだったと思いだし、Aチームはまたまた顔面蒼白だ。


呼ばれた兵士は『ユング』という。


(敵襲で命を落とすも、魔王さまに殺されるも、『死ぬ』という意味では同じだ!しっかりしろオレ!)と自身にハッパをかけ、深呼吸しながら確りとした足どりで魔王の面前にて礼をとった。


『ほぅ?良い顔になったな、覚悟を決めた漢の顔である!』


『もったいない御言葉、忝なく……』

喉に何かが詰まったようになり、後の言葉は出てこなかった。


『な〜んだよお前(笑) こんなことで泣いてたら今から受ける試練の痛みに耐えられねぇぞっ!』


『はい!申し訳ございません!大丈夫でございます。いつでもどこからでもどんとこいでございます!』


『ぷくく!どんとこいって(笑) 手元が狂うじゃねぇか』

瞬間、光輝く結界が顕れ二人の姿が見えなくなった……と思ったら、中から恐ろしい叫び声が聞こえて来た。


『喧しいわ、黙れ!』という魔王の声と、

『ユング!!』と叫ぶ兵士たちの声が重なり、やがて眩い光が淡くなり消えた。

そこには、満足げな様子で腰に手をあて仁王立ちする魔王と、意識を失い床に倒れ伏したユングがいた。


息を飲む兵士たちをよそに、魔王はゲシゲシとユングを蹴りながら『おら!起きろや!』と怒鳴る。


『う……うぅ……』と呻きながら、よろよろと起き上がるユング。


『どうだ?調子良くなったんじゃね?』


『は、はい、魔王さま!魔力の流れがとてもスムーズになっております!でもどうして……』


『お前な、魔力が発現するより前に大きな怪我か病気してると思うぜ、一度親に聞いてみな。その際に臓器に傷が出来てそれが大きなコブのようになって流れを阻害してたんだよ。だからあんなぐらいの訓練でもへたばってたのさ♪それにお前は剣士向きじゃないしな』


『……実は……兵隊長様からも剣士以外でも戦う術は有るのだから、一度色んな武器を試してみるのはどうか?と言われておりました。

しかしその時の自分は、兵士に向いていないから辞めたらどうかと言われたような気がして。

立派な兵士になって、この国やみんなを守ります!と、両親の前で宣言して出てきた手前、おめおめと退職して帰郷するわけにもいかず、より一層訓練に励みましたが成果挙がらず途方に暮れておりましてございます。

魔王ざば!あでぃがどぉごだいばず!』


最後のほうは、涙と鼻水にまみれ言葉を発しているものだから何を言ってるかわからない有り様だが、見ていたみんなも彼の日頃の頑張りを知っていただけに貰い泣きして、すすり泣きの大合唱だ。


『あ〜ぁ、こりゃもう今日はダメだな(笑) もう帰って休め、今日は解散だ!

ユング?にも言ったが、Aチームは剣士向きではないグループだ。無理矢理剣を練習してもある程度の腕にしかならん。

今の話のように、剣士イコール兵士と思っておるのなら、皆それは間違いだぞ。

自分の能力を一番発揮出来る部署に居てこそ、才能は努力と比例する。

剣士を止めろと言われたからと、卑下するでないぞ!お前ら其々に一番合った場所を我が見つけてやるからな!』


『はい!魔王さま!』と皆が希望に満ちた声で返事し、はいはい、かいさ〜ん♪と軽い調子で魔王が言った。





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