ジェイドと魔方陣
「……みんな、感じたか?」
ゆっくりと頷く仲間達を見つめ、ジョージは優しく微笑んだ。
「俺は君たちと一緒なら絶対に大丈夫だと思うよ、みんなもそう思うだろ?」
「そうね、私たちは自分のやるべき事をやり遂げるだけよ。それにしても圧力は増したけれど……」
「あぁ、狂気や邪悪さが増した感じはしない。
今回誕生した魔王は好戦的ではないのか?それともまだ目覚めたばかりで意志が明確ではないのか?」
「え?ガイさん、どういう意味?」
「今までの文献の中には、稀に人間界には不干渉の魔王もいたと書かれている。
かといって友好的というわけでもないがな。
魔王が復活した後も、侵略して来ることもなくそれまでとあまり変わらず過ごせていたから各国とも静観していたのに、とある国の国王が『魔族は滅ぼすべきだ!』とか言って攻めこんだ挙げ句、全滅……ということになって、全世界が極度の緊張状態になったらしい。
だが、その国を滅ぼしたあとは他国を侵略することもなくそのまま時が流れた……ということもあったそうだ。
今回はまだどうなるかわからんがな……」
「え〜〜! それって人間側が理由もなく攻めこんだってことじゃないの?」
「まぁ……理由は、『怖かったから』だと思うよ。未知の脅威に晒された時、いかに冷静に分析し行動出来るか……だよね。
冒険者の中でもたまに自分よりも高ランクの魔物に出くわした時に、恐怖に支配されて闇雲に攻撃したり、悲鳴をあげて逃げまわったりしてパーティーを全滅させてしまった……って話を聞くだろう?
ロックオンされてない時は、冷静に対処すればそのまま森に帰って行ったかもしれないのにね。
だからね、最高責任者が恐怖でアタマが回らなかったら、従う者たちは悲惨だよ。
現に兵士だけでなく、農業従事者やら赤ちゃんやら、その国に住まう人びとは一人残らず一夜で蒸発してしまったんだから」
「……蒸発……」
「そう、蒸発。家屋も御遺体も草木も……全てそこにはなかったかのように、深くえぐられていたそうな。
ロストラタから北北東に向かったところに大きな湖があるだろう?
伝承では、そこにその滅んだ国があったんだと。
アレクセイのご先祖さま、『次は我が国か?と生きた心地がしなかった』と日記……というか、備忘録に書き記していたらしい」
「なんて名前の国だったの?」
「ふふっ、わからないのさ。その名を口にして、もし魔王に聞こえてしまったら……と当時の人びとは畏れ戦き、特に御布令が出たわけでもないのに元からそんな国がなかったかのように記憶からも記録からも消し去られたようだよ」
「ふぇ〜〜!魔王さんってとっても強いんだね」
「あぁ、とてつもなく強い。特にその『不干渉の魔王』は桁違いだ。他の好戦的な魔王たちもとっても強かったらしいが、世界中が闇に包まれそうになるたびに『英雄』が誕生し長い戦いの末、人間側が勝利した。
俺たちだって強いよ。そして信頼しあえる仲間がいる。これは何よりも心強いコトさ!
これからも油断なく旅を続けよう。そして魔王を見極めなくてはな」
「「「「「了解♪」」」」」
もちろん今までだって、のんびり旅をしていたわけではない。
多くの人びとを餓え・病から助け、脅威を取り除いて来た。
しかし、これからはもっともっと神経を研ぎ澄まし少しの異変も見逃さないようにしなければな……!
新たな決意を胸に抱き、旅を続ける。
ふとジョージが思いつき皆に訊ねてみた。
「なぁなぁ!攻撃系の魔方陣ってさ、魔法の現象のところ以外はけっこう一緒じゃない?
ここに他の魔法を……もっと強力な魔法を差し替えたら新たな魔法ができるかもよ♪」
「「「「「ん?」」」」」」
「ほら、だいぶ前にさ、俺の故郷ではケータイ小説ってのがあって『日本語が古代文字』というご都合主義……って言ってただろ?
でもそこに現象を当て嵌めるんだとしたら、漢字入れてもよくない?
一度試してみたいなぁ〜」
「……まぁ試してみる分には構わないけど、暴発したら危ないわよ?
それ以前に発動するかわからないし……」
「そこはジェイドの絶対防御で結界を張ってもらうとして。
発動しなけりゃしないでいいんだよ、もともとこの世界にはない文字なんだから。やっぱり『世界毎に言語は変わる』を立証出来るんだし。
ダメ元って感じで軽くいけばいいさ!」
「……で、その心は?」コソコソ
「ジェイドのイメージを掴むための資料になればと……」ボソボソ
「なるほどね、わかったゎ♪どこか広くて動物たちもいないような場所を探して実験してみましょ♪うまくいけば、他にも役立つ魔方陣が作れるかもしれないしね」
「役立つ魔方陣?」
「えぇ、魔方陣は複雑になればなるほど作成が困難になるのよ」
「例えば解呪や浄化の魔方陣は既に在るんだけれど、とても膨大な数の文字を入れなくてはならないから、作成者の技量と魔力が大変なことになるんだ。
だからそれらの魔方陣は、大聖堂や王宮ぐらいにしかない。
だけど漢字にはその一文字一文字に意味がこめられてるから、もし漢字で賄えるならたった二文字なんだよ。それが普及出来れば人びとの暮らしがもっと豊かになると思う」
「ふぇ〜〜すごいよ!ミカさんジョージさん♪ぜひ試してみよう?」
「あぁ!これが成功したらジェイド、毎日お勉強だぞ〜(笑)覚悟しとけ?」
「え〜〜!僕が覚えるの?」
「いや、みんなで覚えるんだ!」
「「「げっ!マジか……」」」
「わ〜ぃ、みんなでお勉強だぁ♪」
「……リーダー、人びとの為には発動すればいいんだが、オレの為には不発に終わって欲しい……」
「「「「「あははは♪」」」」」
旅の途中で荒野を見つけた。
「ミカ、この辺りは大丈夫かな?一度試してみよう!」
「わかったゎ。じゃあこのポピュラーな『火の魔法』でやってみる?」
「だな!これくらいの魔方陣なら書ける人は多いと思うから、これでやってみるか♪」
火の魔法の魔方陣は、シニアスクールに通う子供たちが最初に習う魔方陣だ。
料理のため、暖をとるため、一番に教えられる魔方陣の一つである。
そこに『竜巻』という文字を入れた。
広範囲に展開してもらった結界の中は、枯木や岩を持ち上げ渦を巻く竜巻が発生していた。
「「「おぉ!!!」」」
「これ……ミナさんの……」
「ミカ、テンペストの魔方陣あるか?」
「えぇ、あるわ。これよ」
出された魔方陣の径は、今発動している竜巻の魔方陣の3倍はありそうだ。
「これだけの規模の魔方陣を、魔力にムラ無く書くのは至難の術だ。とてつもない集中力と気力がいる。
魔方陣士の皆さんは、本当に大変な修行をして修得されている。
でも前線に立って闘う兵士たちには軽視されている国もある。
身体を酷使して鍛える事こそ修行だ!と思っている人びともいるからな。
お互いが相手の長所を認めあえればもっと理解しあえるんだがな」
「さぁ、湿っぽい話は後にして、どんどんやってくよ!
さっきの竜巻に『巨大』をつけて発動出来るかやってみるね♪」
「「「「巨大?」」」」
「よく見ておけよジェイド。しっかりと今から見る光景を目に、心に焼き付けるんだ!」
「……わかりました」
それは、膝が震え胸が締め付けられる程の恐ろしい光景だった。
樹や岩だけでなく、地面までめくれあがり内部にあった巨岩まで持ち上げ、砕いて行った。
「「「「………」」」」
「これ……この簡単な魔方陣でこの威力は危険だわ。ジェイドの魔法修得のあとは封印すべきね、ジョージ」
「たしかに……。これほどの破壊力とは。ジェイド、早く修得してね!他の人びとにバレたらヤバそうだ!とりあえず、一度やってみて?」
「えっと……魔法の名前どうしよう……」
「ジェイド、心のなかでイメージをかためてそのまま発動してみてくれる?」
「はい!いきます!」
今見た光景を思い浮かべていると、だんだん恐ろしくなってきて、
発動するときに思わず「こわ〜〜い!!」と叫んでしまった。
「「「ぷふ〜〜!」」」とみんなが噴き出す中、ジョージはじっと見守る。
「ジェイド、君の中ではさっきの巨大竜巻はこれほどの威力だったんだね。破壊力が2割増しになってるよ(笑)」
「僕……僕、魔法がうてたの?」
「ああ!それもすごい魔法だったよ!この調子でどんどん他の魔法も覚えていこうね!」
「……で、ジェイド。今の魔法の名前、まさか『こわ〜〜い!!』じゃないだろうな(笑)」
「え?」
「ふふっ、ジェイドは本当に可愛いねぇチャウダー」
『きゅきゅきゅ!』
結局……というか、やっぱりからかわれながらもジェイドは全ての魔法を発動することが出来た。
まだ夢心地の様子のジェイドにミカが優しく告げた。
「ジェイド、あなたスゴいわ!人は得手不得手があって、初級は全て発動出来てる人でも難易度が上がると偏ってくるのよ。
私も全ての特級魔法は放てるけど、やっぱり土系は苦手。そういう苦手感があなたからはしないもの、すごいことよ♪」
「ホントだよジェイド。しかし、わかっていると思うけど、大いなるチカラを持つ者は、その精神も鍛えなければならない。そのチカラに溺れる事無く、傲る事無く、人びとの為に使わなくてはならない。
畏れ避ける人もいれば、利用しようとちやほやする人も出てくるだろう。
惑わされる事無くいつまでも今の君であって欲しい。ジェイドはきちんとわかっているだろうけど、一応な♪」
「はい!ありがとうございます!絶対に忘れないよう心に刻みます♪」
ヨシヨシとみんなにぽふぽふされ、
「もぉ〜! また子供扱いするぅ!」と、ぷんすかしている。
厳しい旅のなかでも、やはりジェイドは皆の癒しになっているようだ。
「ねぇ、ジョージさん♪次は役立つ魔方陣を教えて?
痩せた土地で作物が育たない村や、水場が近くに無くて遠くまで子供たちが水汲みに行ってるのを助けたい!」
「そうだね♪水は井戸を掘って『湧水』でどうだろう……
痩せた土地は『豊穣』でいけるかな?ちょっと試してみるか♪」
1メートル程の穴を掘り、湧水の魔方陣を投げ入れた。
その横の土を少し耕し、豊穣の魔方陣を埋めてみる。
「様子見に、今夜はここに泊まろうか」
「あの……今の魔方陣の文字って……」
「おや、ジェイドは気付いたのかい?そう、あれは俺の名前の文字さ♪実るって意味だよ、豊かに実る……で、豊穣♪
しかしあんなに多い画数なのによく覚えていたね!やっぱりジェイドは天才だ!」
「いや別に天才じゃないよ、この前パソコン?で見せてもらったじゃない。だいたい一度見たら覚えるよね♪」
「……ジェイド、さっきのテンペストの方の魔方陣って書ける?」
「ん〜っと、試してみる!」
すらすらと書き上げていく。
もちろん、発動させる為ではないので魔力は籠めていないが、間違えることなく書き上げた。
「……ミカ、ジェイドって俺と同じように絶対記憶能力を持ってるんじゃないかな?」
「そうみたいね。本当にこの子はあの村で産まれたの?
もちろん、村人の中でも秀でている人はたくさんいるし、過去の英雄でも元は農夫だった人も居るけど、突出してるわね……」
「村長さんも言ってた。あの両親の間に生まれたことは間違いないが、知らない人が見れば貰い児だと思うかもしれない……って。
たしかに、親兄弟とは少しも似ていなかったよ」
「もしかしたら、神の落とし児かも……」
「神の落とし児?」
「えぇ、たまに平凡な親から類い稀な才能を持つ子が生まれた時にそういうの。
普通は比喩的な言い方だけど、ジェイドの場合は本当に神様が魂を宿す器を間違えたのかしら?と思えるほどね」
「あぁ!俺の国でも、トンビが鷹を産むって諺があるなぁ!」
「ふふっ♪どこの世界でもそういう言葉ってあるのね」
翌朝、昨日の穴は綺麗な水で満たされ、動物たちが飲みに来ていた。
周りの土からは新芽が芽吹いている。
「うふふ♪君たち、ケンカせずに仲良く使ってね!もうちょいしたら、美味しい果物や木の実も出来るかもよ♪」
こてんと首を傾げながらも仲良く水を飲む動物たちに、ジェイドのニヤニヤは止まらない。
「可愛いなぁ〜♪やっぱり行商のお供はリスとかうさぎなんかの小動物だな!」
「小動物が小動物をお供にだって♪」ボソッ
「もう! アンリさん、しっかり聞こえてるからねっ!」
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