トミー、お兄ちゃんになる
「う〜ん、あの時はすごい圧力を感じたなぁ……」
『ぷよ?』
「あぁ、前世で旅をしていた時に魔王が復活したんだ。世界中の空気の濃度が増したような感覚だったよ。
はっきりと気付いたのは、手練れの冒険者さん達だけだったけどな……」
『ぷぅ〜〜』
「さぁ、朝食の時間だ。行くぞ!」
「おはようございます!お腹すいたぁ〜」
「やあ、おはようトミー。ぷよちゃんもおはよう」
「ジム兄ちゃんおはようございます!」
「あれ?まだジミーって言えないのかい?」
「うんとね、ジミーのあとに兄ちゃんをくっつけるとね、ジミーにぃたんになっちゃうの。赤ちゃんみたいでヤダ!」
「あはは。そうだなあと少しでトミーもお兄ちゃんになるんだもんな」
「そうだよ!早く産まれて来ないかなぁ〜ボクのいも〜と!」
「ふふっ、妹って決まってるのかい?」
「うん、決まってるの。でないとママがボクにすぐに可愛らしいお洋服を着せようってするから、絶対いも〜と!」
「そういえば……ははは!口紅も塗られそうになってたな、さすがにお父さんが止めたけど(笑)」
美男美女の両親の間に生まれたこの兄弟は、整った顔立ちをしている。
上の二人はキリッとした感じで、ハンサム系。
しかしトミーはほんわかとした感じで、キュート系。
上の二人の時には芽生えなかった感情が、キャシィの中で生まれた。
(まるで女の子みたい。可愛いお洋服を着せたいゎ♪)……と!
このままでは大きくなるまでずっとこの調子ではないかと危惧していたところキャシィが身籠ったことが判明。
ガッツポーズをしながら、かつてないほど神に祈った。
「神様、一生のお願いです。どうか……どうか次は女の子をお願いします!
くりくりお目々で笑顔の可愛い女の子をぜひ!」
今まではどんな苦境に陥ろうとも決して神にも他人にも頼ろうとせずに乗り越えてきた。
恐ろしい程の数の魔族が襲って来た時も、まるで人質のように抑えられた村人達を救出に向かった時も、少しも怯まず神にも祈らず立ち向かってきたトミー(ジェイド)が今、膝をつき、指を組み合わせ懸命に祈っている。
……いや。。。
「ねぇ神様、僕って神様のお願いをいっぱいきいてきたよね。一つぐらい叶えてくれてもバチあたらないよね!
イヤだって言ったのにいつも無理矢理いろんなコトやらされたよね、妹にしてっていう些細なお願いぐらいしてもいいよね?
たまにはきちんと恩返ししとかないと誰も神様を敬うことなんてしなくなるよね!」
もはや祈りというより、脅迫かもしれない。
天上から見ていた神様や天使たちはクスクスと笑っていた。
それから10日ほど過ぎた頃、ホーミッド家から元気な産声が聞こえた。
トミーの祈りが通じたのか、それはそれは可愛らしい女の子だった。
まだ産まれたばかりだというのに、既に見る人全てを魅了するような、愛くるしい女の子であった。
(う〜ん、これは家族みんながきちんと育てないと、鼻持ちならない高飛車姫になっちまうぞ!)
ちょっと難しい顔をして覗き込むトミーを見て、父親が優しく言った。
「どうしたんだい?トミー。
ママの愛情がこの子に移ったのかと心配してるのかい?
パパとママにとってはみんな同じ大事な大事な宝物だよ!」
「違いますょ、パパ。これほどに愛くるしい赤ちゃんだと、周りの人たちもメロメロになって何でもいうこと聞いて、しょーらいはワガママ娘にならないように家族みんなで考えないとダメじゃないかしらと思ったんですよ!」
アランは目をぱちくりさせて、
「あはは、そうだな。たしかに破壊力抜群の可愛らしさだ。みんなできちんと育てようね、良いことと悪いことの判断がきちんと出来て、容姿だけでなく心も綺麗な子に育つよう、みんなで協力しあおうね!
しかしトミー、本当にお兄ちゃんらしくなったなぁ」
頭をぽふぽふされて、
「えへへ〜♪」と笑った。
そして気付いた。さっきからサムがひとこともしゃべっていない。
きょろきょろと辺りを見回すと、だばだばと涙を流しながら赤ちゃんを見つめている。
「サム兄ちゃん、どうしたの?お腹痛いの?」
「あはは。トミー、お前が生まれた時、僕はちょうど今の君ぐらいの歳だったけど、ただただ可愛い弟が出来た!って喜びだけだったんだ。
お兄ちゃんだよ〜って言いながら、ぎゅう〜って抱きしめたりしてね。
でもやっぱり『妹』って、何か違うよね。
触れると壊れちゃいそうでなんだか怖いな(笑)」
(うわぁ!サムがシスコンになる予感……)
それから3日ほど過ごして、兄たちは学校のある街に戻った。
サムはとても名残惜しそうにしながら……
その日のお昼前、トミーにお弁当を作ろうとしていたキャシィに、
「ママ、リリィのお世話で大変なんだからお弁当作らなくていいよ♪
じいちゃんトコ行って食べてもいいし、たまにはお屋台の食べたいなぁ!」と言った。
まだ生まれたばかりの妹は、3時間毎にお乳を要求して泣く。
当然母親のキャシィは授乳しオムツを替える。
自分のお弁当まで作ってもらうのは悪いかな?と思ってそう言ってみた。
「……トミー……それでなくてもさみしい思いをさせているのに。
お弁当くらい作らせて?」
「大丈夫だよ、ボクもうホントにお兄ちゃんなんだから!
それに……えへへ♪お屋台のスープがとっても美味しそうな匂いしてたの!」
「まぁ!それが狙いなのね(笑)
わかったゎ、ありがとうトミー。あまり食べ過ぎちゃダメよ♪」
「はぁい!じゃあ遊びに行ってくるね!」
ぷよちゃんを肩に乗せ、家を出ると食堂には向かわずそのまま門を出た。
大人でも歩いて行けば2時間ぐらいかかるところに実り豊かな森がある。
ほんの5分程でたどり着いたトミーがぷよちゃんに話しかける。
「ねぇ、僕は今から色々採取するけど、お前はどうする?
この辺りはマッドグリズリーとか金猿がいるかもしれないからあまり遠くに行くなよ?」
『ぷぅ〜♪ぴょっぴょっ!』
ぽよんぽよんと森の奥に向かって行った。
「う〜ん、不思議なヤツだなぁ……
初めて会った時はコックウに足蹴にされてたから弱いのかと思ってたら、この前はコカトリス狩ってくるし……
あれってコックウより数段強いはずなんだけどなぁ〜」
たくさんの果物や木の実薬草などを採取していたら、ぷよちゃんが帰って来た。
なにやら嬉しそうに、つやつやしている。
『ぷっ、ひょ〜〜!』と叫びながらたくさんの素材を吐き出した。
「おぉ!これは万能薬を作るのに必要な薬草じゃん!でかした!
これは心臓病に効くハーブ……すごいな、ぷよ!
……てか、金猿狩ってきてるし……
お前、ホントはめっちゃ強いんじゃないのか?」
じぃっと見つめると、『なんのコトかな?』という風にしらばっくれようとするが、目が泳いでバレバレだ。
「まぁいいゎ、強いんなら一人で森の奥に行かせても心配せずにすむからその方が助かるよ♪」
そういうと『ホント?』というように振り向き、おいおい泣き出した。
「あはは、強いってバレたら棄てられると思ったのかい?そんなことしないよ♪むしろ心強いさ!
でも肩に乗って泣くなよ、服が濡れるからな」
もうそれからは全開だ。
次々と魔物を狩って来ては『褒めて?』という顔をする。
「ありがとうな、でも襲って来ない魔物たちはあまり狩ってやるなよ♪
さっきの薬草とか、果物なんかを採って来てくれたら嬉しいな♪」
『ぷよ!』
ひとしきり採取をして一段落したらお腹が空いてきた。
「ちょっとお腹空いたね、ご飯にしようか♪ぷよも食べる?」
『ぷよ!ぷよ!』ぴょんぴょん
「あったあった!ゾースイっていうんだよ、これ♪
すんごく優しい味なんだ、ジョージさんの故郷の料理なんだよ♪」
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