テーマ7 決闘?
今回、長くなってしまい2500字ほどあります。
「ひ、酷い目にあった……」
「……おつかれ」
「親切が、仇になったねぇ」
案内人であるエルフのお姉さんの話しを聞き終わった僕は、第2生活エリア『森』にあるギルドに来ていた。
予想通りというか、冒険者の中で待ち合わせはギルドと、だいたい決まっているので二人がいてくれてよかった。
「二人とも何にする?」
今はギルドにある食堂にいて、みんなで机の上に広げたメニューを見ている。
個人経営のレストランに行ってもよかったのだが、それは後日ゆっくりと……ということになって、今日のところはここになった。
「う〜ん。私はこれ。麻婆豆腐定食にする」
「……私は豆腐ハンバーグ定食。おいしそう」
ここは豆腐を使った料理がおススメみたいだ。
「じゃあ、注文するよ」
テーブルの隅に置いてある呼び出しボタンを押す。
ピンポーン
という音がしたあとエルフの店員さんがきた。
僕が代表して注文をする。
ちなみに僕は日替わり定食だ。
しばらく待つと、注文した料理がきたのでみんなで食べる。
みんなでおいしい、おいしいと言いながら食べ、20分後には食べ終わった。
そして、今日はここで宿をとって一泊したあと、明日はセツナとナリアのいた孤児院の方に行こうということになり、解散となった。
○ ○ ○
そして翌日。
『森』のギルドで待ち合わせということにしていたのだが、一番早くに来た僕は、すごく面倒なことに巻き込まれていた。
というのは……
「お! お前見ない顔だな。新人か? 新人だな。ここまで来たってことは、そこそこの戦闘力はあるんだよな」
大柄な体型の冒険者の先輩に絡まれていたのである。
「よし坊主。俺と決闘しようぜ」
そんなことを言い出したのだ。
なんでもこの冒険者さん。
結構有名な人で、決闘のバルトと呼ばれているらしい。
決闘が好きで決闘をするために冒険者になったのだとか……テーマダンジョンの存在を知ったときは、大喜びで来て即移住を決めたとか……。
というのも、ここでの決闘は死ぬこともなければ怪我をすることもないので、心置きなく全力を出せるそうだ。
「俺が取る対価は無しだ。代わりに、俺が負けたら次の生活エリアに行くまでの、すべての冒険階層の情報を教えてやる。どうだ?」
「やります!」
勝てるとは思ってないけど、こっちにはデメリットのない条件だ。
対人戦闘の経験値も上がることができるし、これは乗るしかない。
という訳で、闘技場の方にやってきた。
闘技場では、すでに決闘をやっている。
誰がやっているんだろう?と、待機室に置いてあるテレビを見ると……
『勝者ダガー!』
……え?
『よっしゃあ! これで今日の晩飯は、お前持ちだからな!』
ダガーさんは、僕にここのことを教えてくれた冒険者だ。
戻ってたんだ。あとで挨拶しておこう。
『え〜それでは、整備をしたあと次の決闘に移りたいと思います』
司会の人がそう言った直後、スタッフの人が司会の人に近寄って何か言っていた。
『え?……整備はいい?……でも結構壊れてるよ?……次の決闘者は?……バルトさんとラック?……大丈夫なの?……いや、バルトさんじゃなくて、え?……いい経験?……まぁ、そういうことなら』
…………え?
『では!続けて決闘を行います!西側、決闘のバルト!』
司会の人の紹介から歓声を浴びて、バルトさんが登場した。
待機室に置いてある武器を手に取って急いで闘技場に走る。
『東側、新人のラック!』
「新人! 頑張れよ!」
「気楽でいいぞ!」
たぶん、バルトさんはこういった、新人の冒険者の人たちと何回も決闘をしているのだろう。
それは、けっして虐め目的とかではなく経験を積ませるため、それと決闘が好きだから……。
「ラック! 一発かましたれー!」
「……頑張って」
関係者の席には、セツナとナリアが座っていた。
そして、その二人を見てバルトさんは……
「なんだお前! ハーレム野郎だったのか! 今日だけは痛い目にあっておけ!」
「偶然ですから!」
『それでは、両者。位置についてください……つきましたね。では、バルト対ラック……始め!』
決闘のコングが鳴った。
僕とバルトさんとの距離は10mくらいだ。
そして勝負は、一瞬でついた……。
数多もの決闘をし、いくつもの経験を積んでいるバルトさんは、物凄い速いスピードで僕に向かって……来ようとした。
しかし、バルトさんが右足を闘技場につけたとき……
グキッ!
「あぁっ!」
バルトさんが素っ頓狂な声を上げる。
大きな石があり、それを踏んでつまずいた。
ここにくるまでに、不安定な足場などたくさんあったのだ。
でも、なぜかつまずいた。
そして、次に出そうとした左足は空を蹴り、剣を持っている右手が前に出る。
その剣の刃先は、バルトさんの顔を向いていた。
ここまでくれば、お分かりだろう……バルトさんは、そのまま自分の剣に刺さって、闘技場の外へと放り出された。
「「「「「えぇぇぇぇぇえええ!!!!」」」」」
多くの人が期待を胸に見守るなか、予想外の決着がついたため、驚きの声が上がった。
バルトさんは闘技場のセーフティーシステムが働いたようで、気絶している。
担架で運ばれていくバルトさん。
『え、えー、しょ、勝者? ラック。皆さん拍手を』
パチパチパチパチ
司会の人以外、誰も拍手をする者はいなかった。
○ ○ ○
「あっははは、ははははは! あー笑った笑った。こんな笑ったの久しぶりだ」
六畳ほどの大きさの部屋。
ちゃぶ台の上に湯のみと煎餅を置いて、床に座布団を敷いて座っている男が、ラックの決闘を見て大笑いをしていた。
「リナ。今の見た? 面白かったよね?」
「まぁ、滅多にないことですよね」
リナと呼ばれた、背中に白い大きな羽をつけた女性は、そう答えた。
「バルトもミスすることはあるんだね〜。悪運を引き寄せられたのかな?」
「はあ?」
男の言っていることがイマイチ理解できないリナ。
「ラック君か。へぇ〜、あの二人とパーティー組んでるのか。文字通り幸運なんだね〜。……うん。あれを試してみよう。リナ、あれの準備しておいて、明日からやろう」
「え? 明日からですか? かしこまりました」
「うん。よろしくね。それと、ちょっと孤児院の方に顔を出してくるよ」
男はそう言って立ち、部屋を出ていった。
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