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死にたがりのキャロル  作者: ナツグ
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8.誘爆カプリッチョ-1

 集団の中で、誰かが疑心暗鬼になると、その中にいる大半の人間に、その疑心暗鬼は伝染していく。異質なものに出会えば排除したくなる。出る杭は打ちたいし、だからこそ出ていない杭たちが徒党を組み始める。その中にはちょっと出ている杭もいるが、頭を引っ込めて自分は仲間だとアピールする。俺はそういう行為にこそ気持ち悪さを感じるが、個性を尊重しろと同じ色のメガホンを使って整列する人間も嫌いだ。


 小さい頃、俺はいじめられていた。発端はしょうもないことで、俺の大きな耳が不気味だとかそんなことだった。その内、連中はより気持ちの悪い事実に気付いてしまった。俺の耳がある点だけにおいて異常に良い、言い換えれば悪いということに。俺は、他人の心音に限って、敏感に聴きとることができた。今もそうだ。今隣にいる、カトレアの心臓がドクンドクンと、全身に血液を送り出す音が鮮明に聴こえている。


「タコ焼き、美味しかったですねー。アブミさん、タコ焼き作るの上手でしたね、コツとかあるんですか?」

「ん、ああ。あんまり焦って回さないことと、一気に回さず四回くらいにわけて回転させること、じゃねぇか。カトレアは逆に、一々慎重に焼き過ぎだったが」

 カトレアは一つのタコ焼きに随分と時間をかけていた。そのせいで残りのタコ焼きを焦がしていた。

「そうですね、今度焼く時の参考にさせていただきます」


 誰に対しても敬語、上下関係とかいいから話しやすいように話せ、と言っても敬語のままだった。カトレアはビスカやヒバコ、その他一般人と心音が異なる。自分が話す時より、相手が話している時に心音が速くなるのだ。それと、俺だって知りたくて聴いてるわけじゃないが、ヒバコと相対する時、カトレアは明らかに心音が速くなる。何らか特別な感情を、あいつに抱いていることは確実だ。


「ヒバコは下手くそだったな」

「うふふ、そうですね。不器用なりに一生懸命やってましたね」

「あいつはいつもああなのか? 最初は骨のなさそうな奴だと思ってたけど、曲は逃げずに仕上げて来たしなぁ。取り敢えずライブが終わるまではあいつの評価は据え置きだな」

「でも、意外と辛口と言うか毒舌ですし、人と見てる場所が違うようにも思いますよ」

「人と見てる場所が違うっつーか、どこ見てんのか分かんねぇんだよな。俺よかよっぽど危なっかしい奴だぜ」

「それは私も否定できません。何を考えてるのか、分からないんですよね」


 そうだ、ヒバコは何を考えているのか分からない。俺が強めに啖呵を切っても、表面上は慌ててるように見せておいて、心音は至って平常ということが多い。


「なんであんな奴の家に、住み着いているのかねぇ。ああいう奴相手だからやり込めやすいのか?」

「ビスカさん、ですか?」

「そうだよ。あいつは、最後の最後でタコ焼きを焦がしてたな」

「よく見てますね。そう言えば苦々しい表情をされていたような気がします。私、最初にビスカさんと出会った時は、結構怖い方なのかなぁって」


 ビスカは見た目があれだから怖がられるのもよく分かる。それに、俺やビスカと違ってヒバコやカトレアは学生だし、関わりの薄いタイプの人種であることは俺も、ビスカだって自覚しているだろう。


「怖いってよりは、ある種の感情が欠落した奴なんだよ。その代わり残りの感情が強く出る」


 なんだかんだでビスカとは長い仲ではあるが、音楽以外のことであらぶっているところを見たことがない。


「そうですね。ビスカさんは感情的になることが少ないというか、感情が表に出にくいというか。逆に、怒る時は烈火のごとく怒るし。ヒバコ君もよく餌食になっているみたいです」

「へぇ、そうか。ビスカは、あいつはいつもワンマンというか、一人で何もかもやっちまうところがあるよな。だから誰かと暮らしてるって時点で、なんだか意外だよ」


 ビスカが共に感情的になれる相手が見つかったということなのだろうか。誰かと物事を共有することを避けて来た女に、今更誰かと生活を共にできるというのか。


「ビスカさんは一人で色々な楽器をこなしていたらしいですね。だからこそ、一人ぼっちなところがあります。ある意味ではヒバコ君もそうなんですよ。彼は、いつも仲間外れです」

「なんだ、学校でハブられてでもいるのか?」

「ハブられている、というと聞こえが悪いですが、そう言うこともできるかもしれません。ヒバコ君は、誰かと話していても距離を置いているというか、仲良くなることもしなければ遠ざかることもしない人なんです」


 ヒバコは、どうやら人付き合いが苦手なタイプなのだろう。俺もそうだ。ただ、種類が違う。


「はぐれ者同士、そりが合うのかね」

「そうかもしれません。なんにせよ、既に一年以上、二人の付き合いがあるというのがとても衝撃的でした」

「俺もだよ。ビスカと一年同じ部屋で暮らせ、なんてパフェ一年分貰ったって無理だし、ヒバコと暮らせって言われてもつまらなくて一週間で引っ越しちまうよ」

「そうですか? とにかく、二人暮らしをしている素振りを全く見せなかったのが、凄いですよね。少なくとも私はヒバコ君とビスカさんが一緒にいるところを見るまで、気付きませんでした。」

「自然と振舞えるくらいには二人は互いの生活に溶け込んでたってことだもんな。大したもんだ、意外とあいつら良いコンビなのかもな」

「どんな形であれ、ああいう人間関係を築けるのは羨ましいです」

「ま、ディケンズはまだ始まったばかりだし、ああいうのは嫌だけど、これから次第だろ」


 薄闇の車検場の手前で右折をして、狭い道を進むと金平駅が見えて来た。駅の近くでも少し薄暗い。そこからは特にこれといった会話もなく、カトレアは改札前、手を振って向こう側へ消えて行った。電車はしばらく来ないようだった。


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