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目立たない僕と華やかな彼女  作者: くろすく
9/10

僕と花園さんが馴染むまで 8


投稿したとばかり思っていた私の話をしましょうか?


というわけで、投稿した気になっていましたすみません。

なんか最近筆が乗らないなあと思いつつ確認したらこれですよ。


とまあそんなわけで遅くなりましたが、どうぞ!




「それで颯太、なーんで俺んところに花園ちゃんを連れてきたわけ? まさか彼女ですって紹介するためにきたんじゃないだろ?」


ご飯を食べながら花園さんと二人との仲が少し深まったことで朔も多少は遠慮がなくなったらしく、いつもはもっと距離を置いて接するのに今日はそうでもないみたいだ。


とりあえず僕は朔の勘違いを正しておくことにしよう。仮の役割としてそれをやるとしても、本当のところは違うわけだからそこまで僕の知り合いに広めるつもりもない。


「前提として、花園さんは僕の彼女じゃないけどね。用があるっていうのは確かだけど」


僕がそう言うと朔は器用に片方の眉を上げて答える。


「ふうん? お前が俺に頼みごとってなんだかんだ珍しいよな? なに、そんなヤバいやつなわけ?」


「ヤバいやつ…ってのはまだよくわかんないけど、とりあえずの危険要素も省いておきたいっていうのが本音かな」


万が一にも花園さんが怪我をするなんてことはあって欲しくない。それは僕の負うべき責任であるし、なにより僕が嫌だと思っているから。


そのためだったら僕のちっぽけなプライドなんてあっても仕方ない。だからこそこうして朔のところに来ているんだけど。


僕と朔が真面目な話をしていると、朔の隣に座っている紫乃が興味津々といった様子で前のめりになる。


「え、なに、お兄ちゃんがそんなこと言うなんてほんと珍しいよね? 香織ちゃんのこと好きなの?」


「ちょっと紫乃ちゃん!」


女性陣はいつの間にやら仲良くなっていて互いを下の名前で呼ぶようになっているしこれだからコミュ力高い勢っていうのはよくわからない。


僕が基くんの名前を呼ぶようになるのに一体どれだけの時間がかかったのかと考えると、こんな風に壁を作っているから周りの人に興味がないだとか言われるんだろうなって思う。


とはいえ、紫乃の言葉に思うことがないというわけではないので少しは言い返してみようかな。


「別に僕が他の人の心配をしちゃいけないってことはないだろ?」


「いっつもお兄ちゃん他の人には興味ありませーんって感じじゃん。友達だってそんないないくせに」


「紫乃が知らないだけで友達くらいいるよ。それで、朔、ちょっと頼めないかな?」


僕らが話している間、それを黙って見ていた朔はその実僕らを眺めていただけで、他のことを考えていたんだろう。いつもは浮かんでいる軽薄な笑顔がすっかり息を潜めてしまっている。


「まあ俺も暇ってわけじゃねえけど、颯太が言うんだったら俺らの関係に免じて一肌脱いでやっかな」


そう言うと朔はスマホを取り出した。

それから僕に具体的な内容を話すように促し、メモを取る体勢になった。


「それで、何手伝えばいいんだ?」


「とりあえず小型の発信機と、普通のICレコーダーに小型のレコーダー、それとスタンガンかな」


もしも花園さんがいなくなってもいいように発信機と、証拠の捏造が疑われないためのレコーダーと、できればそんな機会はあって欲しくないけど、襲われた時用のスタンガン。


あとでもう一つ特注で作ってもらおうと思っているけれど、それが必要になるかどうかはその時次第になると思う。


「ふうん……それくらいなら明後日には用意できっかなー」


簡単に言う朔に僕は少なからず驚く。普通の人じゃどうやって用意すればいいのかから考えて時間がかかってしょうがない。

僕だってレコーダーとスタンガン以外はどうやって調達するのかわからない。


「さすが、仕事が早いね」


「一応お前の父親からも仕事頼まれてっからな、早いに越したことはねえっていうのはわかってるつもりだ。…こんなものが必要ってことは、花園ちゃんのストーカー対策ってところか?」


父さんも身の回りの警戒のためにたまに朔を使ってる。朔の『これ』は僕の本当の母さん譲りらしい。具体的に言うと、機械にとんでもなく強い。


機械関連のことだと記憶力が異常に良いし、発想も柔軟で元々ある良いものをさらに良いものに改良してくる。

これがあるから朔は大学に行っていないし、行ってなくても職に困ることはないと思う。


まあ某少年漫画の博士的な立ち位置だと言えばわかりやすいのかな。


「うーん…まあね、ちょっとめんどくさそうなのに絡まれそうだから」


どうしたって神谷くんとの直接対決は避けられない気はしているけど、僕が怪我するくらいならまだしも、花園さんに傷がついたら申し訳ないし僕は自分で自分を許せないだろう。


僕だって守ろうとは思っているけれど、僕の目が届かない時はどうしたって花園さんが自分自身で自分を守るしかない。


「え、香織ちゃんにストーカー?! まあこれだけ綺麗だったらいてもおかしくないけど…」


「いえ、普通はいたらおかしいんじゃ…」


「そうかな? 私もストーカーってちょいちょいいるし、そんなに気にしないで躊躇わずに引導を渡してあげるといいと思うな」


ストーカーなんてする奴は根っこが腐ってるからね、切り捨てるしかないんだよと続けて笑う紫乃。


言っていることはわかるけど言い方ってものを考えて欲しいよね。その切り捨て役が自分じゃないからって軽く言い過ぎてるよ。


「紫乃、言い過ぎだ。第一、お前がちゃんと後腐れなくフってやらないからそういうのが出た時だってあったろ?」


「でも朔、そんなこと言われたってごめんなさいって気持ちには変わりなくない? ちゃんと誠意のこもった告白にはきちんとお断りしてるからいーの!」


朔と紫乃の二人は付き合ってるってわけじゃないけど、お互いにお互いを好きだっていうのがわかってる。


紫乃は仕事があるから彼氏を作ることが今はできないし、朔は朔で軽薄な見た目と言動からは考えられないほど女に興味がない。というよりかは紫乃以外に興味がないのか、会話くらいはするけど、きちんと線を引いた付き合いをしている。


今日は僕の連れだってことでいつもよりもその線が曖昧になっているみたいだけど。



朔と紫乃が話している様子を見て、多くの人が考えるだろうことを花園さんが聞いてきた。


「二人って付き合ってるのかしら?」


「まあそう見えてもおかしくはないけど、一応そういうわけじゃないよ。紫乃は紫乃で好きで仕事やってるからそういうのNGらしいし」


僕がそう言うと、得心がいったとばかりに頷いた花園さん。けれどそれと同時にわからないことが生まれたみたいで少しだけ眉間にシワがよる。


「やっぱりそういうことなのね。でも、自分の好きな人が他の人にいっちゃわないか不安じゃないのかしら?」


「うーん、そういうのを考えないわけじゃないだろうけど、それよりも相手に対する信頼の方が大きいんじゃないかな?」


花園さんの口から漏れた呟きに僕は反応して、さっきちょっと揶揄われた腹いせに軽くバラしてやることにした。


二人は僕が知っているとは思っていなかったのか、驚いた顔をしていたけど僕はそれを無視しておいた。


「朔が機械系に強いように、僕には僕で強い方面があるんだよ?」


僕はにこりと笑ってもう僕らの関係には口を出さないようにという意味を込めた。


それに対して紫乃は口を尖らせて朔は両手を上げてひらひらと振った。


「気になったのだけれど、近衛さんのお仕事ってどういうものなの? 戸塚くんが頼んでたものって普通の人じゃ手に入らないと思うのだけど」


「俺? まあ基本的には実家の手伝いで空いた時間で色々作ってるってだけかなー」


適当にはぐらかす朔。けれど朔のことは調べようとすればどこにだって出てくるくらいそっちの方面では優秀な技術者として知られている。


「嘘つけ。収入的には圧倒的に仕事の方が上だろ。あれだけ有名なんだから」


「そりゃそうだけど。俺はここの店の方が好きなんだよな。気楽だし、みんなに好かれてるーって感じがしてさ。ものを言わない機械と付き合ってるよりずっと楽しいね」


本当にそう思っているのか、朔は周りの人が笑って食事している風景を見ている。


それを見て僕は場の雰囲気を変えるためににやりと笑って告げた。


「その機械のお陰で今回朔に会いに来たんだけどね」


僕の意図がわかっている朔は大げさに肩をすくめる。


「おいおい、そりゃないぜ。お前ただでさえ家から出るの少ないんだからもっとウチ来いよ、どうせ暇だろ?」


「僕にだってやりたいことはあるんだよ」


「けっ、ゲームとかのくせに。お前はもっと人と会った方がいいぞ? 考えが広がるからな」


「オンラインゲーなら人と会ってるようなもんじゃん」


「そういうんじゃなくてだなあ…」


なんと言われようと僕は朔の言う通りにするつもりはほとんどないので、これ以上は言い返しもしなかった。


すると紫乃が昔を思い出すかのように話し始める。言いづらいけど、こいつは頭は悪くないのに空気が読めない残念な子だ。少なくとも僕はそう思ってる。


「お兄ちゃんも昔はもっと……うーん? そんなことないか、前の方がもっと仏頂面だったね。私初めて会った時泣いてたもん」


僕はため息をついた。


「何年前の話してるのさ。紫乃が小学校低学年くらいの時の話でしょ?」


「そーだけどさ、流石に初めて会った時のことは忘れないって」


「僕は覚えてない」


「えっ、ひどいなあ。私のことは遊びだったのね!」


たいしてひどいとも思ってないくせに演技力とそれに釣り合った容姿があるもんだから周りの人が僕のことを浮気野郎か男のクズを見るような目で見てくるのでぜひともやめてもらいたい。


「ていうか、そもそもそんなに遊んでた記憶もないよ。最初の頃は紫乃は僕と顔を合わせるたびに泣いて母さんの陰に隠れてたし」


「やっぱり覚えてんじゃん」


「……」


僕にとっては思い出したい時期のことではないけれど、いや、思い出したくもないからこそあの頃はもっとひどい顔をしてたんだろうな。だから紫乃は泣いていたし、母さんも心配そうな顔で僕を見てたんだろうな。


あのまま朔の家に引き取られてたら紫乃と会うこともなかったのかもしれないなって思うと、僕を引き取ってくれた父さんと母さんには頭が上がらない。


「…そろそろ帰ろうかな」


「あっ、ずるーい。逃げるんだ」


揶揄うような声で言う紫乃に僕はため息をついて呆れた顔を向ける。


「そんなわけないだろ。もう遅いから花園さんを送って家に帰るんだ。紫乃はここに泊まってくんだろ? 朔の家に迷惑かけないようにな」


僕が言うといかにも不本意ですって顔で紫乃が言い返してくる。その内容が事実と反しているから朔は苦笑いしているけど。


「わかってますー!朔に迷惑かけたことなんてありませーん!」


「本当か、朔?」


「本当なわけないだろ。迷惑なんて普段からかけられてるわ」


「だよな」


そう言って笑う僕らが気に入らなかったのか、紫乃はプイと顔を背けて、それから何かを思い出したのか急にスマホを取り出した。


「ねえ香織ちゃん、連絡先交換しとこうよ!お兄ちゃんのことでなんか聞きたいことあったら私に聞いて!」


僕が自分のプライベートを勝手に言いふらされるのが嫌いだってことを知ってるのにそういうことを言う紫乃に、少なからずイラっとしたので、無言で立ち上がって頭に拳骨を落としておく。


「いった!! ちょっと!」


「僕が嫌がるってわかってやってるだろ」


「べっつにー。ただ香織ちゃんともっと仲良くなりたいなーって思って」


「だったら普通に出かけたりすればいいだろ? そんな僕を使うようなことしないでさ」


「…お兄ちゃんが連れてきた女の子だからじゃんか」


紫乃が最後に何か呟いたけれど、大したことじゃないだろうなって思って聞き流した。


花園さんは几帳面に紫乃にちゃんと返事をしていて、もしかしたら僕の知らないところで僕のことが話題に上がるかもしれないと思うと、胃が少し重くなったような気がした。


「あ、ありがとう。あとで連絡するわね」


「花園さん。聞きたいことがあったら僕に直接聞いてくれていいから、紫乃には聞かないでね」


一応、花園さんにも釘を刺しておくことにする。僕の情報が勝手に流れるのはなんだか気分が悪いし、知りたいんだったら直接聞いてくれればよっぽどのことじゃなければ答える。


「でも、私も紫乃ちゃんと話したいことあるもの。その流れで戸塚くんの話になってしまうのはしょうがないわよね?」


「…まあ、今のところ共通点がそれしかないし、多少なら仕方がないとは思うけど」


「そうよね?」


にこりと笑う花園さんに得体の知れない居心地の悪さを覚える。

それを見ていた紫乃は僕が花園さんに強く出れないことがわかってにやにやしていた。


「へえ、お父さんにも強く出るお兄ちゃんにも弱点があるんだ?」


「別に弱点ってわけじゃないさ。ただちょっと…なんというかやりにくいだけだよ」


「世間一般ではそれを弱点とか言うんだけどねー」


にししと歯を見せて笑う紫乃に対して少しもやっとしたのでとりあえず軽く小突いて、花園さんを外に出るように促す。


「もう出よう。これ以上ここにいると僕の体力がもたないよ」


「またまた、そんなこと言っちゃって。なんだかんだ私と朔のこと大好きなくせに」


「懲りてないみたいだから母さんに言ってお前の小遣い無くしてもらうぞ」


「え、それはずるい! 来月は服買おうと思ってたのに!」


「だったらしばらく黙っててくれ。そしたら服くらい僕が買ってやるから」


「え、ほんとに?! 嘘じゃないよね? 男に二言はないよね?」


「ああ、嘘じゃないからもう解放してくれ」


「やった! ちょっと朔、ちゃんと録った?」


「多分大丈夫」


朔が手元の小さな端末をいじると今さっきの僕と紫乃の会話が聞こえてきた。


「とりあえずこんな感じだからこれ貸しといてやるよ、あとでちゃんとしたの届けっから」


そう言って朔はスマホより一回り小さいくらいの機械をこちらに放ってきた。


僕はそれをキャッチして、先ほどのデータの有無を確認してみると、これには何も残されていなかった。


「さっきのデータは俺の方に転送しといたから。ちゃんと買ってやれよ?」


「約束を破るつもりはないよ。じゃ、これはありがたく借りておくから」


そう言って僕は花園さんを連れて朔の家を後にした。




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