花園さんと僕が馴染むまで 7
はい、お待たせしました!
気持ち進んできましたね…笑
新しい登場人物も出てきて筆者自身この子たちをどう動かしたものかと悩みまくってます!
とりあえず花園さんが喋るのってやっぱ少ないのかなって思うんですけど、それはもう少し後になったらもっと会話のやり取りを書いていけると…いいなあ。
『俺らが帰るからってエロいことしても良いけどほどほどにな?』
『しないよ』
『はなちゃんのことよろしくね。何かあったらタダじゃおかないから!』
『何もないから』
先ほど送り届けた二人の言葉だ。
後者はともかくとして前者は何なんだろう。付き合ってもないのにそんなことはしないだろ、普通。
とは言っても僕の理性と自制心がフル活動するよ。
「それじゃ、二人も送ったことだし花園さんの家に行こうか」
「ええ、ありがとう」
もしもまた神谷くんがいたら…とか考えたけど流石にそんなことはないよね?これがフラグじゃないことを願いたいよ。
「そういえばだけどさ」
「?」
助手席に座る花園さんにふと思い出した疑問をぶつける。
「なんで神谷くんは花園さんの家の場所知ってるの?」
「……私が教えた記憶はないんだけど気づいたら知ってたわ」
「やっぱ後をつけたりとかなのかなあ、それか……」
「どうしたの、急に黙って」
嫌な予感が頭をよぎる。まさかそこまでしていないだろうという考えだけど、流石にないとは思うんだけど、一応確認しておこう。
「花園さん、悪いんだけど、自分の服かバッグか…スマホとかに見覚えのないところないかな」
「どうして?」
不思議そうに首を倒す彼女には悪いけど、念のためということで。
「GPS追跡とかあるよね? まあ、そういうわけで発信機か何かが付いてたりしたら嫌だなって」
「まさかそんな…」
僕の言葉に顔色が悪くなった彼女は急いで僕が言ったところを探った。
ごそごそと色々なところを探したけれど、幸い変わったものは特に見つかることはなかった。
二人でほっと息をついた。
もしも発信機とか付いてたりしたら僕の家もバレてめんどくさいことになること間違いなしだったよ。
基くんたちの家から車を少し走らせると、花園さんの家が見えてきた。どうやら僕の立てたフラグは回収されなかったみたいだ。
「それじゃあ、申し訳ないけれど少し待っててくれるかしら?」
「うん、急いでもいないし少しくらい遅くなっても気にしないから大丈夫だよ。僕も、いとこもね」
「その…いとこさんのお店ってどんな雰囲気なのかしら? 場違いな格好だと恥ずかしいわ」
「そうだね…。普通の店、なんだけど昼は定食屋で夜はバーをやってるからそんなに親しみやすいっていう雰囲気じゃないかも。今は夕方だから丁度その間って感じだけど、帰る頃には多分夜になってるかな」
「うーん、それならあまり派手すぎるのも良くないわね…ありがとう、大体わかったわ」
そう言って彼女は急がなくていいと言ったにも関わらず少し小走りで家に入っていった。
家、と言っても少し大きめのマンションといったところか。失礼かもしれないけれど、多分僕の部屋よりは小さいだろうと思う。一応、僕の家って結構な値段のするマンションだし。
僕は別にアパートでも寮でも良かったんだけど、父さんが折角だからって勝手に借りちゃった物件だ。特に文句があるわけじゃないし、家具も家電も全部僕が選んだから居心地は当然良い。
そんなくだらないことを考えて待っていると、十分くらいで花園さんがやってきた。先ほどまでの明るめの装いとは違って、落ち着いた色のワンピースを着ていた。
正直、どこぞのお姫様と見間違うくらいに似合っていたけれど、僕はそれを特に褒めることなく、車に迎え入れた。
「早かったね、そんなに急がなくていいって言ったのに」
「別に急いでないわ。準備するものってそんなにないもの」
言いつつ鞄を何やら確認している花園さん。車を発進させながらちらりと見ると、財布や携帯やハンカチやポーチなど、普通の物ばかりが入っていた。いや、普通じゃないものってそうそう入れないだろうけど。
「忘れ物はない?」
「…うん、多分大丈夫だと思うわ」
「それじゃ、行きますか」
僕はアクセルを踏んで車を走らせた。
道中特に会話があるわけでもなく、ただ暗い道を静かに進んでいった。会話のない空間が居心地が悪いとは僕は感じなかった。花園さんの方がどうなのかはわからないけど。
目的地であるいとこのやっている店、といっても正確には彼の両親の店だけど、今どき珍しくチェーン店に負けないくらいの売り上げを記録しているらしい。この間はヘルプにバイトに呼ばれたりした。
その時に花園さんのことをチラッと話したんだけど、まあまあ興味をそそられたらしい。そうじゃなかったら僕が花園さんを連れて行くって言った時に確実に一人で来いって断ってたと思う。
あいつってば人が良さそうな見た目のくせして結構な人嫌いだし、相当裏がある系の人間だからな。興味のない人とかめんどくさそうなところを避けるのは僕にそっくりだ。
「そういえば、いとこって聞いていたけれど、その人の名前ってなんていうの?」
「近衛 朔っていうんだ。一応ちゃんと僕と血が繋がってるいとこだよ。女の子にもとれる名前だけど、男だから。まあ、性別は見ればわかると思うけど」
「近衛さん、ね。年はいくつかしら?」
「あー…確か僕の一個上で今は19歳かなあ。大学には行ってなくって親に心配かけてるバカ息子だってよく聞くよ」
言われてる本人はへらへら笑って聞き流してるけどね。なにより一応実家の手伝いしてるし、それとは別の副業だってあるし、決して社会不適合者なわけじゃない。
大学だって行く必要がないから行かなかっただけで確かどっかから推薦だってきてたはずだ。
「そうなの? …そういうのに触れない方がいいのかしら?」
「全然気にしなくていいよ。すぐちゃらんぽらんな変な奴だってわかるから」
僕がそう言うと花園さんはきょとんとした顔になって、それからくすりと笑った。
「なんだか、その人とすごく親しいのね」
「…別に、親しいってほどじゃないけど。ただ、なんとなくだよ」
「なんとなく、ね」
くすくすと笑い続ける彼女にさっきまでは感じなかった居心地の悪さを覚えた頃、ようやく目的地が見えた。
車を駐車場に停め、ドアを開ける。
「やっときたか、颯太。おっせーよ」
「あ、お兄ちゃん久しぶりー」
着いたそこで見えたのは、自分のいとこと妹が食事をしているという少しばかりおかしな風景。
「いや、颯太が女連れてくるって言うもんだからさ、紫乃に連絡入れたらちょーど近くにいるって言ってたからさー」
「きちゃった」
ねー、と声を揃えてグラスで乾杯しているのを見ると、自分の額に青筋が浮き出ているのではないかと思うくらい力が入っているのを感じ、落ち着くためにも息をはいた。
「戸塚くん、その人がいとこの近衛さん?」
僕の後ろからひょっこりと顔を出した花園さん。まずい。
「その子が噂の花園さんかー! ささ、どうぞどうぞこっちに座って! あ、颯太、茶ぁよろしく!」
「お兄ちゃんが連れてくるって聞いたからどんな女の子なのかと思ったらなにすっごい綺麗じゃん! お兄ちゃんいつから面食いになったの?」
ひょっこり顔を出した花園さんの腕を目にも留まらぬ速さで捕まえてささっと席に着かせた挙句に僕をこき使うこの感じ。
さらにさらっと僕を一体どんな目で見ているのかを疑いたくなるような言葉。
父さん、なんで紫乃が近くにいるなら僕に教えてくれなかったの…?知ってたら今日ここに来なかったのに…!
言いたいことはいくつかあったけど、言っても無駄だと飲み込んで黙ってグラスにお茶を淹れていると、朔のお母さんと目があった。
「あらあら、颯ちゃん久しぶりね。ゆっくりしてってね」
「はい、その、でも、うるさくなるかもしれませんが…」
「いいわよいいわよ。お店の迷惑になりそうになったら叩き出すから」
笑いながら他のお客さんの相手をしに行った朔のお母さんだけど、目の奥は笑っていなかった。朔、お前この後こき使われるぞ。僕以上にな。
「はい、花園さん。…ほら、朔、茶だ。飲め」
「あ、ありがとう」
「お前なんで俺に毎回当たり強いわけ?」
「お前が自覚して自粛したら僕だってこんなことしないよ」
お茶を持ってきて四人がけのテーブルの空いている席に座る。隣に花園さん、目の前に朔、朔の隣に紫乃といった席順だ。
「それより紫乃、お前なんでこんなとこにいんの? 今から帰るんだと家に着くの深夜とかになるよ? 言っておくけど僕は送らないからな」
「なによ妹に掛ける第一声がそれ? いいもん、今日は朔の家に泊まるから。ちゃんとお母さんには言ってあるし!」
べーっと舌を出してくるその様子は今をときめくモデル様とは思えない顔をしていた。
というか、そうか。母さんに言ったから父さんはなんにも言えなかったんだね。ごめん、父さん。人には無理なことだってあるよね。
我が家の通常時のカースト的に母さんに歯向かおうとするような人は家族にはいない。
「お兄ちゃんこそ、大学生になってまだそんなに経ってないのにこんな綺麗な人といちゃいちゃただならぬただれた生活してるんでしょ!」
「してない、人聞きの悪いことを言うな。今日は偶然だ」
「どーだか!あーあー、こんなことならもっともっさいオタクみたいな感じにプロデュースしとくんだったな!」
お前今まで僕の普段の格好そんなモチーフでプロデュースしてたんだな。なるほどな、確かに少し暗いとは思ってたけどお前のオタクのイメージってそんなんだったんだな。
「今日だってもう私が作った格好崩しちゃってるし! なに、自分が格好良いと思ってるの!」
「別にそんな風に思ってるわけじゃないけど、さすがにいつもの格好じゃ花園さんに釣り合わないと思うし」
「くぅー!その自覚してない感じが余計ムカつく! 朔、もう一杯!!」
「はいはい」
朔は黙って僕が注いできたグラスを紫乃に渡した。もらった時から飲んでないなって思ってたけどまさかそのために注がせてきたのか?…朔の考えることは正直僕じゃ追い付けないところもあるし、考えないで良いかな。
「で、そろそろいいか? 飯はお前らが来る前に俺がおすすめでって言っておいたからいいとして、実際問題なんで急に?」
「ちょっと、色々あって」
と、花園さんをちらりと見ると両手でグラスを持ってちびちびとお茶を飲んで状況を静観していた。
そして朔の瞳がきらりと光ったかと思うと、あさっての方向の素っ頓狂なことを言い出した。
「なるほど、デキ婚はおすすめしな、いっ?!」
「朔、やめてよね。お兄ちゃんがそんなことするわけないじゃん」
自信満々に言い出した朔の脇腹に紫乃の拳が深々と突き刺さっていた。
今朝同じベッドで寝ていたのでそこらへんの信用はもはや失われていいのかも知れないと思ったけど、僕はなにも言わなかった。なんにもなかったんだし、いいよね?
「僕じゃ花園さんに釣り合わないと思うけど…」
と言うと、隣に座っていた花園さんが僕の袖を掴んで少し睨んできた。えっと、すごい可愛いんだけど、なに?
「…冗談でもそんなこと言わないで」
「ぐはっ!」
僕が固まっていると、紫乃が吐血したかのように叫んで朔と同じようにテーブルに突っ伏した。
「うっ、こいつぁ大ダメージだぜ。……っと、料理できたっぽいから取ってくるわ」
紫乃が突っ伏したのと対照に朔は起き上がると先ほどのダメージはなにもなかったかのように料理を取りに行った。
「…なあ、紫乃。お前、なにがしたかったんだ?」
「え? 久しぶりだからお兄ちゃんと遊びたいなって思ったのと…そっちの、花園さん、だっけ?その子の観察」
紫乃に聞くと、朔と同じように何事もなかったかのように起き上がった。ていうかお前仮にも年上に対してその子とかどうなんだ?
指を指された花園さんはピクッと反応したけれど、その目に怒りは見えなかった。
観察だとかいう少しばかり人に向けるには物騒なワードに対して僕は眉をひそめるけれど、特になにも言わないで次の言葉を待った。
「私がいうのもなんだけど、お兄ちゃんって頭も良いし顔も良いしお金は持ってるしでかなり優良物件なわけよ。問題と言ったら性格とかなんだけど」
「おい」
「そんなお兄ちゃんが連れてきたから心配はないって思うしわかってはいるんだけど、どんな女の子なのかな〜って気になって。
ギャルだとかいかにも騙されてるだとかだったらちょっと考えなきゃだったけど、大丈夫そうでよかった」
「考えなきゃってお前…」
「はいはいお待たせおすすめですよーっとね」
一体どういう意味なのか問い詰めたいところだったけど、上手い具合に朔が料理を運んできたので、仕方なく聞かないことにした。
朔が運んできた料理はこの店の定番とも言えるから揚げ定食だ。この他にも色々と定食はあるけれど、僕はこれに勝るから揚げにまだ出会ったことがない。
「「いただきます」」
妹に思うことはあったけれど、それを飲み込むように食べる定食だったけれど、変わらずに美味しい。
「妹さん、優しいのね」
「ごふっ?!」
丁度みそ汁を飲んでいた時に花園さんが一言呟いた。僕はそれに驚いて思わずむせてしまった。
紫乃が優しいだって?まあ、確かに言っていることはそうかもしれないけれど、伝え方が完全に不器用のそれだ。
「多分、思っていることが素直に言葉にできないんでしょう? お兄さんのこと心配だから色々注意したりしたけど、お兄さんが鈍感だからそれにむっときたのよね」
「…む」
ぴくんと紫乃が反応をする。
僕が鈍感だって?一体なにを持ってそう言うのか根拠を示してほしいところだよ。
「それに近衛さんも、おちゃらけた風でいてよく戸塚くんのことだけでなくて私のことを見ていると思うわ」
「んぐっ」
朔がお茶を喉に詰まらせた。
どうやら、二人とも観察していたつもりが花園さんに観察されていたみたいだ。