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目立たない僕と華やかな彼女  作者: くろすく
3/10

花園さんと僕が馴染むまで 2

感想やこの表現はちょっとおかしいだとかなんだか気に入らないだとかあれば遠慮せず教えてください!




「なあ基、お前さ、来るのは別に良いとして他に人がいるんだったらちゃんと連絡するべきだって思わなかった?」


「…反省しています」


「俺は別に良いんだけどさ。お前、花園さんに迷惑とかかけてないよな?ただでさえ現在進行形で坂井さんに迷惑かけてるってのに」


「つ、つかっちゃ…戸塚くん、そ、その辺で…私はもう気にしてないし」


「重ね重ね申し訳ありません」


目の前で頭を下げ……いや、床に付けている基を見ると少しだけ気持ちが落ち着いた。


「例え知っていて仲のいい女の子だったとしてもだよ? 二人きりっていうのはやっぱりいただけないと思うんだよ。変な誤解を受けて何処ぞの物語のように面倒なことになるのは基くんなんだからね」


キッチンから調理が終わったのでヒーターを止めましたという合図が聞こえたので出来具合いを見にいくことにする。


「……次から気をつけるようにね。せっかく気分良く作ってたのに台無しだよ」


「はい、次はありません」


「…知ってはいたけど、怒ったら戸塚くん、怖いのね」


「…だね」


基くんが連れてきたのは、驚いたことに花園さんだった。彼がいうには、バイト終わりに歩いていたら雨が降っていて困っていたので連れてきたとのこと。

それが本当かどうかはどうでもいいので置いておいて、普通は人が増えたら連絡するはずだろう。


餃子や春巻きや小籠包の出来具合いを見ると、いい感じだったので皿に盛り付ける。坂井さんが作ったサラダやスープもよそって、テーブルに持っていく。


「まったく、基くんはもっと人の気持ちを考えた方がいいよ。ほら、いつまでそうしてんの、早く手伝って」


「ごめん、つかっちゃん」


土下座状態のままだった基くんを蹴り起こして諸々の食器を渡す。


「ごめん坂井さん、ご飯よそってもらっていいかな?」


「あ、うん!」


「えっと、私は…?」


「うーん、じゃあ、テーブル拭いておいてくれるかな?」


「わかったわ」


それぞれに頼んで、僕はコップにお茶を注いでいく。

氷は好みによるんだろうけど、ウチでは僕が注ぐ場合は入れない。内臓が驚いて機能が悪くなる…気がするから。


テーブルの準備を終えて、全員が席についた。四角いテーブルの正面に坂井さん、右側に花園さん、左側に基くん。


「大皿に盛ってあるけど、嫌だったら取り皿持ってくるよ?」


ウチでは基本めんどくさいので大皿に盛って食べたい人は食べたいだけ取るといった形をとっている。基くんも坂井さんもそこは知っているし気にしていないので平気だけど、もしかしたら花園さんはすごく気にする人かもしれない。


「ええと、大丈夫、気にしてないわ」


「そっか、それじゃあ、いただきます」


僕が食べ始めると、それぞれがいただきますと言って食べ始める。


基くんは餃子を一口食べて、目を輝かせてご飯をかきこむ。

坂井さんは春巻きを食べて、パリパリだねと言って笑った。

花園さんは小籠包を口にして、溢れた肉汁に熱っと言ってお茶を飲んでいる。


僕はサラダから食べ始める。ただの好みの問題。サラダから餃子にいって春巻きで最後に小籠包、それからスープっていう順番で食べたいだけ。


「やっぱつかっちゃんの料理は美味しいな!」


「そうだね、私も負けちゃいそう」


「ええ、本当に美味しいわ…」


「喜んでくれたなら良かったよ」


わいわいと食事は進んで、最後にデザートだ。いつもはそんなに気にしないけど、今日はお客さんがいるから特別。


餃子とか作った後に余った時間で作った胡麻団子。甘いあんこにもっちりとした生地が最高の一品だ。普通の料理よりはお菓子作りの方が好きだから僕としてはこっちの方が自信がある。


「デザートまで中華系なんだな」


「当たり前だよ、こだわるところは最後まできちんとしないと」


「あっ、おいし〜!」


「本当…」


美味しく食べてもらえて良かったよ。きっと団子も喜んでいるさ。



後片付けを基くんに任せて、僕は本棚から本を取り出して、読みかけの本を開く。

坂井さんは勝手にテレビを付けてゲームを始めている。

花園さんはどうしたものかと思っているのか、周りをキョロキョロと見ている。


「好きに過ごしていいよ、寝たかったら寝てもいいし、ゲームしたかったら…坂井さんに混ぜてもらえばいい」


「えっと、その……男の子の部屋って初めてだからなんだか落ち着かないだけなの」


「なんだって!!」


テレビに向けていた顔をぐるんとこちらに向けて驚いた顔の坂井さん。正直怖いからやめて欲しい。


「はなちゃん、男の子の部屋に行ったことないの?!」


「えーと……まあ、そうね」


「一回も?」


「うん」


「へえ、意外だね! はなちゃんくらい可愛かったら色んな男の子と付き合ってるんじゃないかって思ってたのに」


「それは僕も思っていたな」


「ええ?!」


驚いた様子の花園さんをおいてお茶を淹れるべく席を立つ僕。


「じゃあ……」

「それは……」


そんな会話が聞こえたような聞こえなかったような。まあ女の子同士だしね、同じ学部で仲のいい二人のことだ、色々話すこともあるんだろうな。


「お、どしたんつかっちゃん」


丁度後片付けが終わったのか、手をタオルで拭いている基くん。


「お茶でも淹れようかなって思って」


「そっか」


僕は棚からお茶の葉を取り出して急須にパッパと入れる。


基くんは何も言わなくても食器棚から湯呑みを取ってくれた。そこらへんの気は回るのにな。


基くんにお礼を言ってポットから急須にお湯を注いで少し蒸らしてからお茶を湯呑みに注ぐ。

食後はやっぱり緑茶だよね。ここには例えご飯が中華風でもイタリア風でも何であろうと他の物は入ってこれない。


「つかっちゃんってさ、好きな子とかいないの?」


「どうしたの急に」


「いや、高校の時からそんな話とか聞いたことないなって思って」


「ああ、僕に彼女っていうものがいたのは中学の頃だしね。基くんが耳にしてないのも当然かな」


「マジ?中学で付き合うって…なんか想像できねーな」


「相手はOLだったし、僕はそんなにお金使ってなかったかな」


「うそっ?!」


「嘘」


はははっと笑って驚いた基くんを置いてリビングに戻る。


「…まじでわかりづれーな」


そう呟いた基くんの声は聞かなかったことにしておいた。


一応言っておくと、過去の女の子が忘れられないだとか教師と生徒の禁断の愛だとかそういう感じのことは一切ない。

僕が中学生の頃近所に住んでいた年上の高校の女の子が僕に一目惚れって言って告白をして、僕はそれを受けたってだけ。

それも彼女が大学生になる頃にはお互いに理解をして別れたし、未練もない。

正直に言うと、僕が彼女のことを普通の女の子以上に好きになってはいないっていうことが彼女にはわかっていたから別れたのかもしれないと思っているけれど、実際のところは彼女にしか真実はわからない。


「はい、お茶ですよ」


「ありがとうつかっちゃん!」

「ありがとう戸塚くん」


まあ、そんな昔のことを僕は誰にも言うつもりはないし、言うとしたらそれはどんなタイミングなんだろうって僕ですら不思議に思う。


お茶を受け取って、引き続きゲームをする坂井さんと、隣でその画面を見ている花園さん。ちょくちょく会話を挟みつつ、和気藹々と遊んでいる彼女たちを見るとなんだか微笑ましい。


「勝手に僕が作った団子を食べているところ悪いけれど。それで、どうなったかは決まったの? 」


「美味いな〜、これ。どうなったかって?」


「土日のサークルのやつ。決まったから僕に知らせにきたんじゃないの?」


「あー、それか。それがさ、なんかよくわかんねーんだけどみんな都合がつかないっぽくてさ、無くなったわ」


なんかよくわからないけど都合がつかないってどういうことなんだろう。普通は少しくらい事情を説明するんじゃないだろうか。


基くんはチラリと坂井さんの隣に座っている花園さんに目を向ける。


「花園が行けないかもってサークルのグループで言った途端にコレだよ」


そう言って肩をすくめる彼。基くんとしては行っても行かなくてもどっちでも良いといった風なんだろうけど、もしも本当に行きたい人がいたらって思うと……いや、その場合は無くなったりしないか。


僕としてはただ単に時間が空いたっていうだけで一人の時間が増えるから嬉しいことなんだけどね。


「ふーん、やっぱり花園さんって人気者なんだね」


「はなちゃんはねー、めっちゃ可愛いし性格もいいから人気者だよ? でも…」


テレビの画面から目を離さずにゲームをしながら急に坂井さんが口を開く。

どうでも良いんだけど坂井さんゲームかなり上手いね。動いているゾンビに向かって銃を撃ちまくっているのにさっきから一発も外してない。


パッと手榴弾を投げてゾンビを吹き飛ばして少しの間の安全を確保したところでこちらを振り向く。


「最近すっごいうざい人が付きまとってるんだよね」


振り返った彼女の顔は無表情で、どうやらかなり怒っているというのが伝わってきた。


「珍しいな、美琴がそんなに怒ってるなんて」


そういって基くんは席を立つと坂井さんの後ろに座って頭を撫でる。背の小さい坂井さんは基くんの身体に隠れてしまって、僕から見るとあたかも基くんがゲームをやっているかのようだ。


コントローラーを操作してポーズ画面にすると坂井さんはぎゅっと基くんに抱きつく。


どうでも良いんだけど君ら恥ずかしくないのかな? 僕は別に気にしてないけど、隣の花園さんなんかは少し顔が赤くなっているよ?


「だってね、あいつ、はなちゃんが席に座ると絶対前か後ろに座るし、たまに隣に座ろうとしてくるし!!」


偶然じゃないのかな?


「ご飯食べる時だって断っても断っても毎日毎回欠かさずに誘ってくるし!」


偶然じゃないのかな?


「断ったって思って食堂行ったら絶対近くの席に座ってくるし!!」


偶然じゃ、ないのかな?


「挙げ句の果てに帰りに出待ちとかしてるんだよ?! 本当にありえないよ!!」


偶然じゃ、ないんだね。


ぐっと締め付けられている基くんは嬉しそうな苦しそうな顔をしているので放っておくとして、僕は花園さんの顔色を伺う。


後ろからだからよくわからないけど、俯いて否定しないことから坂井さんの言っていることは本当なんだとわかる。


「まあそんなのは放っておけばいいんじゃないかな」


ぐいっと坂井さんを基くんごとどけてコントローラーを奪い取る。

ポーズ画面を閉じて坂井さんの代わりにゾンビをやっつける。


マシンガンを、ハンドガンを、ショットガンを、ロケットランチャーを、ライフルを、ゾンビの頭にぶち込んでいく。


「うわ、すご……」


「………」


ガチャガチャとコントローラーをいじりつつ、花園さんに抱いた不満をゾンビたちにぶちまける。


「(どうして坂井さんが花園さんがやられたことを代弁しているんだよ。嫌だったら自分で言えば良いじゃないか)」


カチリとゲームの中のキャラクターが引き金を引くとゾンビの頭が一つ吹き飛ぶ。


「(大体、何も言わないで何かが解決すると思ったら大間違いだよ)」


コマンドを入力するとキャラクターがカウンター技を使って、ゲームのボスを吹き飛ばした。


「(ああ、ずるい。彼女はずるい。何もしなければ周りが助けてくれると思っている)」


カチャ、と銃口がボスの頭に向けられ、


「(……まあ、僕には微塵も関係のないことだけれど)」


ボタンを押すとそれに連動してキャラクターがトドメを刺した。


ふっと現実に戻ると、スコアはかなりのもので、命中率においては百パーセントを記録していた。


「……もう遅いからみんな送っていくよ」


ぽい、とコントローラーを投げ出して車の鍵を取る。


「あ、ほんとだ。もう十時過ぎてるんだ」


「悪いなつかっちゃん」


基くんは僕が怒っているというか、憤っていることに気がついているようで、申し訳なさそうな顔をしている。


「気にすることないよ。花園さんも、送っていくよ」


「…ごめんなさい、お願いするわ」


僕は彼女と目を合わせなかった。合わせたら、彼女に強く当たってしまいそうな気がしたし、彼女を泣かせてしまいそうな予感がしたから。



帰りの車は、わざとらしいほどに騒がしかった。基くんが僕の気持ちを察して騒いでいたからなんだけど、そこまでしてくれなくても大丈夫って言いたくなった。


基くんと坂井さんの家は近い。というか、同じだ。彼らは齢18にして同じ屋根の下で暮らしている。理由は簡単で、そもそも基くんと坂井さんは幼馴染みだったらしく、家の人も認めているらしい。


「そんじゃ、サンキューな、つかっちゃん」

「ありがと、つかっちゃん!」


「うん、それじゃあ、またね」


と、僕が車の窓を閉めようとすると基くんが指を挟んできた。いや、危ないよ?


「さっきの美琴の話、花園さんは言えなかったんじゃなくて、言わなかったんだよ。お前ならこの違い、わかるだろ?」


言えないと言わない、の違い。言えないのは巻き込んでしまったり口止めをされているからって考えられるけど、言わないのは、言ったところでどうしようもないことだからって思っているってこと?


僕が不満に思って憤っているのはおかしいって彼なりに教えてくれているのかもしれないと思うと、僕も身勝手だったと恥ずかしくなってくる。


「今は美琴とか他の子たちが気にしてるから大丈夫だけどよ、もしかしたら近いうちになんかあるかもしれねえから、もしもそういうのを見かけたら、頼むぜ」


そんじゃーな、と言いたいことだけ言って去っていく彼を送りつつ、ずるいなあと笑いながら心の中で呟く。


基くんはすごい。僕の心の中なんてお見通しとばかりの言葉を僕にかけてくる。


「えっと、花園さん、家はどこらへんかな?」


僕の恥ずかしさが彼女に伝わらないように、努めて冷静に声をかける。ミラー越しに見える彼女の顔色はお世辞にも良いとは言えない。


「この道を真っ直ぐ行って……」


ふむふむ。花園さんの綺麗な声に従って車を走らせる。


ナビの声が彼女みたいな声だったら、僕は近場のスーパーに行くのにもナビを使ってしまいそうだ。


と考えて、馬鹿らしいなって僕は顔に笑みが浮かんでしまう。こんな気持ちの悪いことを考えているなんて、僕らしくない。

僕は目立たないように、ひっそりと、波風立てることなく生活したいんだ。


「次の角を左に……っ!」


花園さんの声が途絶える。代わりに聞こえたのはひゅっと息を飲んだ声にならないような音だった。


僕は花園さんを無視して、次の角を左に曲がりはしなかった。


だってそこには、神谷くんが立っていたから。




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