僕と花園さんの出会いと今
はじめまして、くろすくです。
叩くコメントには頭を下げ、表現がおかしいと言われればすぐ修正するような気持ちで書いていきます。
よろしくお願いします。
そこそこの高校を卒業してさして頭の悪くもない国立の大学に入った。運動は小学校から中学までは野球、高校ではハンドボールが面白そうだったからやってみた。
勉強は平均よりはちょっと上だけどそんなに上でもない。言うならば上の下か中ってところ。
友達はそんなに多い方ではなかったけれど、いないってほどではなかった。コミュ障っていうか会話がめんどくさいっていうのが正しいと思う。
そんな僕だけど人並みに恋愛をしてお付き合いしていた人は過去にいたりする。そんなに長い期間は持たなかったけどね。
ちょっと人間関係は淡白だけれどそんなにとっつきにくいわけじゃなくて、運動も好きなわけじゃないけどできないってわけでもなく、勉強はそれなりにできる。それが僕、戸塚颯太だ。
そんな僕だけれど、今僕は人生最大と言ってもいいほどの問題を抱えてる。
「聞いてるの、戸塚くん?」
原因は今話しかけてきている女の子。十人が見れば八人は確実に振り返るだろう容姿の目立つ女の子。残りの二割は誤差かな。
僕とは違って一流の中学に一流の高校を出ているというのに、自分で言うのも何だけれどこんな普通の大学にやって来た彼女。
運動をさせれば男子顔負けの動きを見せ、勉強についても完璧で隙がないけれど、それらを鼻にかけずに周りと華やかに仲良く過ごしている。
そんなに化粧をしているようには見えないのに華やかで少し明るめの茶色の髪でスタイルもどこのモデルなんだって言うくらいに良い。それが彼女、花園香織だ。
「…ごめん、聞いてなかったよ」
「まったく、ぼんやりしているんだから」
申し訳なくて謝る僕に、怒らないで呆れた様子の彼女。
こんな風にカフェで二人席に座ってお茶をしている僕らだけど、これだけは言っておきたいんだ。それは、決して付き合っているというわけではないっていうこと。
僕らの出会いはそんなに昔のことじゃない。大学が始まってすぐかって言われたら微妙な時期の五月、ゴールデンウィーク真っ只中の時期に僕らは偶然出会った。
僕は彼女のことを一方的に知ってはいた。同じ高校から同じ大学に入った友達がやたら可愛い子がいるって騒いでいて、僕も連れられて見に行ったから。
僕の感想としては、まあ可愛いんじゃないかなって感じだった。どうやら僕は誤差に入るらしい。
可愛いのは肯定するけれど、だからどうしたんだろうって感じだった。
彼女と付き合ってデートしてキスしてその他のこともって考えるとそれは現実的じゃないなって思って、僕の恋愛対象じゃないなって思った。
僕の好みとしてはもっと素朴な感じの子がタイプだったこともあるかもしれない。
彼女と顔を合わせたのはサークルの飲み会に参加した時だ。僕が所属しているサークルは天文学サークル。今まで運動をやってきていたけど、実は僕はそんなに運動は好きじゃないしむしろ読書やゲームの方が好きだったりする。
まあこの話はさておいて、何の因果か僕の所属しているサークルと彼女のそれが一緒だったってこと。
もちろん普通だったら知っていてもおかしくないんだけど、僕はサークルを決めるのが遅かったせいでメンバーを把握していなかったんだ。それに、彼女のことは友達に連れられて見たあれっきりで、興味もなかったから知らなかった。
『あ』
『? なに?』
『いや、僕の友達が可愛いって言ってた子だなって思い出したんだ。君って、このサークルだったんだね』
『…ええ』
これが僕らがした最初の会話。我ながら恥ずかしいと思う。だってどう見ても友達のことをダシにして彼女を口説いているようにしか見えないだろ?
まあ何にせよ、ゴールデンウィークにしたその新入生歓迎会という名の飲み会はかなり盛り上がったんだ。
ちょっとした出し物として披露した僕の手品もウケたし、先輩たちは先輩たちで一発芸とかをしていた。初めて会った人とでもそれなりに仲良く話せるようになった頃、お店の時間がきてしまったんだ。
もちろんそれは一次会で、当然のように二次会もあった。一次会がかなり盛り上がったから、二次会に行くノリも軽くてほとんどの人が行くはずのそれだったんだけど、僕は行かなかったんだ。
何故かって言うと、僕はこういう集まりだとなんとなく疎外感を感じて楽しいって思えないから。居てもいなくても大丈夫って感じのポジションだからかな、僕はみんなにお疲れって快く送り出されたんだ。
それを受けて僕は上手くできたなって思いつつみんなに別れを告げて夜遅くまでやっている近くの本屋に行った。
面白い本がないかなって僕はよくふらっと本屋を訪れる。それで大抵は失敗しちゃって親にも妹にも本が増えるだけだからやめろって言われてしまうんだけど、大学生になった僕は実は一人暮らしだからもう問題じゃなかった。
気がつくとそこで二時間ほど時間を過ごしていて、時計を見たらもう日付が変わる所だった。流石に帰ろうと思った僕はずっと居たお詫びと言ってはなんだけれど、適当なミステリー小説を買って本屋を出た。
駅は近かったけれど僕の家に帰るのに電車はいらなかったから、バス停に向かったんだ。バスがまだあるといいなって考えながら。
彼女に会った二度目は、その帰り道だった。
『お願い、やめて!帰らせてください!』
『いーじゃん、ちょっと遊ぶだけだってさ、ね?』
『ホントホント、俺ら紳士よ?』
彼女はめんどくさそうな人たちに絡まれていた。めんどくさそうなっていうのは、酔っ払いってこと。つまりはウチのサークルでも有名なチャラ男の人たち。
多分彼らは彼女目当てで飲み会に参加して……ってところなのかな?
他のメンバーたちは純粋な人が多そうだったし、何より彼らに逆らおうとは思わなかったのかもしれない。
『あの、彼女嫌がっているので、やめてあげたらどうですか?』
と、僕は声をかけた。一応、暴力を振るわれたら同じくらいで返そうかなって思いつつ。念のためにさっきの様子は動画で撮影済みだ。後になって僕が悪いとかにされても困るしね。
『はあ、誰お前?』
『見ててわかんねーの?俺ら今チョー忙しんだけど?』
何が忙しいのか僕には全く理解できなかったけど、彼らにとっては彼女に嫌がらせをすることが忙しいらしかった。
彼らから目をずらして、彼女を見ると、驚いた顔でこちらを見ていた。それはそうだろうな、もう帰ったって思っていた人に会ってしまったんだから。
彼らに目を向け直して、一応言葉での説得を試みる。一応ね、どうせ無理だと思うけどね。
『貴方たちがそういうことをすると、困るのは貴方たちだけではないんです。だからやめた方がいいと思いま…っ!』
『るっせんだよ!!』
説得を試みた言葉の途中で殴られる。ひどいな、顔を殴ったのは別にどうだっていいんだけどさ、眼鏡が飛んでいっちゃったし……多分買い替えないと駄目かなあ……伊達だけど。
買い替えないといけないめんどくささで、つい二人を睨んでしまう。すると二人は一瞬ビクリとしたけれど、すぐに元気を取り戻してキャンキャンと吠え出した。
『んだよその目はよ!気にくわねーな!』
『文句あんならかかってこいよ!!』
『……』
悪いことをしたわけでもないのに殴られた僕には文句があった。だから二人にかかっていった。といっても、僕を殴った方にだけど。
すごく苛ついたので、同じように顔を殴った。けど、威力の方は同じじゃなかったらしく、僕を殴った男は吹っ飛んでいった。
おかしいな、思ってたよりも軽いなって思って僕は自分の拳を見つめて握ったり開いたりして、すっともう一人に目を向けた。
妹が言うには、僕の素顔はとても冷たく感じるらしく、睨んだりするとすごく怖いらしい。僕としては普通に見ていただけなのに、たまに怖いと言われることもあったので少し凹んでいたけど、今だけは役に立ったみたいだ。
怖いと思われたくなくて大して似合いもしない眼鏡をかけていたんだけど。ちなみにコンタクトなので目は普通に悪いんだけどね。
僕の視線を受けたもう一人はヒッと喉の奥で悲鳴をあげたかと思うと、吹っ飛んだ彼を回収して去っていった。ちなみに彼らは後日、サークルを去ることになるのだけど、それは別の話だ。
『あ、ありがとう……なんだか、意外。強いのね、喧嘩』
飛んでいった眼鏡を回収して、やっぱり買い替えないと駄目だって思っていると声をかけられた。
目を向けた彼女は微かに震えていて、涙目で、それがとても庇護欲をかきたてる。もちろん、一般の人ならって話。自他共に認める変人な僕には当てはまらないんだけど。
『うん、まあ、こんな見た目だとね、舐められたりすることもあったから』
これは事実。さして短くもない癖っ毛の髪に目立たないようにかけていた眼鏡のせいで、いかにももさい感じの暗いオタク系男子の出来上がりだ。
当然いじめってわけじゃないけど、似たようなことはそれなりに起こった。まあ、自分で全部解決したから特に問題にはなっていないけど。
『あ、それ……大丈夫、じゃ、ないわよね』
『まあね。見た通りだよ』
彼女が指を指したのは僕の手の中にある壊れてしまった眼鏡。そんなに高いものではないから値段って意味では気にしていないけど、これは妹から貰ったものだから申し訳ない感じがする。
『事故みたいなものだし、そんなに気にしてないから』
そう言って邪魔な前髪をかきあげると、彼女からの目が突き刺さる。なんだろう。
『……なに?』
気にしないように努めたけれど、彼女の目がいつまでたっても逸れないので気になってしまった。
僕が彼女の目を見ると、途端に彼女は頬を染めて慌ててあっちを見たりそっちを見たり。一体何なんだ?そんなに僕の顔がおかしいのかな?
『え、あ、いや……その、眼鏡、弁償するわ。私のせいだし…』
『別にいいよ。そんなに高いものでもないし』
『でも、それがないと見えないんじゃ……』
ああ、彼女はこれに度が入ってると思ってるのか。
誤解を解くために彼女に眼鏡を渡す。覗いて見るように言うと、どうやらわかったみたいだ。
『これ…』
『うん、度が入ってないんだ。なんか、妹に目が怖いからって貰ったんだけど』
『……そう言う意味じゃないと思う』
『え?』
『ううん、何でもない。でも、そっか、これ伊達だったんだ』
壊れた眼鏡を何だか嬉しそうにかけて僕に向かって笑いかける彼女。彼女の顔に似合わない少しずれたそれが彼女の可愛さをより引き立てている。
『そろそろ新しいのにしたいって思ってたし、まあいい機会だよ』
『あ、それなら……』
今度の休みの日に、一緒に眼鏡を見に行こう。
そう誘われて、近所にある大型のショッピングモールにやって来たんだ。僕が外出するのが珍しいらしく妹はしきりに相手がどんな人かを気にしていたけどね。
「眼鏡、どんなのがいいのって聞いてたのよ」
少しむくれて彼女は言う。周りからはそんな彼女を見る男の目と、僕に対するわかりやすい感情を含んだ目が向けられている。正直、居心地は良くないけど、彼女はこういう目に慣れているのか、とても自然だ。
見るからに美しい彼女と、いかにもアニメや漫画ばかりですって感じの男。僕でもおかしいなって思う組み合わせだ。どうして僕はあの日の彼女からの誘いを受けてしまったんだろう。
「派手な色じゃなければ何でもいいんじゃないかな。妹からはダークブルーとかブラウンとか色々言われたけれど、僕は特に興味ないし」
「もう、適当ね。まあ、何でもいいなら私が選んでもいいわよね!」
「選んでもいいけど、それにするかは僕が決めるよ」
「それはそうよ。自分が納得できるものを買いましょう!お金は私が出すから!」
「別にそこまでしなくていいよ。君だって、貴重な休みを僕なんかのために消費してるだろ?そのぶんのお金も入ってるって思えば眼鏡なんて安いもんさ」
そう言って僕はレモンティーを流し込む。コーヒーは苦いので苦手だ。砂糖とミルクたっぷりなら飲むけれどね。あまり知られていないけど、僕は甘党なんだ。
「え、ああまあ…そんな、気にしなくていいのに」
何だか慌てて長くて綺麗な髪を耳にかける彼女。そんな仕草ですら男を魅了するもののように思えてしまう僕はひねくれているんだろうか。
「じゃ、行こうか?」
僕が伝票と自分の荷物を持って立ち上がると、彼女も少し遅れて立ち上がる。
自分の分は自分で払うと言って聞かない彼女を何とか宥めてお金を払う。
まあ彼女でも何でもないからそこまでしなくていいだろって人もいるかもしれないけど、一応時間を作ってくれているわけだから、ここは僕が払うべきだと思う。
「ごめんなさい、なんか」
「なにが? 僕が勝手にしたことだから君が気にすることでもないと思うけど」
そう僕が言うと、なんだかむっとした顔で無言になってしまう。さっきまでは上機嫌だったのに。女の子って難しいんだなってわかっていたつもりだったけど、それは本当につもりだったみたいだ。
無言でスタスタ先を行ってしまう彼女を、同じく無言でのんびり追いかける僕。当然差は開いていくけれど、僕は特に気にしていない。はぐれたならはぐれたで一人で買いに行けば良いだけだからね。
彼女との距離が目測で十メートルは離れたところで、彼女が捕まった。僕が立ち止まってそれを見ると、どうやらナンパみたいだ。
彼女くらい可愛いと例え数十秒前に男がいたとしてもすぐにナンパされるんだなって何だか感心してしまった。
思わず笑ってしまう。すると、彼女は近くにいなかった僕に気がついたみたいで、僕を見て何だか指をさしてナンパに対して何かを言っている。
ああ、なんだか想像できるぞ?今言っていることも、今後の展開も。僕としては面倒は避ける性分だ。それにここで彼女を見捨てるのも気分が悪い。
「ごめんね、今日はこの子、僕のなんだ。悪いけど日を改めてくれないかな」
悪いなあとは思いつつ、彼女に歩み寄って肩を抱く。僕と比べて頭一つ分は低い彼女だから、当然華奢だとは思っていたけれど、予想以上の柔らかさに内心驚いた。
「あ? んだよ、お前。今こっちがよろしくやろうとしてる時に入ってくんじゃねえよ」
これもそろそろ定型文にして欲しいな。本気でめんどくさい。
イラっとしたのでナンパの彼に詰め寄る。
「こっちが優しくしてやってるからって調子乗んなよ? 俺のだって言ってんだろうが」
ナンパの彼の目を睨みつけるように見ると、彼は少しばかり(?)驚いたようだった。
それから、チッと舌打ちをして行ってしまった。
ああ、みんな彼くらい物分かりがいいとやりやすいんだろうなあ。
去っていく彼の背を見送りつつ、彼の次が成功するように祈っておく。僕に関係なければ好きなだけするといいよ。
「あ、のね、戸塚くん」
「なに?」
なんだかイライラが収まらないので少しばかり機嫌が悪い。いや、悪かったと言った方が正しいかな。僕の腕の中の彼女を見た瞬間、イライラなんて吹き飛んでしまった。
「その、ちょっと恥ずかしい、わ」
そう言って小さくなって俯いてしまう彼女。そうでなくとも僕にとって小さい彼女なのに、そんな風にされるとなんだか可愛く思えてしまう。真っ赤になった耳も首も、おそらく顔も。彼女だったら今まで付き合った人にこれくらいされているだろうに。
「へえ、ちょっとなんだ」
そう笑って彼女を解放する。
すると彼女は潤んだ瞳で僕を睨みつけてくるけど、どう見ても子猫が怒っているって感じで全然怖くない。
「そもそも、どうしてあんなに離れたところにいたのよ」
「僕は歩く速さを変えてないのに君だけどんどん速くなっていくから驚いて遅れただけだよ。追いかけようかなって思ったら君が捕まったから、急がなくても追いつくかなって思って」
前半は嘘だけど、後半は嘘じゃない。ちょっとだけだけど、急がなくても追いつくなって思った。
笑ってそう言う僕に彼女の怒りのボルテージは上がっていく。それを示すように、彼女は腕を組んで憮然とした表情になる。
それはそれで絵になると思うけれど、せっかくの休みにそんな顔をさせてしまったら僕の責任になってしまう。
「まあ、何もなかったから良いよね? 早く行こう? 眼鏡、一緒に買いに行ってくれるんでしょ?」
そう言って彼女の手を取って歩き出す。
驚いたことに、彼女の抵抗は全くなかった。
柔らかい彼女の手。すべすべしたその感覚を味わっていると、僕はなんだかいけないことをしているような気持ちになった。そもそも、僕なんかが彼女と一緒にいることすら烏滸がましいと思うね。
チラリと彼女の様子を見ると、なんだか幸せそうな顔で笑っていた。
僕はその顔が妙に記憶に残った。
長かったですかね?
ちょっと個人的に微妙だなって思ってもちょくちょく修正していきたいと思います。
次からは5000字くらいで良い感じにまとめられたらいいなあ。