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immortal life  作者: ハクハク
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第5話 入学試験 その2

 手元の手紙に書かれている<666番vs6番>の数字を見て、顔がひきつる。先ほど見たからよくわかるが、彼女は間違いなく今回志願者の中で最強だ。


「あらー?アサマさんー、どうもー。」


「うぉっ!?」


 噂をすれば影が刺すというが、まさに。最強である桜花さんが、おれの後ろに立っていた。


「むー、そうも驚かれるとこちらも少し、不満なんですけどー?」


「あ、いや、すみません。考え事をしてたもので。」


 ほっぺたをぷくっと膨らませる桜花さんは非常にかわいい。しかし、あの戦闘力を知って、さらにこれから戦うことを思うと、鼻の下を伸ばしてもいられない。


「桜花さん、2回戦おれと戦うみたいですね。」


「あー、確かにそうですね。是非ともお願いしますー。あなたは私を楽しませてくれるのですかねー?」


 その言葉に、顔がひきつる。楽しませる。つまり、相手になるとは思われていない。なんか、ひきつるついでにイラついてきた。


「そうですね、どうでしょう。やって見ないとわからないですね。」


「・・・。」


 と、おれがニヤッと笑い、桜花さんにそういうと、桜花さんは無言を返してきた。俺の顔を珍生物でも見るかのような目で見ている。


「ど、どうしました?」


「・・・いえー、では、次は闘技場で会いましょうー。」


 そう言って桜花さんはテクテク歩いていく。実際勝てるかどうかといえば勝てないと思うが、まぁやれるだけやってみようと思う。


「浅間さん!」


 と、ここで小走りでマリアさんが俺のところに来た。なにやら慌てているような顔である。何事かと思ったので、とりあえずどうしたのか聴いて見る。


「どうしたんです?マリアさん。」


「ど、どうしたんです?じゃないですよ!アサマさんの相手、わかってるんですか!?」


「あー、まぁ確かに規格外ですよね。俺も勝てるとは思えないんですけども。」


「それどころじゃないですよ!?あの人は、あの鬼は!」


 そのあまりの慌てように、本当にどうしたのだろうと思う。いくら強いとは言えど、殺傷は無しだし、そんなに気にすることでは無いと思うのだが。


「ー<鈴鹿御前>こと、桜花様では無いですか!!」


 なるほど、神様が様付けするレベルの鬼なのか。それはやばいわ。改めて自分の運のなさに絶望してきた。


 ー鈴鹿御前、桜花。俺の元いた世界、日本に存在していた鈴鹿御前とは別の存在。この世界での鈴鹿御前は、所謂、最強。それは、志願者の中でなどという話では収まらない。本当に、この世界すべての生命体の中で最強。とのことである。


「確かに、それはすごいなぁ。」


 あのおっとりした少女が最強。ほんとこの世界で見た目ってなんの参考にもならないなぁ、と思う。


「私と、ミレイは、そんな優れた相手とぶつからなかったのでいいですが、浅間さんの相手は本当に規格外です。というかなぜあの方が学校に来ているのやら・・・。」


 確かに。それはそう思う。わざわざ学校などに来なくとも、もっと楽に生きられそうだが。まぁ、その辺の事情はわからない。ただ、今わかるのは。


 掲示板に、次は俺の番だと表示されていることだけだった。


「浅間さん!気をつけてくださいね!」


 ほんとマリアさん女神。あの駄目女はもう知らん。とにかくまずは俺の戦いに集中しておこう。


 この2つ目の試験は、闘技場で行う。しかし、この人数全員を1人ずつ対戦させていては、いつ終わるかわからない。なので、1つ目の試験の結果に合わせて相手の数が決まる。試験判定はS.A.B.C.Dの五段階。Dの判定ならば、約50人ずつのバトルロワイアル。C.B.Aとランクが上がるごとに、数が減っていく。そして、Sランクでは、1対1の戦いとなる。今回俺は一撃でゴーレムを倒してしまい、Sランクを取ってしまった。そのため、俺は同じくSランクである、桜花さんと当たることとなったわけだ。


 とは言っても、Sランクはまだ他にもいる。ただ偶然。俺が彼女と当たってしまっただけだ。


 すでに、D〜Aまでの試合は終わっているらしい。マリアさんは1つ目の試験がAで、2つ目の試験では5人のバトルロワイアルだったらしいが、無事勝てたらしい。もう1人の駄目女は知らない。


 ということで、現在残るはSランクの試合のみ。D〜Aの試合に出ていた人たちはこちらを観戦しに来ている。そして、俺と桜花さんは、Sランク最初の試合。すでに俺は門の前まで来ている。ここを抜ければ、あとは試合開始の合図が告げられれば、戦いとなる。


 覚悟を決めて、俺は門をくぐる。そこには、


「来ましたねー、アサマさん。」


 いる。彼女が、桜花さんが。世界最強の鬼が、俺を待っていた。


「さぁさぁ、それでは!両者が揃ったのでそろそろ戦いを始めたいと思います!」


 先ほどの人と変わり、ヤケにノリノリな司会者の声に、歓声が響く。


「はい、お願いします桜花さん。」


 だけれど俺には、その声が遠く聞こえる。自分の体の制限を、解除する。始まれば、彼女は速攻で攻めてくる。ならば俺も、事前に行けるところまで上げておく。目を閉じて痛みに耐えながら、%を上げていく。


「それでは!」


 100%.150%.200%.250%。目を開ける。


「開始っ!」


 300%!よし、まずは一撃目を・・・!?


「ぐぁ、っ!?」


「よいしょっと!」


 吹き飛ぶ。いつの間にか懐に入られ、腹を殴られた。壁にぶつかり、壁が倒壊する。ガラガラと、音を立て、俺の上に瓦礫がのしかかる。


「あら?手加減したんですけど、すごい吹っ飛んじゃいましたね。」


 手加減、これが。そんなバカな、不死でなければ絶対に死んでいたと確信を持てるぞこれは。


「むー、少しアサマさんには期待してたんですけど。残念です。」


「・・・。」


 答えられない。声が出せない。


「あ、えっと、6番の勝利です!」


 歓声が響く。そこかしこから、あんなの勝てないよとか、化け物だなほんと、なんて声が聞こえる。悔しいなぁなんて思い、俺は桜花さんを見る。きっとそこにいる桜花さんは、勝ったのだし、嬉しい顔をしているだろう、と思って。


 けれど、彼女は。


 ーすごく寂しげに、悲しげに目を伏せていた。


 彼女はそのまま後ろを向いて歩き出す。その背中がなんだか小さく見えて。最強には見えなくて。なぜか俺には、寂しそうに見えたから。


「ーーー待てよ司会者。」


 気がついたら。


「ーーーまだ終わってないだろう。」


 立ち上がって。


「ーーーどうやら俺は負けず嫌いらしくてな。」


 桜花さんを見て。


「ーーー勝つまでやらせてもらう。」


 息を大きく吸って。


「ーーー諦めてやるものかぁぁぁああああああ!」


 叫んでいたのだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 小さい頃から私は、最強と呼ばれました。親の顔は覚えておらず、ただ、小さい頃に私の力に怯え、捨てたという話は聞きました。最初は鬼のみんなは、強い私と戦うのを楽しんでくれていたのです。しかし、あまりにも私が規格外すぎて、いつしか誰も戦わなくなりました。


 でも私はそれよりも、どんどん強くなって。最強だったのに、それよりもっと強くなって。みんなが私と戦っても負けるだけと諦めてしまうようになって、神様さえも私と戦うのは無理と諦めて。


 悲しかった。寂しかった。友達はいたけれど。仲間はいたけれど、でも私には、戦いをする相手がいなかった。だから私は、この学校に来れば、何かがあるかもと期待してきたのです。


 せめて、せめて。私と戦う力がなくとも。どうか、諦めないで。勝てないと、諦めないで。傲慢だってことぐらいわかっているのです。だってこれって、要するに、私にやられるとわかっても立ち向かってきて、その上で諦めず私にやられ続けて、ということなのですから。


 でも私は強すぎる。諦めなければすぐにみんな死ぬだけ。だからこれは無理な話。不可能な話。


 だから、私は、この時のことを忘れないでしょう。


 人間なのに、最後まで私と戦った、この人のことを。


 決して、忘れたりはしないでしょう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目の前の桜花さんの顔が喜色に染まる。あぁ、やっぱり。この少女は、自分に立ち向かう存在を待っていたのだ。そんな風に思う。


 だから期待に応えよう。そのために俺も、さっさと限界を越えよう。制限を、断ち切ろう。


「500%ぉ!」


 激痛が走る。足の健が千切れたような、いや、右足は感覚的に、完全に千切れている。血が出ているような気もする。でも俺は、それら全てを見なかったことにする。


 全力で殴りかかった拳は止められる。まぁ、500じゃやっぱ無理か。


「ーーアサマさん。こんな時に不謹慎なんですけど。私今。すごく、嬉しいです。」


 そのまま投げられる。壁に今度は埋まる。とてつもなく痛い。背中の骨が折れていると思う、けど、気づかなかったことにする。


「だから、私、あなたのその覚悟に報いるため。」


 早く抜け出せ、壁に埋まっている場合じゃない。


「本気を、出そうと思います。」


 悪寒。ここにいたら、不死でも死ぬという予感がした。俺はすぐにまた500%まで体を引き上げ壁を吹き飛ばし、脱出。その数瞬後。


 ーード、ガァァァァン。


 先ほどまで俺のいた場所が、吹き飛んでいた。あぁ、客がそちら側にいなくてよかった。だって、彼女が全力で殴れば、闘技場そのものの一角を、吹き飛ばすなんて造作もないとわかったから。円形だった闘技場が、三日月型のようになっていた。


「700%!」


 その桜花さんに俺は今度は蹴りかかる。相変わらずの激痛。次は何やら足から白い骨が見えている気がするが、無視する。そんなものは見ていないと、そういうふりをする。


「よいしょ、そらっ!」


 もちろん受け止められる。そして投げられる。そのまま俺は観客席に吹っ飛び、そこにいた観客たちが逃げる。次の瞬間、跳んできた桜花さんが殴りかかってくる。横に転がって避けるが、桜花さんが床を殴ったことで、床が崩壊。瓦礫と一緒に俺も落ちる。


「850%、ぉぉぉ!」


 瓦礫を足場に、もう一度飛びかかる。しかし、今度は避けられ、桜花さんは両手を組み、俺の背中を叩き、俺を地面へとぶっ飛ばす。地面が割れ、今度こそ意識が飛びそうになる。だが、まだ終われない。かろうじて意識をつなぎとめる。


 横に桜花さんが降りてくる。そして俺を見て、静かに言う。


「もう、私の勝ちです。さすがにもうあなたも動けないはずです。体の節々から血を吹き出し、さらに骨見えていますし。あなたが諦めず、私に立ち向かってくれたのは嬉しかったです。でも、ここまでです。きっとあなたは不死の能力者なんでしょう。制限解除持ちなのも、戦っていてわかりました。だから、あなたの体は痛みを感じているのだって、わかります。」


 俺の能力についてはバレていたらしい。まぁ、珍しくとも、この世界ではあり得ることらしいので、桜花さんが知っていてもおかしくはない。桜花さんは、俺が痛みに耐えられず、もう動けないと思っているようだった。

 桜花さんが近づいてくる。


「とどめです。次起きたら、是非、仲良くしてください。」


 観客席からは固唾を呑む音が聞こえる。司会者も、止めない。ただ、皆がこの勝負の結果を待っている。


 桜花さんは、目を閉じ、そして腕を振り下ろし。


「ーーー999%」


 俺はそれを、弾き返す。


 999%の衝撃に俺の腕は耐えきれず、潰れる。グチャ、と音が鳴るが、俺はそれも無視する。千載一遇の、好機。最後だからと、力を抜いた桜花さんの唯一の隙。身体中から警告が鳴る、これ以上は無理だと。これより上は、領域が違うと。


 でも、それでも。俺は、桜花さんに一矢報いなければ、気が済まない。


 なんてったって、諦めないと決めたのだから。


「1000%ォォォォォォオオオオオ!!!!!」


 桜花さんの体に全力を込めた拳を叩き込む。その拳は桜花さんの腹にあたり、そして吹き飛ばす。桜花さんは、壁にぶつかり、大きく砂煙が立つ。その代わりに、俺の腕は破裂する。痛いなんてもんじゃあない。脳が嫌な音を立てる。そして、薄れていく意識の中。


「ーーー?」


 驚いたような顔で、お腹についた傷を見て、呆然としている桜花さんがいた。あぁ、くそ。ここまでやっても。傷をつけるので精一杯なのか。けれど今は仕方ない。とりあえず、


「いっ、しは報いた、ぞ・・・。」


 その事実は間違いなかった。そのまま俺の体は前のめりに倒れ。そして俺は、意識を手放した。

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