第4話 入学試験 その1
と、いうわけで。
俺こと、浅間 良弥は、異世界で学生になるべく。
入学試験を受けようとしています。
なぜこのようなことになったのかというと、話は5日前に遡る。
ー5日前
「えーっと・・・。マリアさん、ワンモアプリーズ。」
「学生になろうと思います!」
全くわからない。この先に学園都市があるのはわかった。しかし、そこに行くという話から何故、学生になるという話になるのだろうか。もしかしたら、学生にならなければ、都市の中に入れないとかそういう事情か?と、思い聞いて見るけれども、
「いえ、そんなことはないですよ。」
と、答えられてしまい、余計にわからなくなる。とりあえず、少し離れたところで、花に留まっている蝶々を一心に見ているあの駄目女は放っておいてもいいとして。マリアさんにもう少し詳しい事情を教えてもらわないと始まらない。
「マリアさんもう少し詳しくお願いできますか?学生になる理由がイマイチなんですが。」
「まぁ、アサマさんは異世界の住人ですから、それが普通だと思いますよ。それでは、順を追って説明していきましょう。」
まぁ、その後マリアさんの説明があったのだが、マリアさんは説明好きらしく、余計な話に逸れまくり、ものすごく長い話を聞くこととなってしまったので、大事なところのみ要約すると、
この世界には、まず魔王がいて。
その魔王を倒すため、次世代の兵士を育成しようと、学校を作った。
その理由から、学校は実力主義で。
俺たちのような存在も、実力さえあれば入れると。
そういうことらしい。で、肝心の理由は。
「まぁ、私たち2人は、ほとぼりが冷めるまで何もしないのもあれなので、学生をやってみようかという好奇心レベルですね。しかし、アサマさんは、この世界のことをあまり知らないので、学生になれば、いろいろわかるかと思いまして。」
ただの優しい人だったのでもう泣きそうです。普通に俺のためとかありがたいことこの上ない。それに対して、あの駄目女は、
「ねーねー!こっちにすごい色してるキノコあったの!みんなで食べましょ!」
ほんと、どうしようもなく駄目だな、と改めて認識した。
ーで、現在。
ちょうど入学シーズンみたいなタイミングで来れたらしく、この都市に着いた後、宿を取り、そのまま何日か過ごし、そしてこの試験に来たということだ。ちなみに、その宿にいる間に、マリアさんに一般常識はなんとか教えてもらったので、そこまでおかしな発言はしないようになっているはずである。
「すごい数だな、1000人はいるんじゃないか?」
辺りを見渡せば、様々な格好をした存在がいる。そして、マリアさんから聞いたのだが、というか今現在目にしてるから疑う余地もないが、この世界には俺の世界での幻想が成り立っている。
言い方を変えると。
鬼もいて、龍もいて、神も普通にいるということだ。
さっきから普通に視界の端にツノ生えてる人いたり、空飛んでる人いたり。もうなんか規格外である。
「まぁ、ここに入学できれば将来安泰ですからね。そこそこ人は集まりますよ。」
と、マリアさんは言っている。実際、この中から話によれば300人しか受からないのだから、なかなか厳しい。自分の強さがよくわからないのでどうなのだろうか。
と、ここで。ガヤガヤと騒がしかった入学志望者たちだったが、
「ー入学志願者の皆さん、静粛に。」
静まり返る。皆、今声をあげた存在の方を見る。
ーそこには、見た感じ9歳くらいの子がいた。
いや、わかってはいるのだ。この世界では見た目はあてにならない。神とか鬼とかいるんだし、実際の見た目はこうでも年齢は100歳とかもあるのだろう。その辺は分かっている、わかっていても。
ついつい、その人を微笑ましげな瞳で見てしまっていた。
「私はこの学校、アウルム学園校長、双玉です。ここに集ったあなたたちは、多少は腕に自信がある人たちなのでしょう。今、私たちは次世代の力に期待を寄せています。故に、あなたたちにも期待をしたいのです。しかし、ここにいる全員を入学させる気はありません。この学校の生徒という座が欲しければ。」
目を閉じつつ、語りかけるように話しかけていた双玉と名乗った少女、いや校長は。その黒髪をなびかせながら、ゆっくりと目を開き。その藍色の瞳を爛々と輝かせながら。口元を獰猛に歪め、俺たちに向かって
「それくらい、自分の力で奪い取りなさい。」
言う。それだけでわかる。この見た目少女は、間違いなく強いと。だって、言葉1つで、既に50人ほどが倒れている。言霊といえば良いのだろうか、この少女は言葉の中に威圧を込めたのだ。そして、それに耐えかねた人が倒れた。
「ふむ、その人たちは受けても無駄でしょう。連れて行ってあげなさい。」
その指示によって、倒れた人たちは運ばれていく。
「さて、では。事前に告知もありましたし、皆さま把握していると思いますが、この学校の入学試験は、2つに分かれます。1つ、魔物狩り。現れた魔物に対し、どう対処し、どう倒すか。2つ、対人戦。常に敵が魔物とは限りませんので、人に対してどう戦うか。まぁ、集約すれば、実力があるかどうかです。」
双玉ちゃんの説明が終わる。それは同時に。試験が始まると言うことだった。
「では、各自番号が与えられていると思います。あちらの掲示板に番号が表示された方は、闘技場に入り、そこで試験を始めます。1番の方からですね。と言うことですので、自分の順が回ってくるまでは、他の志願者を観察しておくもよし。訓練するもよし。自由です。」
闘技場と呼ばれた建物を見る。確かにこれは、紛れもなくコロシアム、闘技場である。どうやら自分たちはこれを上から観戦することとなりそうである。ちなみに俺の番号は666だ。不吉である。
そのまま校長の双玉ちゃんが移動を始めたので、同様に俺たちも移動を始める。この大人数がわらわらと動くのは少し気持ち悪さを感じるところもある。それと、マリアさんと、駄女神だが、あの2人は俺とは別行動している。まぁとは言っても、この試験は受けているので、どこかで会うこともあるかもである。
コロシアムの二階に来たので席に座り、会場を見る。まだ誰もいないので、試験が始まってはいないのだろう。ならばまだ時間もあるな、と思うと、何やら少し眠くなって来た。いやしかし、こんなところで寝るのも、と思うが、眠気には抗えず。ついつい俺は、そこで少し眠ってしまった。
「あ・・・、お・・・?」
うとうとしていたら、可愛らしい声が聞こえた。どうやら誰か俺に話しかけているらしい。
「んー・・・?」
寝ぼけ眼をこすりながら、少しずつ意識を戻していく。それに応じて、目の前の存在も徐々にわかってくる。
「あのー、起きてますかー?」
茶色の短髪、紅色の目。おっとりとした顔つき。そして、額から生えた1本の角。あー、これは鬼だ。マリアさんからの話のおかげで衝撃はまだ少なかったが、それでもまだ、鬼というのが美少女だったりするという現実に、少し緊張はする。
「あ、っと、なんか邪魔でしたか?」
「いえいえー、珍しい方がいるものですから、話してみたくなりましてー。」
珍しいとは、自分のことだろうか?いやむしろ、普遍的な顔つきだと思うし、変な発言もしてないと思うのだが。
「そうではなくー、今から試験なのに暇そうな人はレアなんですよー?だって人って基本的に私たちよりも非力ですからー。」
まぁ、その通りだ。目の前の鬼も皮肉などではなく、ただ事実を言っているというだけだ。マリアさんの話によれば、人間は最弱の生命体。しかし、その最弱を覆すべく魔法を編み出し、それによってまだ戦えるようにはなったそうだが。まぁ俺は使えないけども、魔法。
「暇なんてとんでもない。今も心臓がばくばく言っていますよ。」
「あらあら、よく言いますね。とてもそんな風には見えませんよー?」
いやまぁ、緊張はしている。とはいえ、俺は別にこの学校にこだわっているわけでもないから、確かにその辺の思いつめたような顔している奴らよりはマシなのかもしれない。
「私は、桜花といいます。あなたは?」
「あー、浅間といいます。」
かるーく名前を言うだけの自己紹介を済ましたところで、目の前の少女は口元に手をたおやかに当てて、
「あら、次は私ですね。ではでは、アサマさん。お互い合格できるように祈りましょう〜。」
「はい、そうだといいですね。では。」
歩いて行った。掲示板を見ると、いつの間にか1だったものが5まで進んでいる。闘技場を見ると、人が倒れている。その人をスタッフさんのような人が運んで行ったのち、先ほど俺と話していた少女が会場に入って来た。掲示板の番号が6に変わる。
少女の出てきた門と逆の門から、二匹の狼の姿をしたゴーレムが現れる。確かマリアさん曰く、ほんとに魔物を使うと殺されてしまうかもなので、ゴーレムを魔法使いが操っているそうだ。
「それでは、開始っ!」
試合の開始を告げる声。会場がワァッ!と盛り上がり、すぐに、目の前の状況に静まり返った。そりゃそうだ。だって。
「あら?思ったより手応えがないんですねぇー?」
ゴーレム2匹が、開始の声と同時に少女に握りつぶされたのだから。幾ら何でも、速すぎる。見えたとかそんな話じゃない。認識すらもできなかった。
「番号、6番、合格、です。」
もしかして俺は、さっき結構命知らずなことをしていたんじゃないかと、今更ながらにそう思う。
ーその後、凄い奴らはちらほらと見受けられたが、あの鬼の少女ほどぶっ飛んではいなかった。そして、とうとう俺の順番が回ってくる。下に降り、会場に立つと、多少なりとも緊張する。第一、先ほどのゴーレムたちがイマイチ強いのかわからなかった。だって瞬殺が多かったし。
「とにかく、俺は本気でやるしかあるまいよ。」
目の前の門からゴーレムたちが出てくる。闘技場の広さは半径50メートルの円。意外に広いこの会場で、戦うこととなる。
「それでは、開始っ!」
合図が聞こえる。狼たちが来る。このとき俺もあの少女を見て多少なりともテンションが上がっていたのだろう。多分100%で事足りたであろうのにおれは。
「200%!」
先日倒れる原因となった200%で、ゴーレムを思いっきり殴り飛ばしていた。殴られたゴーレムは砕け散り、と同時におれの腕からブチッ、と嫌な音がなる。思わず歯をくいしばるが、この間のように倒れることはなかった。
ただ、この世界において、人間とは魔法を使うことで他の生命体と渡り合えるのであって。まさか誰が想像しただろうか、ただの力押しで、決して弱くはないゴーレムを吹き飛ばすなんてことを。
「「「う、お、ウォォォォォ!!!」」」
空気が震える歓声。誰もがその男に注目した。ある者は憎々しげに、ある者は愉しげに、ある者は、企んだような笑みを浮かべながら。そんな一癖も二癖もありそうな存在たちに囲まれ、歓声を上げられながら。浅間の番は終わりを告げた。
ー数刻後
「しまった・・・。」
調子に乗ったな、と思う。少し前まで話していた少女の圧倒的な武力に、また、自分の番が回って来るまでのいろんな奴の戦いを見ていたら、ついついテンションが上がってしまった。
「むぅ、ある程度穏便にやっといた方が、警戒されずに済んだだろうに、やってしまった。」
2つ目の試験は、1対1の入学希望者同士の戦い。できることなら、手の内は見せない方が良かったのだが。思ったより自分はああいうのに負けたくないと思うたちらしい。
「まぁやってしまったものは仕方ない。問題は誰と当たるか、だな。」
そろそろ、対戦相手の告知が来るとのことだが。しかし、誰かが寄って来るでもなし、一体どうやってやるのだろうと想像していると。
ふわりと、蒼い蝶々が飛んできておれの手に止まる。そのまま霧散したかと思うと、おれの手元には手紙があった。なるほど、これも魔法だろうか。便利なものである。
「さて、相手は?・・・。」
手紙を破り捨てたくなる。それどころか今のは夢だったと思いたい。嘘だろ、ともう一度開くと、またもやその数字が目に入り、肩を落とす。
「・・・1番当たりたくなかったなぁ。」
そこには、こう書いてあった。
<666番vs6番>
最強の相手じゃないかよ。