第3話 200%
「お前ほんとなんなの!?トラブルを引き起こさないと生きられない体質でも持ってんの!?」
「そうですよ、ミレイ!早くその実を捨てて、逃げますよ!!」
俺とマリナ様、いやもうここから頭の中でもマリアさんにしておこう、は駄女神に向かって大慌てで叫ぶ。その間にも、足音はどんどん大きくなっていた。
「嫌よ!これは私が拾ったんだから私のものよ!」
「どっかのジャイアンみたいなことを言ってんじゃねぇよ!それがあると、やばい魔物に襲われるつってんだろ!」
「へーんだ、女神の私がそんなのでビビるとでも思ってるの!?甘い、甘すぎるわ!そんな魔物私がちょちょいとやっつけてあげる!」
目の前の駄女神は全く話を聞こうとしない。いや、でも、目の前のは腐っても元女神。幾ら何でも、魔物一匹相手に負けることなど・・・。
「ミレイ、なにを言ってるんです!今のあなたは堕ちてるんですから、ベヒモスの相手は無理に決まってるじゃないですか!」
「えっ!?この森、ベヒモスがいるの!?」
「なんであなたは神なのに知らないんですか!?」
と、マリアさんと駄女神、いや、駄目女の2人が言い合っている。どうやらさっきからの足音はベヒモスと呼ばれる魔物のものらしい。
「あー、もうっ!ベヒモスのスピードから考えて、もう逃げられません!こうなったら、戦うしか・・・!」
「マリアさん、ベヒモスとやらの特徴を教えてください!」
「ベヒモスは巨大なイノシシの姿の魔物です。その突進力と異様なまでの厚い皮により、生半可な物理攻撃は通りませんし、魔力に対して耐性を持っています。」
マジで強いじゃん!と、俺がびっくりしていると、
「グ、ガァァァ!」
雄叫びが響く。もう本当に近くまで、その魔物が来ていることがわかってしまう。森が揺れ、木々の折れる音が聞こえる。恐らく、あと約10秒後には、ここに来るだろう。
「アサマさん、ベヒモス相手に通用する魔法を使うには、詠唱の時間が必要です。なので、ミレイと一緒に時間稼ぎをお願いします。」
「了解です、行くぞ駄目女!」
「誰が駄目女なのよ!」
各々の動きが決まった、次の瞬間。
「グ、ガァァァァァァァ!!!!!」
巨大なイノシシの姿をして、黒い毛を持つ魔物、ベヒモスが現れた。ベヒモスはそのまま、狙いをマリアさんへと定め突進する。
「そうはさせるかぁ!80%!」
地面を強く踏みしめ、ベヒモスに向かって突っ込む。体から、肉が千切れそうな痛みを感じるが、それを無視してベヒモスを殴る。
「グギィ!」
多少は効いたようで、少しよろめくが、それだけ。俺の拳はベヒモスの体表に、わずかな傷を残しただけに留まっていた。軽く舌打ちをする俺に、
「「ブースト」!」
駄目女が魔法を唱える。俺の体が淡く輝き、力が漲ったような感覚を覚える。
「ちょっとあんた、速度上昇の魔法かけたから、もっと力出しなさいよ!80%とか、ケチなことしないでよ!」
「うるせーよ!お前は、痛くねぇからいいけどな、これクソ痛いんだぞ!」
「ふーんだ知らないもんね!早くしてよ!」
「後で覚えとけよお前!」
と、言い争いしている間に、ベヒモスが今度は俺に向かって突っ込んで来る。
「あー、くそっ!ならやってやろうじゃねぇかよ!200%ぉ!」
瞬間、俺は息が止まった。激痛。身体中に針を刺されたような激痛が、走る。しかし、ここで止まれば、目の前のイノシシが今度はマリアさんを狙う。それは困る。だから、強く歯を噛み締め、その痛みに耐えながら、全力で腕を振るう。
「くたばれぇぇぇぇ!」
そしてそのパンチは、ベヒモスの横腹に、風穴を開けた。
それを、激痛に耐えられなくなった意識が薄れて行く中、ぼんやりと俺は見ていた。
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「アサマさん、魔法が完成しました!今すぐそこを離れてください、って、え?」
私は、ベヒモスを倒すため、魔法を構築している間、アサマさんに時間稼ぎを頼みました。アサマさんには、申し訳ないとは思いましたが、ミレイもいるし、多分大丈夫だろうと思ったのです。
しかし、まさか。
「ベヒモスを、倒した?」
私の目の前には、横腹にマンホールくらいの穴が空いたベヒモスがいた。驚きを隠せない。ベヒモスの体を突き破るには、恐らく200%近くの力を使う必要があるのです。しかし、彼の暮らしていた世界は平和そのもの。そんな痛みに心が耐えられることはないと思うのですが・・・。
「しかし、アサマさんはベヒモスを殴った。」
普通、その前に痛みで意識が飛びそうなものなのですが。
「そういえば、アサマさんとミレイは?」
キョロキョロと辺りを見渡すと、ミレイはすぐ見つかった。なにやら慌てているように見えるけれど、どうかしたのでしょうか。そんなミレイの視線の先を見ると、そこには。
腕が青く紫に腫れ上がったアサマさんが倒れていた。
「アサマさん!大丈夫ですか!?」
思わず駆け寄る。しかし、アサマさんは不死の祝福持ちなので、その腕も徐々に治っています。とりあえず私はそれを見て安心し、完治するのを待つことにしました。ミレイには後でなぜ慌てているかを聞いておきましょう。
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まず目を覚ましたら、目の前には駄目女が手を顔の前で合わせていた。
「ごめんなさいっ!」
駄目女の頭の上にたんこぶができている。そしてその後ろに、鬼が立っている。マリアさん、怖いです。
「その、いくらなんでも、痛みを感じるあなたを煽ったのは間違い、でした。」
ふむ、謝罪をしているのか。なるほど、駄目女もまだ救いようがありそうな気もしてきた。だが、そう思った俺は、すぐに前言撤回をする。
「お前、謝る気ないだろ、その顔。」
目の前の駄目女は、めちゃくちゃ不服そうな顔をしていた。どうやら謝りたくないらしい。そのまま、駄目女は頬を膨らませたかと思うと、
「だった私悪くないもんだ!」
この女また言いやがった。
「ミレイ?謝るのではなかったんですか?」
「ひいっ!」
そして怖いです。マリアさん。顔が、顔がもうほんと、修羅の顔してる。嫁入り前の女性が絶対しちゃ駄目な顔だよあれ。もうなんか、俺後ろに龍見えるもん、もはや。
「・・・はあ、アサマさん、この辺で許してあげてください。ミレイも全く反省してないわけではないと思うので。」
「まぁ、あれは俺もどんだけ耐えれるのかなと思ってやったところあるので。多分次はあの痛みにも、耐えられるような気もしますし。」
「それなら良かったです。では、今度こそ森を出て、街に行きましょう。まぁ、正確には街ではないのですが。」
「え、街じゃないってのは?」
「はい、正しくはですね・・・。」
「私たちが向かっているのは、学園都市、エルガラム。全てが実力によって決まる学園エルガラムを中心として、街が形成されたことによって誕生した、この世界の兵士育成施設みたいなものよ!」
駄目女が、マリアさんのセリフ全部持ってった。あ、マリアさんちょっと拗ねてる顔してる。かわいいかよ。
「で、そこに行ってどうするんです?マリアさん。」
「うぅ、はい。私たちはそこに行ってーー。」
俺は、さすがに予期していなかった、マリアさんの次の言葉に、思わず素の反応を、してしまった。
「学生になろうと思います!」
「は?」