第2話 速攻の再開
「くっそぉ!あの駄女神、いつか必ずぶん殴ってやる!」
そんなことを叫びながら、俺は今、緑色の肌をした鬼のような生命体に追いかけられています。
「ギャギャギャ!」
全くもって何を言っているかわからないが、とりあえず手に棍棒みたいなのを握って追っかけてきてるから、捕まったらやばいのはよくわかる。
「うぉぉぉぉぉ!」
いや、不死の祝福を貰ってるって話だから、殴られてもいいのかもだけども。人間、痛いのは嫌なものである。と、逃げ続けていたところ、後ろから追っかけてきていた奴らの声が小さくなっていく。どうやら逃げ切れたらしい。
「ふぅ・・・勘弁してくれ。あのクソ女神、召喚まで適当にしやがって。殴る回数が二回に増えたな。」
愚痴りながら、暗い森の中を歩くが、方向が全くわからないし、そもそも場所がわからない。この森からの脱出の目処が全く立たないのが現状となっている。
「あー、都合よく誰かいねえ、か、な。」
言葉が途切れ途切れになる。それもそのはず、からの視線の先には、先ほどあったばかりの、女神二人がいたのだから。
「・・・。」
一度落ち着こう。姿勢を正して、深呼吸をしよう。
スー、ハー。
「わた・・・ない・・・!」
「ふれ・・・いい加減に・・・!」
なんか言い合ってるみたいだが、まぁとりあえず。
「くたばれこのクソ女神ぃ!」
全力で殴りかかることにしました。くそ、避けられた。
「あっぶな!何すんのよあんた!って、あー!」
「あー!じゃねぇ!お前のせいでさっきから散々なんだよ!」
「うるさいわね!神に文句言う気!?」
「おー、だいたいお、まえ、が・・・。」
横を見てやっと気づく。マリナ様が、ブチギレてらっしゃると。
「なによ!?言い返せないの!?そーよね、そーよ!神に向かってそもそもなんか言おうって言うのが間違いなのよ!」
やばい、目の前の駄女神はこの状況に気づいていない。
「全く酷い話よ!私なーんにも悪いことしてないのに、あいつら神堕としするなんて、信じられない!」
「フレイ?」
怒ってる。やばい、超怒ってる。これは触らぬ神に祟りなしというやつだ。
「なによ、マリナ!わかったでしょ!?わたしは、なーんにも悪く、ない、のよ・・・。」
「フレイ、ちょっと座って?」
「ハイ・・・。」.
「浅間様も。」
「ハイ・・・。」
逆らえず素直に座る。いや、これはダメです。逆らえないです。
「まず、フレイ。」
「ひゃい。」
「あなたは、自分が悪くないと本当に思ってるんですか?」
「だ、だって、私は、神様だもん・・・。」
「そう言って、ずーっと適当にやってきたからこうなってるんですよね?だいたいなんで私も巻き込まれてるんですか?あなたの同期と言う理由で、見張り役のようなことをなんで、私がやらないといけないんですか?さすがに私も怒りますよ?」
「ごめんなひゃい・・・。」
泣きそうだ、この駄女神。
「次に浅間さん。」
「は、はいっ!」
「確かにフレイがやったことは、許せるものではないでしょうけど。だからと言って、いきなり殴りかかってはいけませんよ。やる時は私に一声かけてください。協力しますので。」
「ま、マリナ!?」
悲痛な声を出す駄女神。ざまあみやがれ。
「とにかく、今はここを出て、近くの町に行きましょう。」
「そうですね、ここってどこなんですか?」
ずっと気になってたことをマリナ様に尋ねてみる。
「ここは、初心者の森ですね。対して強い魔物もいません。ですが、その・・・。」
「あー、はい。多分俺は能力が不死だけなので、それにも勝てない可能性が高いんですね?」
「いえ、その、はい。」
うーむ、わかっていたがショックだ。異世界というにはもっと、そういうものを体験してみたかった。と、思うが、気持ちを切り替えようとしたところで、
「なに言ってんの?マリナ。こいつも戦えるじゃない。」
駄女神の衝撃発言が飛び出す。
「ふ、フレイ!それは!」
「え、あるの?あるんだったら、駄女神、早く教えろよ。」
「駄女神ってなによ!?ふん、まあ私は心が地球並みに広いし?寛大な私は、あなたに説明してあげるわ!」
ふむ、どうやらガチであるらしい。マリナ様が不安そうな顔をしているのが気になるが、まあとりあえず、話を聞こう。
「私たちの盾になれば、いいのーー!?」
殴った。もう情け容赦なく。今のはもう俺は悪くない。だが、俺は一応マリナ様の方を向いて、
「マリナ様すいません。つい耐えきれずに、約束を破ってしまいました。」
「い、いえ。今のはもう、私でも多分殴りましたし・・・。」
しかし、なにをオーバーに吹っ飛んでるんだ、あの駄女神。いくら俺が思いっきり殴ったと言っても、さすがに10mも人は吹っ飛ばないぞ。
「おい、なにしてんだ駄女神。早く起きろ。」
「キュウ・・・。」
マジで気絶してる?何故?俺は前の世界では多少、喧嘩慣れしていたが、それでも流石に、そんな力はない。
「これは・・・!?」
と、そこでマリナ様が、何かに驚いている。何かな、思ったので、
「マリナ様、なんかあったんですか?」
聞いてみると、マリナ様が慌てたように説明を始める。
「あ、あの。浅間様の能力を見ていたのですが・・・。」
「あー、不死ですか?もしかして、回数制限があるとかそういうのじゃ・・・!?」
もしそうだったらシャレにならん。マジでこの世界で細々と生きていくしかなくなりそうになる。
「いえ、その、浅間様には、スキルが付いていたのです。」
・・・?それは嬉しいけど、なんでそんなに驚いているんだろう。
「その、説明しますとですね。神から付与された能力というのには、必ず1つスキルが追加されます。しかし、それは確率で決まるものでして、不死に追加される能力は、「不痛」という、痛みを感じなくなるスキルが99.9%と言えるのです。」
ほうほう。
「ただ、残りの0.01%のごく稀なスキルがありまして、そのスキルを浅間様は持っているのです。」
「え、どんなスキルなんですか?」
「「制限解除」というスキルです。普通人間は、身体の20%ほどの力しか発揮できません。それは、無意識にリミッターがかかっているからです。浅間様の持つそのスキルは、そのリミッターを意図的に外す、というものです。」
「なる、ほど?」
「ええと、つまりですね。60%の力でものを殴れば、普段の3倍の力で殴れると言った感じです。おそらく、フレイは先ほど、それで吹っ飛んだのかと。」
「へぇ、それは何%までいけるんですか?」
「事実上制限はありませんが、でも気をつけてください。あなたは「不痛」のスキルは持っていません。つまり、あまりにも過ぎた力、そうですね、だいたい100%を超えたあたりからでしょうか、体に激痛が走ると思います。不死なので、身体の死はあり得ませんが、心の死はあり得ます。1000%をこえれば、基本的には、その激痛に耐えられず、精神崩壊するものと思っておいてください。」
怖っ!?何その能力!?
「まぁ、100%でも、岩1つくらいなら砕く威力を出せますので、よっぽど使うときはないと思いますけど。」
「よかったぁ・・・!」
マジでそう思う。さすがに精神崩壊とか嫌だし。そうだ、異世界といえば。
「ところで、魔法とかは使えないんですか?」
期待を込めて、聞いてみると
「その、不死の祝福を持つと、魔法適性が無くなるので・・・。」
その言葉に、俺は気絶している駄女神の方を向いて。
「またお前のせいか!!」
こいつにどれだけ苦しめられるんだろうと、悔しく思った。
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「さて、では街に向かいましょう。「ルート」!」
と、マリナ様が言うと、矢印のようなものが地面に出てくる。
「おぉ、これはもしや、目的地を指しているとか?」
「その通りです。この方向に向かえば、街につきますよ。」
「マリナ様がいて本当によかったぁ。」
「いえいえ、ふふっ。あ、それと、「イミテイト」!」
その言葉で、マリナ様は、雲のようなものに包まれたかと思うと、中からは先ほどまでの白髪で長髪、青の瞳に、神らしい服装をしていたマリナ様は、おらず、代わりに白髪で短髪、黒の瞳に、白いローブの魔法使いのような服装をした女性が現れた。
「一応この世界で崇拝されている神なので、姿を変えておきます。名前もそうですね、マリアにしておきましょう。」
「姿まで変えれるんですか、マリア様。」
「アサマさん、様は抜きにしましょう。」
マリナ様、いや、マリア様が人差し指を立てて俺の口に当てる。
「あ、そうですね、えーと、マリアさん。」
「さんもいらないのですが・・・。まあいいでしょう。」
そう言ってニコッと笑うマリナ様は、めっちゃ可愛い。惚れそう。っと、それはそうと。
「そーいやマリナさ、あー、マリアさんたちはなぜここに?」
「えっと、まぁ、なんとなくさっきの会話で察してるかもなんですが、要するに厄介払いされたんです。他の神たちに。」
「それはまたなぜ。」
「フレイがやらかしたのって今回だけじゃないんですよ。」
そりゃそうでしょうね。
「で、毎回問題を起こすので、神としてあるまじき存在だ!と、排斥されまして。ついでに私は、「あいつが地上で変なことしないように見張ってて。」と、一緒に堕とされたんです。」
マリナ様がめっちゃ不遇な目にあってる。
「まぁ、もうさっき叱ったのでそれはいいとして。とりあえず、この世界で暮らして、他の神の怒りが冷めるのを待とうかと。」
「なるほど、大変ですねぇ。」
「いえ、アサマさんほどじゃないですよ。」
お互いに苦笑する。どうやら、同じ感情を分かち合える同士となれたようだ。
「む、むぅ、いたぁい・・・。」
と、そこで駄女神が起きた。
「なに、後頭部に果てし無く強い痛みを感じるんだけど、私の身に何かあったの?」
どうやらおれに殴られたことは忘れているらしい。よかった、これで警戒されることなくもう一度ぶん殴れる。
「起きましたか、フレイ。ほら起きて。街に向かいますよ。」
「んー?あんた誰よ。」
「誰って、私はマリナですよ。」
「嘘よ、私の知ってるマリナはもっとこう、胸を強調してくる服を着てるわ。そんな大人しい服を着るはずないんだから。」
空気が、凍る。あかん、あいつ多分今言っちゃいけないこと言った。
「フレイ・・・?」
「なによ!?マリナの偽物!脅かそうったってそうはいかないからね!」
駄女神もこの空気を察したのか、慌てるが、もう遅い。
「いい加減にっ、しなさぁーーい!「ファイアー」!」
「あっつぅーーい!?」
マリナ様の怒りの炎は、駄女神を直撃するのだった。
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「う、ぐすっ、熱いよぉ。」
後ろには姿を変えた駄女神が付いてきていた。赤髪、短髪はそのままに、目の色を赤から緑に変え、さらに、服を神らしいものから、
シスターのようなものにしていた。名前はフレイから、ミレイへと変えるらしい。
「ミレイ、流石に魔法を使ったのは謝りますから、泣くのをやめてください。」
「うぅ〜、ぐすん。」
ちなみに駄女神は、先ほど燃やされて、体からぷすぷすと煙が上がっている。やったぜ。喜びながら、おれはマリアさんに残りの距離を尋ねる。
「マリアさん、あとどれくらいですか?」
「そうですね、あと30分ほどで出れますよ。ですが油断はしないように。この森は、初心者の森とは言われていますが、それなりに強い魔物もいます。とは言っても、この森の特定の実の匂いに反応する魔物ですので、その近くを通らなければよほど大丈夫です。」
よかった、それなら安心だし、意外と出れるのが早い。。これなら、難なく森から出れそうだ。
「疲れたし、もうやだー。お腹すいたからこれ食べよーっと。」
後ろで駄女神がなんか言っているが、無視無視。
「ミレイ、あと少しですから、がま、ん、を。」
マリナ様が、硬直。その光景におれは非常に嫌な予感を覚える。まさか、まさかとは思うが。おれも振り返ってみると。
「・・・?なによ二人して。あ、この実が食べたいの?ダメよ?これはさっき私が拾ったんだから。」
大きな足音が聞こえる。おそらく、この実の匂いに食いついた魔物が来たのだろう。おれとマリナ様は、顔を見合わせて。
「「この駄女神!」」
思いっきり叫びました。