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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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交渉と猶予

「コーネリアさん、それってまさか……」

 リディアは顔を強張らせ、恐る恐る尋ねた。


「アンタも“証持ち”? 教会で噂になってた、脱走巫女だったりして」

 コーネリアの問いに、リディアはちらとファルシードを横目で見やる。

 彼は“問題ない”とばかりにうなずいており、リディアは口を開いた。


「その脱走巫女のリディアは私です。嫁ぐのが怖くて、逃げちゃったんです……」


「ふぅん、なるほど。疑問が全部解けたわ。つまりアンタたちの目的は、ただ逃げ延びることってわけね」


 安心したように息を吐いたコーネリアは、人気(ひとけ)がないことを確認して服を引っ張り、左の胸元を見せつけてくる。

 全体は見えなかったが、豊満な胸には赤く輝く炎の模様が、刺青のように貼りついていた。


「あの火は、この“炎の証”が作り出したもの。魔法剣なんかないの」

 左胸に手を当てたコーネリアは、手のひらを上に向ける。

 するとそこに、闇夜を照らす小さな炎が現れ、ぐっと握ると何もなかったように消えた。



「コーネリアさんも、祈りの……巫女? だから変装して、外出を?」


「まぁね。あんなわけのわからない禁忌に縛られるのはごめんだから。それと、悪いけどその通称で呼ばないで。嫌いなの、巫女って言われるの」


 いかにも不愉快そうに眉をひそめてきたため、リディアは慌てて謝罪の言葉を述べた。



 今度は、それを横目で見ていたファルシードが口を開く。

「お前さっき、ゆする気かと聞いてきたな」


「ええ」


「明後日の朝、俺らはブレイズフロル(ここ)を出る。俺らが証持ちだと死ぬまで黙ってろ」


「教会に言わずにいれば、私が禁忌を破ったことも内緒にしていてくれるかしら?」


「ああ」

 ファルシードの返答に、コーネリアはホッと息を吐きだして安心したように笑った。


「……よかった。それだけでいいのなら、願ったり叶ったりだわ」


――・――・――・――・――・――・――


 三人はフラム城に戻るため、人気(ひとけ)のない道を選んで歩いていく。


「へぇ~、結婚当日に司祭に逆らって脱走なんて、見た目に反してなかなかやるわね」

 コーネリアは面白くて仕方ないとばかりに、ケラケラ笑う。


「あの時は、必死だったから……」

 あまりにも笑われてしまうため、リディアは恥ずかしさで身体を縮こまらせた。



 コーネリアは、同類に会えたことが嬉しかったのだろうか。

 柔らかく微笑みかけてきて、口を開いた。


「他の町の巫女や神の使いに会ったことあるけど、皆、心を失くした人形みたいだった。そんなふうに教会の言いなりにならず、笑ったり楽しそうにしたりするタイプは初めて見たから、衝撃」



「そういうお前は、使命を果たさなくていいのか? とても十七以下には見えねェが」

 ファルシードが割って入ると、コーネリアはムッと口元を曲げた。


「……アンタ、良いのは顔だけのようね」


「でも、私も気になります。結婚のこともそうですけど、町を出たりとか、モンスター退治とかも、普通はやらせてもらえないですよね」


 現にリディアも、ミディ町にいた頃は行動区域が定められていたし、危険なことはことごとく禁止されていた。


 夜間の外出や飲酒を隠れて行っているところを見ると、コーネリアも巫女としての制限はあるのだろう。

 だが、文字を知ることや行動区域の制限はないのか、不思議に思っていたのだ。



「私の場合、ネラの仲間の末裔っていうのが大きいんだと思う。教会にとってネラは絶対で、間違いなんて犯さない存在だから」


「それに“教会に干渉されない組織”という決まりも関係しているかもしれねェな」

 ファルシードの推測に、コーネリアもうなずく。


「かもね。掟や決まり事が好きな奴らだし。あとはほら、表向きの私は優等生だから」


「そうかも。指導なんかしなくても、きっちり守ってくれそうに見えますもん」


「でしょ? あと、自分で言うのもあれだけど、炎を使えるぶん戦闘力は高いからね。先祖のおかげで人気もあるし、他にも証持ちは何人もいるから、教会(アイツら)にとって私の優先度は低いんだと思う」



 確かにそうだ、とリディアは頷く。

 一瞬にしてモンスターを灰へと変える炎に、確かな判断力があれば、そう簡単にやられはしない。

 近隣の見回り程度であれば、増援や治療の依頼も可能であるし、そこまで厳しく制限をする必要はないのかもしれない。



 そして、民衆がコーネリアに向けていた尊敬の眼差しは、祈りの巫女へというより、騎士に向けるものだった。


 いくら生贄が名誉なこととされているとはいえ、有能な騎士コーネリアがいなくなったら、多くの民が悲しみ、落胆するだろう。



「だから、いまは猶予期間みたいなもんかな。あと三年、二十五の歳までに副団長補佐になれれば、生贄を免除される可能性もあるの」


 コーネリアの言葉に、ファルシードはぴくりと耳を動かす。


「それは教会(ヤツら)が約束してきたのか」

 その問いに、コーネリアは視線を落としながら頷いた。


「口約束みたいなもんだから、どこまで本気かわからない。けど、私を生かすことで使い道があるとわかったら、そう簡単に殺せないでしょう?」


 不安げな表情のコーネリアは深く息を吐き出し、困ったように笑った。


「だから、私は皆が望む完璧な騎士を演じてる。何年も何年も、本当の自分を隠して、ね」

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