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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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豹変

 乱暴なノック音がし、リディアは唸りながら身体を起こす。

 すでに日は暮れて、窓の外も闇に包まれている。


 眠い目をこすりながら扉を開けると、呆れ顔のファルシードがいた。


「まだ寝てたのかよ……支度ができ次第、町に行くぞ」


――・――・――・――・――・――・――


 久々にまともな食事をとった二人は、休むことなく酒場へと向かう。


 ファルシードによると、知りたいことを探る時は酒場に行くのがいいらしい。

 あちこちから情報が集まり、酒が入っているぶん相手の口も滑りやすく、さらには誰と話したのか記憶を曖昧にさせやすいのだそうだ。



 騒がしい店内をまっすぐ進んだ二人は、様子をうかがうため、人目に付きにくい端の席に腰かけていく。


 どうやら、店の中心では酒飲み勝負が行われているようだ。

 ガタイのいいスキンヘッドの男と、化粧の濃い金髪の女が次から次へと酒を飲み干していた。


「おおう、ねぇちゃん、にゃかにゃかやる、な」

 スキンヘッドの男はすっかり出来上がっているようで、眼球までも赤く染めて、呂律(ろれつ)も回っていない状態だ。


「なっさけないわねー。こんなのまだまだでしょ」

 女のほうはずいぶんと余裕があるようで、赤み一つ見られず、不敵に笑っている。


 突如、観客がわあっと一斉に声を上げていき、それと同時にスキンヘッドの男は音を立てて机の上に突っ伏した。

「おれにょ……負け、だ……」


「やった! ここは全額アンタのおごりってことで、よろしくー!」

 女はにかっと笑って足を組み換え、つまみを片手にまた酒を飲み干した。


 深いスリットから覗く、すらりとした長い足に思わずドキリとする。

 胸元を隠し、肩や(もも)を出す服はかえって女を妖艶に見せていた。



 向かいに腰かけるファルシードを見ると、女に視線を送っており、微動だにしていない。


 ――ああいうセクシーな人が好きなのかな。前にファル、カルロさんに“素朴な女を好きになるなんて、趣味が変わったんですか?”と言われてたもんなぁ。


 わずかに胸の奥が軋み、泥のように淀んだ気持ちが沸き上がってくる。


 何故こんなにもモヤモヤするのだろう、とリディアは視線を落とした。



「あの女……どこかで……」

 ファルシードの独り言に、リディアは派手な女を凝視する。

 そして、はっと息をのんだ。 


「あの人、コーネリアさんだよ!」


「は……? 金髪赤目の女なんざ、そこら中にいるぞ」


「ううん、全然雰囲気が違うけど、絶対にそう!」

 確信を持ってリディアは告げる。


 刃のように研ぎ澄まされた雰囲気のコーネリアと、露出の激しい妖艶な美女。

 似ても似つかず、共通点は髪と瞳の色くらいしかないように見えるが、それでもリディアには二人が同一人物であるとはっきりわかった。



「そこまで言うのなら、確かめてみるか……」


 ファルシードはおもむろに立ち上がり、金髪の女へと歩み寄る。

 彼が近づくにつれ、笑いながら酒を飲んでいた女は言葉を無くして、零れ落ちそうなほどに目を見開いていた。



「楽しんでいるところ悪いが、一つ確認したいことがある。アンタ……」

 ファルシードが話しかけた途端、金髪の女は勢いよく立ちあがり、罵るように声をあげた。


「どうしてこんなところにいるのよ!」


「ん? ミーナちゃん。この色男、誰だい?」

 近くで飲んでいた男に尋ねられ、ミーナと呼ばれた女は「元彼!」と不愉快そうに返し、続けざまに言葉を放つ。


「私とヨリ戻したいの? 相っ変わらず、しつこい男!」


「おい、俺がいつアンタと……」

 面倒そうなファルシードをヨソに、ミーナは強引にファルシードを外へと押し出していく。


「ここじゃ迷惑だから外行くわよ、外! いいわね!」



――・――・――・――・――・――・――


 怒涛のような展開にリディアは茫然としていたが、ふと我に返り慌てて外に出た。

 視界に入る場所にファルシードはいない。

 きょろきょろとあたりを見渡すと路地裏の陰に人影が見え、そこに急いだ。



「あーもう、最っ悪! 今まで誰にもバレなかったのに、よりによって雇われ用心棒なんかに……」

 そう言って頭を抱えるミーナを横目に、ファルシードはうんざりしたように息を吐いてきた。


「お前の言うように、コイツはコーネリアのようだ。別人みてェだが」


「私の正体に気付いたのは、こっちか……ぼけっとした箱入り娘って感じなのに、案外こういう子のほうが鋭かったりするのよね……」

 ミーナに扮したコーネリアが、がっくりと肩を落としていく。


 褒められているのか、けなされているのか、と内心複雑ではあったが、リディアは苦笑いをするにとどめた。



「ファルって言ったっけ。アンタ、私をどうする気? ゆする気?」

 コーネリアはファルシードを睨みつけている。

 その強気な態度から、ゆすられるつもりなどないことが、容易く見てとれた。



「別に騎士が勤務時間外にどこで何してようが、問題ねェだろうが」

 ファルシードはいかにも面倒そうに言うが、コーネリアの眉はますます吊り上がっていく。


「普通の騎士ならそうよ! だけど……」

 うっと言葉に詰まる様子に、リディアは首を傾げた。

 言いづらそうにもごもごと口を動かしたコーネリアは、静かに言葉を放つ。


「どうせアンタ、気付いてんでしょ。コレ」

 不本意そうに視線をそらしたコーネリアは、トントンと自身の左胸を人差し指で叩いていたのだった。

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