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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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警戒

「彼らは、毒持ちの虎(ベノムティーグル)に襲われたロベルトを助けてくれた旅人でして。宿がないようなのでフラム城(ここ)に泊めることはできないかと……ってあれ、名前はなんだったかな」


 コーネリアは、(あご)に手をあてて首をかしげた。

 未だ名前を告げていなかったのだから、彼女が悩むのも当然だ。



「俺がファルで、彼女がリジーです」

 ファルシードは、偽名を使って答える。

 本名ではなく呼び名にしたのは、リディアがうっかり口を滑らせる可能性があるからだろう。


「そうか、ウチのがすまなかった。しかし、モンスターに会うとはついてなかったな」


 マティアスは穏やかな笑みを浮かべつつも、冷静さを含んだ視線を向けてくる。

 会話を進めながら、二人の言葉や態度を細かく観察し、見極めようとしているのだろう。



「はい……すごく怖かったです」

 リディアはモンスターの姿を思い出し、身震いしながら答えた。


毒持ちの虎(ベノムティーグル)には、実際何人もやられていてね、無事でよかったよ。それで、君たちはなぜブレイズフロルへ?」


 今度の問いにはファルシードが答える。

「アクアテーレに雇い主リジーの親戚がいまして。俺は、その道中の護衛です」


「そうかそうか。アクアテーレは素晴らしい町だよなぁ、なんてったって飯がウマイ」


「団長、そんなことより」

 たしなめるようにコーネリアは声をかけていき、マティアスはにこりと微笑んだ。


「ああ、いいよ。部屋は余っているしな。後で案内してやれ」


「承知しました」

 リディアたちは、深々とマティアスに礼をする。

 ようやく寝床を確保できたことには安堵し、ほっと息を吐いた。 



――・――・――・――・――・――・――


 簡単に城内を案内してくれたコーネリアは、角部屋の前で歩みを止める。


「ここ二つが君たちの部屋だ。お世辞にも良い部屋とは言えないが、野宿よりはマシだろう」


「ありがとうございます」

 扉を開けて中に入ると、当たり前のことのように後ろからファルシードがついてきた。


「へ?」

 まさか同じ部屋に泊まる気なのか、とリディアが不安げな表情を浮かべると、コーネリアは呆れたようにため息をついてくる。


「異常の確認かな? そんなに警戒しなくても君たちに何かをする気はないし、罠だって仕掛けていないよ」


 安心させるためにそう言ったのだろうが、ファルシードは眉を寄せ、睨みつけるような視線を向けていた。



「森での()()、どういう意味だ」


 あれとは恐らく、コーネリアが“普通の剣なのか”と尋ねてきたことについてだろう。

 どうやら、ファルシードはコーネリアのことを信用していないようだ。



「あれはそのままの意味で、興味があったから聞いただけさ。私は君たちの敵じゃないから信じてくれていい。ただし……」


 放つ言葉と共に、にこやかだったコーネリアの表情が氷のように冷たく鋭くなっていく。

 あまりの豹変ぶりにリディアは声を無くし、身をすくませた。



「この町に災厄を持ちこむ気なら、容赦はしない」


 最後に一言だけ告げてきたコーネリアは、二人の元を去っていく。

 そのままリディアとファルシードは、静まり返った部屋に取り残された。



「コーネリアさん、なんで私たちを警戒しているんだろう」


「……俺が証持ちだと、気付いているからだろうな」

 ファルシードは不愉快そうに顔を歪めていき、リディアは不安から身をすくめる。


「もしかして、このまま教会に突き出されちゃうってこと……!?」


「いや……一つ引っ掛かっていることがある」


「引っ掛かること?」


「恐らくいまのところはアイツの言うように、何もされねェだろう。ひとまず仮眠をとって夕飯後、酒場で情報収集をするぞ」


 ファルシードは答えを言うことなく、リディアを置いて部屋を出て行ってしまった。


――・――・――・――・――・――・――


 貸し与えられた部屋は、騎士の仮眠室のようだった。

 ベッドとテーブルとイスくらいしか物が無く、まさに寝るためだけの部屋といった感じだ。


 リディアはメイドに頼みこんで木桶風呂を借り、汚れを流したあとでまた、ベッドに横になっていく。

 フレームがわずかにたわみ、ギィと軋みの音があがった。


「皆は、大丈夫かな……」

 船にいる団員を心配して、小さく丸まる。

 もしも教会の船から攻撃を受けていたら、と考えてしまったリディアは、ぶんぶんと首を横に振った。


 ――絶対、大丈夫。信じるって決めたじゃないか


 ブレスレットに手をあてて、静かに目を閉じる。

 そうすると、次第に呼吸は落ち着きを見せていき、いつの間にかリディアは深い眠りへと落ちていた。

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