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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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新たな町

「見えてきたぞ、あれが我らの町だ」

 道行く先をコーネリアが指差す。


 木々の隙間に目を凝らすと、平野の奥に巨大な白い壁が見える。

 壮観な景色に、リディアはノクスから身を乗り出した。


「わぁっ、すごい大きな壁……!」


 世間知らずのリディアが面白かったのだろう。

 ロベルトは噴き出すように笑ってくる。


「ブレイズフロルは千年前からある城郭都市でね。モンスターから民を守るため、ああやって巨大な壁が町を囲っているんだ。万が一、暗黒竜(ジェリーマ)みたいなのがやってきても、対抗できるようにな」


「確かに、簡単には壊れなさそうですもんね」

 リディアはまじまじと壁を見つめながら町の姿を想像し、期待に胸を膨らませた。



 壁の前にたどり着いた一行は、ノクスを森に離して重厚な門をくぐりぬけていく。


 壁にあいたトンネルを進んでいくと、向こうから微かに鈴の音が聞こえてくる。

 トンネルを抜けると、音の出所がすぐにわかった。

 濃紺のローブを身にまとった民が列を成し、ペンダントを握り締めたり、鈴を鳴らしたりしながら、しずしずと通りを歩いていたのだ。


 大通りにはマーケットが開かれていたが、店員たちも商売をすることなく目を閉じ、幼い子どもでさえ静かに祈りを捧げている。



「もしかして今日って、一日(ついたち)でしたっけ?」

 高らかに響く鈴の音を聞きながら、リディアは小声でロベルトに尋ねた。


「ああ。儀式の最中に帰ってきてしまったようだな」

 ロベルトは濃紺の集団に視線を送りながら言う。


 一日は、ネラ神が暗黒竜(ジェリーマ)を封印した日と言われ、毎月全ての民がネラ神に祈りを捧げる日になっているのだ。



 「私たちもやらなきゃ」と、リディアはファルシードを促し、形だけの祈りを捧げていく。

 だが、騎士たちは祈る様子を見せず、馬の手綱を握って立ち尽くすばかり。


 程度の差こそあれ、ネラ教徒しか存在しないとされているこの世界。

 それなのに、フライハイト以外に祈りを捧げない者がいることを知り、リディアはぽかんと口を開けた。



「ははは、なんだその顔!」

 ロベルトはリディアを見て、声をあげて笑ってくる。


 それをコーネリアが呆れたようにたしなめた。

「ロベルト、仕方ないだろう。普通に考えれば、我らは不敬罪か相当な奇人だ」


「祈らない理由があるのか?」

 ファルシードが尋ねるとコーネリアは頷き、にこりと微笑みかけてきた。


「まぁね。炎の騎士団は独立した組織として、ネラ教会からも認められているのさ」



――・――・――・――・――・――・――


 “どのみちまだ町には入れない”とコーネリアは、炎の騎士団について様々なことを教えてくれた。

 

 騎士団を設立したのは、ネラ・アレクシアと共に竜退治に向かった者で、それはコーネリアの先祖にあたるということ。

 騎士たちは様々な町へと派遣され、モンスターの脅威から民を守っていること。


 そして、神事には一切参加しないよう千年前から定められているものの、実際は騎士全員がネラ教の信者であるということも。


 結局はどこに行こうと、世界はネラの信者で溢れているということだ。



「ところで……今日の宿は決まっているのかい?」

 コーネリアは、儀式が終わったのを確認して声をかけてくる。


「決まってないですけど、どうしてです?」


「ここは、女神ネラと共に竜退治をした者が眠る町。儀式の日ともなれば、近くの町からも人が来る。宿の空きはないと思うんだが」


「――ッ!」

 リディアとファルシードは同時に言葉を失った。

 町にいながら野宿をする羽目になるなど、想像だにしていなかったものだから、仕方のないことだろう。



 愕然としている二人を見つめてきたコーネリアは、くすくすと笑った。


「やっぱりね。団長に相談してみるよ。うちのロベルトも迷惑をかけてしまったしな」

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