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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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襲撃

 それから二人は野宿を重ねながら、炎の騎士団の本拠地でもあるブレイズフロルの町へと向かった。


 食べ物も底をつきてきていたが、野性動物を狩ったり、自生している果物やキノコを食べたりと、どうにか食いつなぐことができていた。


 モンスターに遭遇することもなく、順調ともいえる旅だ。

 とはいえ、野性味溢れる生活を続けていると、疲労は蓄積するもので。

 弱音が喉元(のどもと)までわき上がってくるが、リディアはそれを必死に飲み込んだ。



「ねぇ、ファル。ブレイズフロルまで、どのくらい……?」

 リディアは(ひたい)から垂れる汗をぬぐい、邪魔な草をかき分けながら歩くファルシードに尋ねた。


「早ければ今日の昼過ぎ、遅くて夜だろうな。ノクスの体力が持ち直し次第、乗っていくぞ」

 主人の言葉にノクスは同意を示すように、キュルキュルと明るく鳴く。


 だが、重い荷物を運ぶノクスの体力も限界に近づいているように見える。

 あまり彼に頼るわけにはいかない、とリディアは足を奮い立たせた。



 会話も減って無言のまま歩く一行だが、突如としてファルシードとノクスが足を止めた。


 つられて立ち止まると、ファルシードは一歩前に出てリディアをかばうように立ち、ノクスもその瞳を水色から鋭い金色へと変化させた。


「な、何……?」


「恐らく、この先にモンスターがいる。正体はわからねェが、雑魚ではないだろうな……」

 眉を寄せるファルシードに、リディアはごくりとつばを飲み込む。


「しかも、その奥からも微かだが声が聞こえた。厄介事じゃないといいが……」


 ファルシードは胸元からナイフを取り出し、リディアに“ノクスから荷物を下ろせ”と指示を出してくる。

 リディアは慌ててそれに従った。

 ペットのようになついているとはいえ、ノクスもモンスターだ。

 立派な戦力であり、荷物を載せたままでは戦いづらいということなのだろう。



 呼吸の音や木々のざわめく音が、やけに大きく聞こえる気がするとリディアは思う。

 何の気配も感じ取れないリディアだが、一人と一匹の間に漂う張り詰めた空気から、危険な状況だと嫌でもうかがい知ることができた。



 あたりに茂る腰ほどの高さの草が、風の形に沿って波のように揺れていく。 

 突如、前触れもなく唸り声が響き渡り、それと同時に草むらから、黄色の塊が踊り跳ねるように飛びかかってきた。


「クソっ、毒持ちの虎(ベノムティーグル)か!」

 ファルシードは、ナイフを投擲(とうてき)するが、動きの速い虎の頬をかすめるだけで終わる。

 駆けだしたノクスが噛みつこうとすると、虎は身体をしなやかにくねらせて(くちばし)を避け、また距離を取り、草むらへと隠れた。



 どうやら動きの速い虎と、投げナイフとの相性は悪そうだ。

 リディアは“何か武器になるものは”と先ほどノクスから外した荷物に視線を送っていく。


 ランタンに干し肉、着替えに水、地図に縄……戦闘に使えそうなものはない。


 何もできない自分を歯がゆく思いながら、リディアはファルシードのほうへと視線をうつす。

 そして、そのまま(こぼ)れそうなほどに目を見開いた。


 先ほどまでナイフを握っていた手には、見覚えのない漆黒の剣が握られていたのだ。

 その剣は、サーベルより長さは短いものの、どこかに隠し持てるようなサイズでは到底ない。


「ノクス、牙には注意しろ。毒がある」

 ファルシードは淡々とノクスへ注意を促し、ノクスは承知したとばかりに鳴く。



 剣が突然出現するという奇術めいた状況だが、ファルシードやノクスは当たり前のことのように陣形を組み、虎を警戒していた。


 ――ねぇファル、その黒い剣って一体何なの……?


 ファルシードに対する困惑と、鋭い牙を剥いてくるモンスターへの恐怖とで、リディアは立ちすくむことしかできなかった。

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