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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第一章 はじまりは夕闇とともに
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団長の宝

「あの……教会に連れて行かないんですか? 気づいてますよね、私が……」


 ――祈りの巫女だってこと。


 その言葉は、どうしても口に出せなかった。

 話したことで、男の気が変わってしまうのではないかと怖くなったのだ。


 だが、男は心底どうでもいいとばかりに深いため息をついた。


「詳しい事情はウチのジィサン……団長に会ってから聞くこった。お前を宝と呼んで、部下たちに町中を探させている」


 彼の言葉にリディアは(いぶか)しげに眉を寄せていく。

 リディアには、何かの団長をしている知り合いなどいない。

 さらには『祈りの巫女』ではなく、『宝』と呼ばれたことなど、全く記憶になかったのだ。


 わけもわからず首をかしげていると、黒髪の男はリディアの混乱を察したのだろう。

 まっすぐに瞳を見つめてきて、再び口を開いた。


「ライリー・バレット。それがお前を探している男の名だ。お前ら知り合いなんだろう」


「知り合いどころか……名前も知らないです」


「……あのクソジジィ、話と違うじゃねェか」



 そもそもリディアには、親しい男など一人もいない。

 必死に思い出そうとするリディアの様子に、黒髪の男はうんざりしたように息を吐いた。



「これなら聞いたことはあるか? フライハイトの団長ライリー」


 飛び出て来た聞き馴染みのある単語にリディアは言葉を無くし、目を見開いた。

 フライハイトとは、町の噂話で時折出てくる幻の盗賊団のことだ。


 千人以上の団員で構成され、荒くれ者たちを束ねる団長は、二メートルを越すという大男。

 金のガレオン船で海を渡ると言われているにも関わらず、どういう仕掛けか、その姿を見た者は数えるほどしかいなかった。

 さらには、決まった拠点を持たずに神出鬼没なため、ネラ教会もその実態をつかめずにいるという、謎めいた組織として名を()せていた。


「まさか、あの……」

 独り言のような呟きに、黒髪の男は不敵に笑う。


「盗賊に目をつけられるなんざ、お前もツイてないな」


 黒髪の男の言葉に、リディアはうつむいて、不安と安堵(あんど)が混じった複雑な表情を浮かべた。



 ――ついてない、のかな。むしろ……


 思わずそう考えてしまったリディアは、自分の至らなさにぎゅっと唇を噛み締めた。



――・――・――・――・――・――


 遠くから、草葉のすれる音が聞こえてくる。

 リディアはびくりと身体を震わせて、恐る恐る視線を向けた。

 教会の者が自分を追って来たのかもしれないと思ったのだ。


 しかし幸いなことに、その予想は大きく外れており、木の陰からあらわれたのは、昨日酒場でリディアに鼻息荒く迫ってきた小柄で茶髪の男、バドだった。


「もーキャプテンてば、俺だけ置いていくなんてひどいっス!」

 ぜぃぜぃと肩で息をする様子からすると、全力で走って来たのだろう。



 それなのに黒髪の男はバドを(ねぎら)う様子もなく、腰布を(ひるがえ)してリディアの元へと近づいてくる。


「いずれヤツらもやってくる。行くぞ」

 

「痛っ!」

 突然手首を掴まれ、痛みと驚きとで声をあげた。

 そのおかげか少しは力も緩んだが、彼は手を離そうとしないまま、リディアを引きずるように歩きだした。


「おいバド、急ぎ帰船する。ジィサンの宝は探さなくていい」


「探さなくていいってどういう……って、あれ? 崖から落ちた子ってまさか昨日の、祈りの巫女!?」


 『祈りの巫女』という言葉にリディアは怯え、思わず右手に力を込める。

 すると、黒髪の男の力がわずかに強まり、リディアを睨みつけてきた。


「言っておくが、俺もバドもフライハイトの団員だ。俺ら盗賊は海、陸問わず、欲しいもの全てを手に入れる。逃げられるだなんて思うなよ」


 黒髪の男の言葉は、リディアを落胆させるのに十分な威力を持っていた。


 この男も、法外な組織に所属するならず者。

 彼らの目的が見えない以上、このあとひどい目に遭わされる可能性だってゼロではない。

 


 大して状況は好転していない。

 冷静になったリディアはようやく、自分の置かれている状況を理解した。


 結局、自由からは程遠い――

 そんなことを考えながら、重い足取りのまま盗賊たちに連れられていくのだった。

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