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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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二人旅

 羽ばたきながらノクスは宙を駆け、白い霧の中へ飛び込んでいく。

 振り返るとすでにフライハイトの船は小さくなり、霞みがかっていた。


「ノクス、荷物も多いし重いでしょ。ごめんね」

 ふかふかの羽毛を撫でると、ノクスは明るくキュウと鳴く。


 海霧は姿を隠してくれるが、行く先もまた見えない。


 増殖する不安と戦いながら視線を落とすと、ノクスの手綱を握る男の腕が左右に見える。

 背中から感じるぬくもりに、リディアの鼓動は大きく跳ねて、顔も赤く染まりあがった。


 先ほどあんなことがあった直後なのだから、密着に動揺するのも無理はない。


 照れくささから、さりげなく距離をとろうと身体を前かがみにするが、すぐに引き戻された。


「強い海風も吹くからじっとしてろ。落ちてェのか」


「う、あ、ええと、ごめん……」

 何事も無かったかのように接してくるファルシードに安心しつつ、心のどこかでそれを寂しいと思ってしまう自分に、リディアは困惑し続けていた。



――・――・――・――・――・――・――


 徐々に霧が薄くなり、陸地も見え始めた。

 白い砂浜の向こうには、深緑の木々が茂っている。

 幸いなことに、人の姿や気配はない。


「歩くぞ」

 陸地に降り立ち、ノクスに水を飲ませ終えた途端、ファルシードが言う。


「休まないの?」

 リディアが尋ねると、彼は首を横に振った。


「ノクスを休ませるために、俺らが歩く。コイツの耳はいいし、指笛で場所もわかるしな。それに……」

 ファルシードが羽毛を撫でると、ノクスは嬉しそうに目を細めてキュルルと鳴いた。


「それに?」


「空が怪しい。一雨来る」

 ファルシードにつられてリディアも顔を上げると、青空の端に黒い雲の塊が見えた。



 二人はノクスを残して森に入り、川沿いの道を行く。

 昼にも関わらず辺りは暗くなり、空をどんよりとした雲が包みこみはじめた。

 川沿いは危険と判断し、二人は雨風をしのげそうな洞窟へと向かい、ノクスを呼んだ。


 二人と一匹は洞窟内に入り込み、地面に座り込む。

 

 すぐにぽつぽつと大粒の雨が降り出し、あたりにはしっとりとした雨のにおいが漂いはじめた。

 強まっていく雨はやがて豪雨となり、あっという間に水溜りを作っていく。



「いつ止むのかな……?」

 うるさいほどの雨音を聞きながら、リディアは膝を抱えて呟いた。


「突然降る大粒の雨は、大概通り雨だ。すぐに上がる」


「そっか、よかった……」

 リディアは寂しげな表情を浮かべて、ノクスに抱きつく。

 ノクスは不思議そうに、目をくりくりさせながらリディアのことを見つめている。



「私ね、雨が嫌いなんだ」

 羽毛に顔をうずめながら言うと、ファルシードは土砂降りの雨を見つめながら口を開いた。


「嫌な過去を思い出すから、か」


「うん……って、なんでわかるの!?」

 飛び上がるようにノクスから身体を剥がしたリディアは、ファルシードに視線を送る。

 


「見てきたから」

 当然のように言ってくるが、リディアにはその意味がわからない。

 雨に嫌な思い出があるのは、まだ八歳の頃の話だ。

 見てくるなんてことは、あり得ない。


「見てきた……?」

 眉を寄せて、言葉を反芻(はんすう)するリディアに、ファルシードは横目で視線を向けてくる。


「お前も覚えがあるだろう?」


「――ッ! まさか」

 ハッと息を飲み、目を見開く。

 確かに、他人の過去を見てきたかのように(のぞ)くことはできる。


 リディアも、()()はすでに経験済みだった。

 


「ホントに厄介事しか連れて来ねェな、(コイツ)は」

 ファルシードは自嘲(じちょう)気味に笑い、左胸のシャツを強く握っていた。

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