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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第四章 リヒトの島の冒険
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突然の行動

「なぁリディアよ。すまなかった……」

 荒っぽく目元をぬぐったライリーは、呟くように言う。


「何がです?」


「裁きの証を渡せるということを……黙っていた。どうしても言いたくなかったんだ」

 ライリーは申し訳なさそうな表情を見せてきて、リディアは困ったように微笑みかけた。


「仕方ないですよ。悪用しようとする人も出るかもしれないですし……」



 裁きの証がどのような力を持っているのかはわからない。

 それでも、レオンが放った魔法は常軌を逸していた。


 船底から()い上がって増大した闇は、吸い込むように命を奪い、亡骸(なきがら)さえも瞬時に消した。

 あんな力は、凶悪以外の何物でもない。


 リディアは身震いをしてうずくまり、ライリーは隣で浴びるように酒を飲み干した。


「ったく……教会は、(アレ)をどうするつもりなのかねェ」

 ファルシードに視線を送ったライリーは、行き場のない想いを吐き出すように、深く長いため息をついていた。



 それから二人は、しばらくとりとめのない話をして別れた。


 未だ宴会は続いているようだが、惰性のように酒を飲み続けているようにも見える。


 親しい団員も見当たらず、結局リディアは部屋へと戻ることにした。



 扉をノックしてファルシードの部屋を覗き込むが、中は暗く、人がいる気配はない。

 恐らく彼はまだ、見張り台にいるのだろう。


 誰も寄せ付けず、心の内を見せないファルシード。

 命のリミットも迫っており、辛くないはずはない。


 それなのに自ら孤独を選ぶ彼の姿は、意固地になっているようにも見えた。


 音もなく、闇に包まれた部屋を見て、リディアの目に涙が浮かぶ。

 彼がいなくなったら、この部屋はいつもこうなるのだろうか。


 そんな考えたくもないことを考えてしまい、胸の痛みは治まるどころかかえって強くなっていた。 



――・――・――・――・――・――・――


 その日の朝は一面濃霧に包まれていた。

 辛うじて船の全貌は見えるが、その先は海面すら見えない。


 航海は危険というレヴィの判断から、昼頃まで停泊することが告げられた。


 朝食の風景はいつもと変わらず騒がしいが、リディアの表情はどこか硬い。

 向かいのファルシードと目が合うが、彼はすぐに視線をそらしてきた。


 その態度にまた、胸が(きし)む。

 リディアにはファルシードの考えは少しも読めず、船と同様、濃霧の中にいるようだった。



「なんか、入りづらいなぁ……」

 朝食の片づけを終えたリディアは、ファルシードの部屋の前で呟いた。

 避けられて傷つくのが怖い一方で、このまま距離が開いてしまうのもまた、耐えがたい。

 そんな複雑な思いに振り回されていたのだ。


 不安げな表情のままゆっくり扉を開けていくと、ソファの上で本を読むファルシードと視線が重なる。


 途端、身体は強張り、びくりと震えた。

 向けられた瞳があまりにも鋭く、怒りに似た感情が浮かんでいるように見えたのだ。



 ぱたんと音を立てて本を閉じたファルシードは、人差し指でくいと“来い”の仕草を見せてくる。

 普段と違う、張りつめた雰囲気に違和感を抱きながら恐る恐る近づくと、彼は立ち上がって口を開いた。



「ジィサンから聞いたのか」


 その言葉にリディアの心臓は大きく跳ねて、体も(こご)えた。

 彼を怒らせる原因は、一つしか思い当たらない。


 “深入りするな”“互いに面倒事が増えるだけ”

 その言葉を無視して、彼の過去を詮索(せんさく)していたことだ。



「聞いた、って何、を……?」

 震える声で返すと、ファルシードは鼻で笑ってくる。


「しらばっくれるんじゃねェよ」


 もう逃げられない。

 そう悟ったリディアは、勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい!」


「深入りするな、と俺は伝えたはずだが」



 部屋の中はあまりにも静かで、漂う空気もピリピリと痛い。


 嫌われてしまっただろうか、と顔を上げられずにいると、リディアのあごに冷たく硬いものが当てられる。

 それはファルシードの指であり、それに気づいたときには、リディアはぐいと上を向かせられて無理やり視線を合わさせられてしまった。



「部屋をやり、身の安全を確保してやって。文字も教えてやったのに。その上、過去まで暴かれるなんざ……割りに合わねぇなァ?」


 全身から怒りを放つ彼をはじめて“怖い”とリディアは思った。

 何を考えているのかわからない紫の瞳は海の底のようで、凍えるほど冷えきっているように見える。



「本当にごめんなさい! 許して……お願い……」

 震える声で懇願(こんがん)すると、乱暴に肩を掴まれ、身体のバランスが崩れていく。

 わけもわからず目をつぶったリディアだったが、まぶたを開くと同時に状況を理解した。



 目の前にはファルシードの顔があり、その向こうには木目の天井が見える。

 背中は、ふかふかとしていて痛みもない。

 ちらと視線を送って足側を見ていくと、ファルシードに(また)がられていた。



「いくら鈍くせェお前でも、さすがにわかるだろう?」

 妖しげに口の端を上げるファルシードが、これまでとは別人のように見える。

 ソファに無理矢理押し倒されたリディアは、顔面を蒼白にさせた。

 指先は震えて瞳も潤んでいるが、それでもリディアは逃げる素振りを見せようとはしない。



 それを肯定と受け取ったのだろうか。

 ファルシードはリディアの胸元にあるリボンをほどき、慣れた手つきで一つ、また一つとシャツのボタンを外していく。

 リディアは不安から顔を背けて、強く目をつむった。


「……今日は逃げねェんだな」

 ボタンを全て外したところで、彼は手を止めリディアに問いかけてくる。


 恐る恐るまぶたを開けると、彼の目は虚ろで、どこか焦点が合っていないようにも見えた。



 心ここにあらずといった彼の様子に、リディアは困惑する。

 冷静さを取り戻したことで震えも止まり、じっと紫の瞳を覗きこんだ。



 無言のまま見下ろしてくるファルシードと視線が重なり、リディアは深く息を吸い込み、口を開いた。


「もしも貴方が本当にそうしたいと思うのなら、すればいいよ」

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