レオンのこと
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リディアとファルシードのほのぼのスピンオフ『私に世界は救えません~小さくなったキャプテン~』
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「あ、ええと、それは……」
リディアは、もごもごと口ごもる。
「まさか、小僧が話したのか……?」
ライリーは目を見開いていたが、リディアは首を横に振った。
「じつは……」
それからリディアはゆっくりと時間をかけて、全てを伝えた。
証が共鳴して、過去に飛ばされたこと。
ネラ教会によって、リジム島が消されたこと。
そして、レオンという男のことも。
「そうか。証の力は、人智を超えるんだな」
話を聞き終えたライリーは、乾いた笑いを浮かべていた。
どうやら、証の力に圧倒されてしまったようだ。
「私も証をただの印だと思っていたんですけど、いろいろと秘密がありそうですね」
リディアはそっと、左胸に触れて呟く。
カルロは『千年前は全ての家系に、証があった』と話し『証を宿せば、魔法を使えていたようだ』と言っていた。
千年前に『何か』があったことは明白であり、ネラ教会はその『何か』を隠そうとしている。
それは恐らく、リディアの風の証やファルシードが持つ裁きの証に関係しているのだろう。
「証の秘密、それを知るのは相当に厳しいだろうなァ。敵が……デカ過ぎる」
諦めたような表情でライリーは笑うが、酒瓶を握る手には血管と筋とが浮き出ており、彼の無念さを訴えかけてきた。
寿命を奪う裁きの証をファルシードへ渡してしまったライリーもまた、証について知りたいと願う者の一人なのだ。
あたりはしんと静まり返り、宴会をしている団員たちの笑い声が遠くから聞こえてくる。
打つ手がない苦しみに、二人は言葉を見つけられないままだ。
漂う空気はあまりにも重く、押し潰されてしまいそうだとリディアは思った。
「やっぱりレオンさんは、すごい人ですね」
“急にどうしたのか”というような視線を向けて来るライリーに、リディアは困ったように微笑む。
「レオンさんは辛い宿命を背負っていたって嘆かないし、いつも明るくて優しくて。私は、レオンさんみたいに強くなれません」
どうすれば彼のように強くなれるのかと話すと、ライリーは視線を落とし、首を横に降った。
「……いや。アイツはいつも運命に苦しみ、嘆きと憎しみの感情に包まれながら生きていた」
「え?」
「妻から証を受け継いで以来ずっとだ。アイツはネラ教会を恨み、裏を暴くことにひどく執着していて……狂っているように見えることもあった」
「狂って……?」
とてもそうは見えなかったと、リディアは小さく息を飲む。
「だが、小僧を拾ったあたりから変わったんだ。アイツはよく笑うようになった」
「きっと、大事なものを思い出したんだろう」と、優しく目を細めたライリーの横顔は、かつてレオンがよくしていた表情に似ていた。
「なァ、リディア。アイツは……苦しまずに逝けたか?」
ライリーは微かに震える声で聞いてくる。
恐らく彼はあの日、レオンを見捨てた形になってしまったことを、いまも悔いているのだろう。
「レオンさん、最期の瞬間にこう言っていました。“ありがとう。いい人生だった”って。そして、幸せそうに笑ってたんです」
リディアは零れ落ちそうなほどの星空を眺めて微笑む。
「そうか……そうか……」
リディアの隣でライリーは手で目元を覆い、大粒の涙を止めどなく溢していたのだった。
第六回ネット小説大賞の一次選考通過しました!
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