ペリドットとアメジスト
カルロの言う“石探し”。
それは“自分の瞳の色のリヒトクォーツを見つけてくる”というもので。
探してどうするのか疑問に思うが、三人から強引に促され、石探しを始めることとなってしまった。
薄明かりの下、水底に沈む宝石を眺めながら歩き回る。
ふと顔を上げると、バドが石を拾い上げ、満足げに微笑んでいる姿が目に入った。
濃い緑の石はそこかしこにあるにも関わらず、焦れば焦るほどに目的の色は見つからない。
ここにはないのかもしれないと諦めかけたその時、足元の石にリディアは思わず笑みを浮かべた。
「わぁ……これ、そっくりだ」
宝石がきらめく水底へと手を伸ばす。
とぷんと指先が浸り、ひんやりと心地よい冷たさを感じる。
拾い上げて光にかざすと、透き通った石は輝きを増し、鮮やかにきらめき出した。
薄明かりの下で光る石は美しく、ぼんやりと惚けてしまう。
時間を忘れて眺めていると、なぜか石は三つに分裂し、その二つが宙へと浮いたように見えた。
この石と同じ、紫の瞳を持つ人が目の前に現れたのだ。
「その石……」
リディアが持つアメジストに似た石を見て、ファルシードがぽつりとこぼしてくる。
「あ、ええと、これは……」
──どうしよう。“気持ちの悪い女だ”って、思われたかも……
言い訳を探そうとあたふたする間、ファルシードは無言のまま。
荒れる心を持て余してしまったリディアは、彼の手に押しつけるようにして、石を渡した。
「ファルも見つかってなさそうだったから、ちょうどいいかなと思ったの! 私も自分の探さなきゃ!」
早口で言って、足早に逃げ出す。
「おい、待て」
声をかけられ振り返るとファルシードはかがんでおり、水の中に手を浸していた。
取り出されたのは小振りの石。
ペリドットの色をしたリヒトクォーツだった。
「お前も見つけてなさそうだから、ちょうどいいだろ」
ファルシードはリディアの手を掴んで持ち上げてきて、それを手渡してくる。
「これ……」
リディアは手のひらに載せられた、とろんとした丸みのある石をじっと見つめていく。
それは、鏡で見る自身の瞳の色に、驚くほどよく似ていた。
「ありがとう!」
手のひらの小さな石が特別なものに思えたリディアは、満面の笑みを浮かべてファルシードを見上げ、礼を言う。
「足元にあるのに気づかないなんざ、ニブすぎる」
ファルシードはリディアのことを見もせずに、踵を返しリヒトの樹へと向かっていく。
一瞬だけ見えた横顔からは、なぜか悲しみに似た感情を感じた。
放たれた言葉は、普段と同じつっけんどんなもの。
ぶっきらぼうな態度も、以前からさして変わってはいない。
──それなのに。
「どうしてなんだろう……」
そっとリディアは呟く。
──何で近づけば近づくほど、距離が遠のいていくような気がしちゃうのかな……
少しずつ小さくなる背中を見て心は締め付けられるように痛み、ため息をつかずにはいられなかった。
――・――・――・――・――・――
全員リヒトクォーツを発見し、それらは全てカルロへと預けられた。
結局ここに来た用事は石探しだけだったようで、五人はとりとめのない会話をしながら来た道を戻り、日が沈む前に船へと帰還した。
ファルシードはライリーに報告をしに行く、と団長室へと向かい、カルロとバド、ケヴィンの三人は用事があるから、とそわそわした様子で足早に去っていく。
甲板に残されたのはリディアとノクスだけになった。
「ねぇ、ノクス。三人ともそわそわしちゃって変なんだ。集めた石をどうするつもりなんだろうね」
リディアはすり寄ってくるノクスを撫でながら、文句をこぼしていく。
撫でられるのが心地いいのか、ノクスは目を細めて嬉しそうにしている。
そんな彼を見てリディアは微笑み、また視線を落とした。
「それに、ファルも変なの……仲良くなれた気がしたのに、また遠くなっていく。私、ファルのこと、よくわかんないよ……」
リディアはノクスをぎゅうと抱きしめて、一人ごちる。
ノクスはリディアを慰めるように頬を寄せてきて、何度も擦り付けてきた。
相談したところで何の解決にもなりはしなかったが、ノクスの柔かな温かさに、リディアの心はわずかばかり癒されたのだった。