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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第四章 リヒトの島の冒険
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ペリドットとアメジスト

 カルロの言う“石探し”。

 それは“自分の瞳の色のリヒトクォーツを見つけてくる”というもので。


 探してどうするのか疑問に思うが、三人から強引に促され、石探しを始めることとなってしまった。



 薄明かりの下、水底に沈む宝石を眺めながら歩き回る。

 ふと顔を上げると、バドが石を拾い上げ、満足げに微笑んでいる姿が目に入った。


 濃い緑の石はそこかしこにあるにも関わらず、焦れば焦るほどに目的の色は見つからない。

 ここにはないのかもしれないと諦めかけたその時、足元の石にリディアは思わず笑みを浮かべた。



「わぁ……これ、そっくりだ」

 宝石がきらめく水底へと手を伸ばす。

 とぷんと指先が浸り、ひんやりと心地よい冷たさを感じる。


 拾い上げて光にかざすと、透き通った石は輝きを増し、鮮やかにきらめき出した。



 薄明かりの下で光る石は美しく、ぼんやりと(ほう)けてしまう。

 時間を忘れて眺めていると、なぜか石は三つに分裂し、その二つが宙へと浮いたように見えた。

 この石と同じ、紫の瞳を持つ人が目の前に現れたのだ。


「その石……」

 リディアが持つアメジストに似た石を見て、ファルシードがぽつりとこぼしてくる。


「あ、ええと、これは……」


 ──どうしよう。“気持ちの悪い女だ”って、思われたかも……


 言い訳を探そうとあたふたする間、ファルシードは無言のまま。

 荒れる心を持て余してしまったリディアは、彼の手に押しつけるようにして、石を渡した。

 

「ファルも見つかってなさそうだったから、ちょうどいいかなと思ったの! 私も自分の探さなきゃ!」

 早口で言って、足早に逃げ出す。


「おい、待て」

 声をかけられ振り返るとファルシードはかがんでおり、水の中に手を浸していた。

 取り出されたのは小振りの石。

 ペリドットの色をしたリヒトクォーツだった。


「お前も見つけてなさそうだから、ちょうどいいだろ」

 ファルシードはリディアの手を掴んで持ち上げてきて、それを手渡してくる。


「これ……」

 リディアは手のひらに載せられた、とろんとした丸みのある石をじっと見つめていく。

 それは、鏡で見る自身の瞳の色に、驚くほどよく似ていた。



「ありがとう!」

 手のひらの小さな石が特別なものに思えたリディアは、満面の笑みを浮かべてファルシードを見上げ、礼を言う。


「足元にあるのに気づかないなんざ、ニブすぎる」

 ファルシードはリディアのことを見もせずに、(きびす)を返しリヒトの樹へと向かっていく。

 一瞬だけ見えた横顔からは、なぜか悲しみに似た感情を感じた。


 放たれた言葉は、普段と同じつっけんどんなもの。

 ぶっきらぼうな態度も、以前からさして変わってはいない。


 ──それなのに。


「どうしてなんだろう……」

 そっとリディアは呟く。


 ──何で近づけば近づくほど、距離が遠のいていくような気がしちゃうのかな……


 少しずつ小さくなる背中を見て心は締め付けられるように痛み、ため息をつかずにはいられなかった。



――・――・――・――・――・――


 全員リヒトクォーツを発見し、それらは全てカルロへと預けられた。

 結局ここに来た用事は石探しだけだったようで、五人はとりとめのない会話をしながら来た道を戻り、日が沈む前に船へと帰還した。


 ファルシードはライリーに報告をしに行く、と団長室へと向かい、カルロとバド、ケヴィンの三人は用事があるから、とそわそわした様子で足早に去っていく。

 甲板に残されたのはリディアとノクスだけになった。



「ねぇ、ノクス。三人ともそわそわしちゃって変なんだ。集めた石をどうするつもりなんだろうね」

 リディアはすり寄ってくるノクスを撫でながら、文句をこぼしていく。

 撫でられるのが心地いいのか、ノクスは目を細めて嬉しそうにしている。

 そんな彼を見てリディアは微笑み、また視線を落とした。


「それに、ファルも変なの……仲良くなれた気がしたのに、また遠くなっていく。私、ファルのこと、よくわかんないよ……」

 リディアはノクスをぎゅうと抱きしめて、一人ごちる。


 ノクスはリディアを慰めるように頬を寄せてきて、何度も擦り付けてきた。

 相談したところで何の解決にもなりはしなかったが、ノクスの柔かな温かさに、リディアの心はわずかばかり癒されたのだった。

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