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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第四章 リヒトの島の冒険
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歴史の欠片

「千年前の、話……?」

 確かめるようにリディアは呟き、辺りを見渡す。

 すると(みな)、リディアと同様目を見開いて足を止め、カルロに視線を送っていた。


 四人がこうなってしまうのは、当然のことなのかもしれない。

 歴史の探求は禁忌とされている上、過去に繋がる情報もネラ教会の手によって、ことごとく抹消されている。

 実在するかもわからない“ネラの(しるべ)”を解読する他、歴史を知る(すべ)などないからだ。



 カルロはゆったりと微笑み、立ち尽くす四人を置いて歩み始めた。


「学者だった僕の父は、ネラの標の数ページを隠し持っていましてね。日夜解読を進めていました」


「ネラの標!?」

 リディアは思わず大声をあげていく。

 声は幾度も岩肌に反響し、吸い込まれるようにして消えた。


 「どうやら面白い話ができているようで安心しました」と、振り返ってきたカルロはくすくす笑い、再び口を開いた。


あれ(・・)は決して、空想上の書物ではありません。続きは歩きながらにしましょう。道は長いですから」


――・――・――・――・――


 揺らめくランタンの灯りを頼りに、五人は暗い洞窟を行く。


 カルロは過去を懐かしむように、ぽつぽつとネラの標について語ってきた。


 古ぼけた紙に古代言語が連なっていたことや、わずか数ページを読み解くのに、数十年の年月を要したこと。

 さらには、読み解けた部分だけでも、一般に知られていない過去が書かれていたことも。



「“民が知らない過去”というのは、ネラ教会にとって不都合な話、ということだろうか?」

 淡々とケヴィンが尋ねる。


「うーん、どうなんでしょう。隠すようなことでもないと、僕は思うんですけどねぇ」


 その返答に、ファルシードが食ってかかる。

「んなわけねェだろう。奴らはあの本と歴史を揉み消したがっている」


 なるほどその通り、とばかりにカルロはうつむいて考え込む仕草を見せた。


「読み解けた部分だけでは、核心に迫ることができていなかったのかもしれません。モンスターがどこからやって来たか、というお話でしたので」


「やって、来る……?」

 リディアは首をかしげて問う。



「リディアさんが疑問に思うのもわかります。現在、モンスターは生殖行動で種を存続させていますから。ですが、かつてはそうではなかった」


「へへっ、昔は“ヨソからやって来てた”とでも言うんスか? ありえねー」

 バドは小馬鹿にするように笑うが、カルロの表情は変わらないどころか、真剣そのものだった。


「悔しいですが、今回ばかりはバドの仮説が正しいです」


「は……? どういうことっスか!」


「千年以上前、この世界はモンスターという恐怖で包まれた、恐ろしいところだった、ということです」



 そこからカルロが話したことは“異界に通じる歪みが世界中にあった”ということだった。


 昼夜問わず歪みから出没するモンスターに当時の人々は怯え、生きるか死ぬかの生活を送っていたらしいのだ。



 現世が()()ではなくて良かった、とリディアは安堵の息を吐くが、バドは説明に納得がいかなかったのか、眉を寄せていた。


「歪み……ねぇ。ホントにそんなのあったんスかねぇ。あちこち回ってるけど、そんなの一度も見たことねぇけど。なぁケヴィン?」


「ああ」


「ほらな!」

 したり顔のバドに笑われたカルロは視線を落とし、考え込むかのように手を口元に寄せた。


「……理由(ワケ)があるって顔だな」

 ファルシードが問うと、カルロは「ちょっとややこしい話になるもので」と、困ったように笑った。



「えぇと、僕らが見たことがないのは当然なんです。千年前に、ある男が“歪み”を封じたんですよ。“魔封じの証”という、突然変異の証をもって生まれた男がね」


「突然変異? そんなことってあるんですか!?」

 リディアは胡乱(うろん)な目で尋ねるが、カルロは“さぁ?”と言わんばかりに肩をすくめてきた。


「残念ながら、書かれていたのは“突然変異”とだけ。魔封じの証を持つ彼は世界中を旅し、命を削りながら全ての歪みを消し去ったのだそうです。ちなみにネラの標によると、彼は暗黒竜(ジェリーマ)を封じた娘、ネラ・アレクシアの父なのだ、と」


「そっか……ネラ神のお父さんのおかげでモンスターが減って、世界は平和になったってことですね」


 証についての情報が得られなかったことを残念に思いつつ、リディアは明るく微笑む。

 だが、カルロは反対に、困ったような顔をしていた。


「確かに平和は取り戻せましたが……それも長くは続かなかったようですね」


「また歪みができたんスか?」

 バドの問いにカルロは苦々しく笑い、首を横に振る。


「いいえ。もっとタチが悪いです」


「……なるほど」

 ファルシードは、うんざりとした様子で深く息を吐いていき、再び口を開く。


「今度は人同士。そういうことだろう」


 その問いに、カルロは険しい顔でうなずいた。


「ええ。人の欲望は、満足することを知りません。今度は人同士で証を武器にした激しい戦争が始まりました。互いに互いの富を奪おうとしたんです」

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