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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第四章 リヒトの島の冒険
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無人島と結界石

 荒波を乗り越えた船は穏やかな沖へと進み、(いかり)を下ろす。

 団員たちは昼食に白身魚(ブラッドギル)の塩焼きを堪能したあと組分けされ、それぞれ目的地を割り当てられた。


 一番の印がついたボートに乗るメンバーは、リディア、ファルシード、バド、カルロ、ケヴィンの五人。

 彼らはオールを漕ぎつづけ、太陽が頭上に昇る頃ようやく上陸を果たした。



 白砂には足跡一つなく、そこらにあるのも色が抜けた流木や、貝殻の欠片、正体のわからない巨大な骨、くたびれたヒトデくらいだ。

 奥に見える森は鬱蒼としており、バリケードのごとく人の侵入を阻んでいる。


 ──無人島、かぁ。


 生活の気配は全く感じられず、耳を澄ませてみても規則的な波音と、吹き付ける風音しか聞こえない。

 あまりにも静かで、耳が詰まったかのような錯覚に陥ってしまう。



「行くぞ」

 ファルシードが森へと足を踏み出し、リディアも慌てて後を追いかける。

 歩くたびに砂が(きし)み、足元がおぼつかないリディアは何度も転びそうになっていた。



――・――・――・――・――・――


 砂浜を抜けた五人は列をなして、深い森を進んでいく。

 男たちは道なき道をまっすぐ歩いているが、無人島への上陸が初めてのリディアはせわしなく視線を動かし、落ち着く様子がない。


 銀色の花や、六枚の羽を持つ蝶、(あみ)のようなツタが絡まった木に、歌うように鳴く小鳥……

 そのどれもがリディアにとっては真新しく、面白く見えた。


 天を仰ぐと、枝葉の隙間からきらきらとした光が射し込んできている。

 人の手が入らない森は神秘的で、畏怖の念を(いだ)かせた。



「この森、ちょっと怖いね。モンスターも隠れていそうだし……」

 ぶるりとリディアが震えると、バドは吹きだすように笑ってきた。 


「ここには絶対に出てこないっス。さぁて、なんででしょーか?」


「絶対!? うーんと、そうだなぁ。渦潮があるから入ってこれない、とか?」

 正解だという自信はあったが、バドは両腕を前でクロスさせて、にかっと笑った。


「残念っ不正解。正解はリヒトクォーツがあるから!」


「リヒトクォーツ?」


「それがよう、すげーんだぜ! なんせこの先のどう……()ってー!」

 叫ぶような声と共に、バドは勢いよく身体を折りたたませ、頭を抱えていく。

 リディアが顔を覗き込むと、彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。



「バド、一旦黙りましょうか」

 痛みに悶絶するバドの側にいたのは、カルロだ。

 バドを見つめるオレンジ色の瞳は冷ややかで“うんざりだ”という言葉が当てはまるような顔をしていた。


「何すんだよ! 急に殴るとかありえねーから!」

 バドはカルロを()め上げたが、カルロは人差し指をバドの眉間(みけん)に突き付けていく。


「サプライズ、って言葉を知らないんですか? だから、バドはモテないんですよ」


「うぐっ!」

 鋭い指摘に、バドは何一つとして言葉が出てこないようだ。



「あの、それでリヒトクォーツって……?」

 リディアは、小競り合いをする二人を穏やかに眺めていたケヴィンに尋ねる。


「リヒトは“ネラの貴石”とも呼ばれる石だ。お前も見たことがあるんじゃないか? 町や村の端には必ず置いてあるはずだ」


 ケヴィンは、肩にかけた大きな袋を担ぎ直しながら答えてくる。

 町の端にある石……と、故郷を思い返したリディアは、灯台の隣に巨大な水晶があったことを思い出した。


「もしかして“結界石”のことですか?」


「ああ。そう呼ぶ者もいたな」



 結界石(リヒトクォーツ)

 それは、モンスターを追い払う力を持つ、水晶に似た石のことだ。


 全ての町や村は結界石による結界で囲われ、モンスターが入ってこられないようになっている。

 結界によって、モンスターが町の存在を認識できなくなっているのか、はたまた忌避する何かがそこにあるのか、理由は解明されていない。


 また、武器に石の欠片や粉を仕込む者も多いようで、現にバドの銃弾やカルロのサーベル、ケヴィンのナックルダスターの中にも、その粉が含まれているようだった。

 対モンスターの武器としての殺傷能力が、天と地ほどに違うのだそうだ。



「あれ? 結界石って確か、相当高価じゃなかったっけ。貴族しか持っているの見たことないよ」


「高値で売れるからこそ、取りに来たんだろうが」

 ファルシードは、ツタが絡まり行き止まりになっている場所で足を止め、ナイフを取り出す。

 ツタが切り裂かれると、地中に潜るような穴がぽっかりと開いているのが目に入った。


――・――・――・――・――・――・――


 ケヴィンが袋からランタンを取り出して火を灯し、五人は身を(かが)めて、穴に吸い込まれるように潜りこんでいく。

 だが、狭かったのは入口だけだったようで、中に入ると横並びで歩けるほど広さがあった。


「ここに、リヒトが……」

 リディアは呟くように言うが、こんなところに高価な宝石があるとは信じられずにいた。

 洞窟の岩肌は鉛に似た色をしており、灯りで照らされる先には微かな輝きすら見えないからだ。


「リヒトは最奥にある。来い」

 先を行くファルシードは、犬を呼ぶように(あご)をくいと動かして呼んでくる。

 いつもならばムッとしているところだが、リヒトに興味が移っていたリディアはうなずき、小走りで彼を追いかけた。



 闇に包まれる洞窟を、とりとめのない話をしながら進む五人だったが、ふと会話が途切れ静まり返る。

 聞こえてくるのは足音と、落ちた雫が跳ねる水音だけ。


 やがて、声の代わりに深く息を吸う音が響いた。


「せっかくの機会ですし、面白い話でもしましょうか」

 柔らかく穏やかな、カルロの声がする。

 面白い話という提案にバドは眉を寄せ、口を曲げた。


「カルロの“面白い話”は大抵が怖い話で、面白かった試しがないんスけど」


「ああ。あれはですね、正確には“バドが怖がる”から“僕が面白い”話になるんですよ」


「てめーなぁ!」

 くすくすと笑うカルロに対し、バドは抗議の大声を上げている。

 だが、面倒そうなファルシードのため息に、バドは「また叱られちゃったじゃんよ!」と、不満げに口をとがらせた。



「それで、今回も心霊話なのか」

 ケヴィンがバドをなだめながら、カルロに尋ねていく。


 お化けの話だったらやめてほしい、と、リディアは身体を強張らせたが、カルロは笑みを崩さず、一人ひとりの顔を見つめてくる。

 そして、(おもて)を真剣なものへと変えて、口を開いた。


「いいえ。千年前についての話……父が命を懸けて紐解いた歴史の欠片についてのお話です」

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