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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第三章 裁きと呪い
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フライハイトの団員たち

「そうそう。あとこれは完全に余談ですが、盗賊以外の罪を背負っているのは、団員たちも同じだったりします」


「え……?」

 予想外な言葉にリディアは目を見開いて言葉を無くしてしまい、カルロは、悲しげに微笑みかけてきた。



「バドはああ見えて、大貴族エヴァンズ家の長男です。後継ぎにさせられるため、朝から晩まで閉じ込められてネラ教の教えを叩きこまれ、傀儡(くぐつ)のように扱われていました。夢や意思を語ることさえ、許されなかったらしいです」


 静かに語られた言葉に、リディアの心は締め付けられるように痛んだ。

 脳裏にふと、バドの声がよぎる。


 ――下らねーモンに縛られねぇで、俺だけの夢を探していこうって、あの時そう決めたのに……


 裏切り者のビルを狙撃したバドは、苦しげな顔でそう話していた。



「だから、バド君“自分の夢を探したい”って……」

 呟くようにリディアが言うと、カルロは困ったような顔で微笑んでくる。


「ええ。バドは親の言いなりにはなれず、心も未来も捨てられなかった」


 リディアは無言のままうなずいて、きつく目を閉じる。

 バドの過去が自分に重なり、一層強く胸が痛んだのだ。



 リディアもバドと同じように、心を完全に滅することなどできず、望まれた役割を貫けなかった。

 思うままに生きたいと渇望(かつぼう)したところで、(じぶん)を殺さなければ、存在を認めてはもらえない。

 そんな環境に置かれてしまった苦しみを、リディアはよく知っていたのだ。 



「バドは消されそうな“心”を守るために、父親に銃を向けて脅し、家から脱走したんだそうです。だからバドは、自分を救った“銃”という武器に固執するのかもしれません」


「そんなことが……」

 リディアは、呟くように言う。


 船の上でバドは、いつも人懐っこくしていて、明るく無邪気に笑っている。

 だが、太陽のような笑顔の裏に苦しみが隠されていただなんて、リディアはこれまで思ってもみなかった。



 波の音が二人の間を通り抜けていき、カルロはまた静かに息を吸い込んだ。


「そして、ケヴィンは孤児でした。彼の母は元々教師で、崖から転落して亡くなったのだそうです。“本を読みたがる祈りの巫女に、物語の読み聞かせをしてやりたい”と、母親が教会に相談した二日後に、ね」


「転落……それって事故、なんですか……?」


「さぁ? 本当のところはわかりません。禁忌を破ろうとした者の息子であるケヴィンは、町人から忌み嫌われ、肩身狭く生きていたようです。そんな彼は、バドと団長にスカウトされ、仲間に入りました」


「ケヴィンさんは何もしてないし、ケヴィンさんのお母さんだって、したのは提案だけだったんですよね? それなのに、忌み嫌うだなんて……そんなのひどいです」

 リディアは、カルロを睨みつけるようにして言う。


 カルロに(いか)るのはお(かど)違いだと分かっていても、あふれ出る怒りのぶつけ先がわからなかったのだ。



 カルロは、そんなリディアに苦々しく微笑みかけてきた。


「それほど、ネラ教の教えは根が深いんですよ。あとは……レヴィも、教会の海図に嘘があることを見抜いて不信感を募らせ、フライハイトに入団しています。口には出しませんが皆、様々な想いを抱えているんです」


「ファル、は……?」

 リディアは恐る恐る、本題について切り出していく。


 本人に聞いたところで、ファルシードは自分のことについて一切語ろうとしない。

 ニナリア町を出てから何日もたっているのに、彼の持つ証についても、未だ何一つわからないままだ。


 カルロなら何か知っているかもしれないと期待を寄せるが、彼は首を横に振ってきた。


「残念ながら、僕の口からは言えません。団長から“誰にも話すな”と、口止めされているんです」


「そんな……」

 肩を落として、リディアはうつむく。

 カルロも、申し訳ないとばかりに視線を落とした。



「こればかりはすみません。キャプテンについては、誰もが知る話ではないですし、簡単に言えるものではないんです」


「わかりました、無理を言ってしまってすみません……」


 勝手に期待して、勝手にがっかりしてるだけだ。困らせてはいけない、とリディアはほんの少しの寂しさを混ぜながら、精一杯笑った。



「結局、お役には立てなかったかもしれませんね」


「そんなことないです! お話できて良かったです! ありがとうございました」

 慌ててリディアが言葉を返すと、カルロは柔らかく微笑んできた。


「それならよかったです。あと、リディアさん。一つお願いがあるんですけど」


「はい、何ですか?」

 カルロが頼みごとなど珍しい、と、不思議に思う。

 食事係についてのことだろうかと考えるリディアに、カルロは人差し指を向けてくる。


 指し示されたのは、リディアの肩にかけられたブランケットだった。


「今晩は少し冷えますし、見張りのバドにそれを渡してくれませんか。あと一時間見張りするのはきついでしょうから」

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