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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第三章 裁きと呪い
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詰問する娘

「話は終わりだ。とっとと帰れ」


「……知られたくないのなら、どうして見せてきたの?」

 追い払うような動作をしてくるファルシードに リディアは呟くように言う。



「ああでもしなきゃ、お前は言いなりになっていただろうが。とにかく、このことはもう忘れろ」


「無理だよ! だって、証を持つ人なんて、おかあさん以外に会ったことないもん。それに、ファルが“神の使い”ってことは……」


 ――奥さんがいるってことなの?

 そう言いかけて、慌てて口をつぐんだ。



 証を持つ者は皆、ネラ教会が決めた許嫁(いいなずけ)がいるはずで、ファルシードの年齢からすると、子どもがいてもおかしくはない。

 三つほど年上のファルシードは、すでに“神の使い”の義務で、結婚している可能性が高いのだ。



 妻や子どもの存在について考えた途端、リディアの胸は締め付けられるように痛み、頭の中も白く染まった。

 そうなるのは、芽生え始めた恋心ゆえなのだが、恋愛初心者のリディアは、それさえよくわからないまま。

 真実を聞くことを恐れ、ただただ立ち尽くしていた。



「神の使いなら、ネラ教会に管理されているはずだとでも言いたいのか? ジィサンとカルロしかコレ・・を知らねェのに、自分から教会に素性を明かすバカがどこにいる」


「え!? じゃあ、お嫁さんと子どもは……」


「あーもういちいちうるせェな。嫁やガキなんざいるわけねぇだろうが。これ貸してやるからとっとと寝ろ。一晩寝て明日になりゃ、気にするのもバカらしくなる」


 立ち上がったファルシードは本棚から適当に本を取り出し、押し付けるようにリディアに渡してきた。


「これ、何?」

 穴があきそうなほどに本を見つめていくと、ファルシードはまた、どっかとソファに腰かけた。


「バルバリの航海日誌。じろじろと本棚見て、読みたそうにしていただろうが」


 確かに本は気になっていたが、いまは証のほうがよっぽど気になる。

 そう言いたくて仕方がないリディアだったが、聞き出したい思いを必死に押さえつけた。



 本を使ってはぐらかされているのは、リディアもわかっている。

 だが、ここでしつこく聞いたところで、関係が悪化するだけで意味がないというのもまた、わかっていたのだ。


「ふーん、面白そうだね」

 気ののらない返事をするリディアに、ファルシードはまた面倒そうな顔をして、ため息をついてきた。



「ほんとに仕方のねェヤツだな……もし、他のも読みたきゃ貸してやったっていい」

 そう言って、ファルシードはちょいちょいと手を動かし、リディアを呼んでくる。

 本を小わきに抱えたリディアは、ソファへと足を進めた。


 リディアがファルシードの前に立つと、彼は顔を上げて口を開く。

「だが、本はタダじゃない」


「いくら私でも知ってるよ。お金を払えばいいんでしょう?」


「いや。金はいらない」

 その言葉とともにファルシードはリディアに向かって手を伸ばしてくる。


「うわっ」


 突然左腕に触れられて、ぐんと引き寄せられる。

 温かい手に動揺したリディアは、目を見開いたまま固まってしまっていた。

 現状の理解がなかなか追いつかないが、二つのことだけは、はっきりとわかった。

 無理やり前かがみにされていることと、目の前にファルシードの顔があるということ、だ。



 そして、混乱するリディアのことなど知ったことじゃない、とばかりに、至近距離にある端正な顔が、不敵に笑った。


「本一冊につき、キス一回でどうだ。悪い話じゃないだろう?」


 異様に近い距離と聞き馴染みのない単語に、リディアの顔は瞬時に赤く染まり上がる。

 動揺のあまり、慌てて手を振りほどき、跳ねるように距離をとった。


「――ッ! わわわっ」

 後ろに下がった途端、机に足を取られて転び、ぺたんとラグの上に尻もちをついてしまう。

 混乱が収まることのないリディアは、ぱくぱくと口を動かした。


「き、きききききキス!? え、何で! どうしてそうなるの!」


「……相変わらず、色気がねェ」


「これまではずっと、わざと色気が出ないようにしてたんだから、いいの!」

 頭を抱えて呆れたような顔をするファルシードに、リディアはむっとして反論する。


「ふぅん、そう言われると無理にでも出させてやりたくなるな。おい、こっち来いよ」


 にやりと妖しげな笑みを浮かべるファルシードに、リディアはぷいとそっぽを向き、口元を曲げた。


「そうやって、からかってくる人の所には行きません!」


 結局こうやってファルシードにはぐらかされてしまったことを少し寂しく思ったリディアは、うつむいて小さく息を吐いたのだった。

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