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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第三章 裁きと呪い
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船の掟

 ドタドタと駆ける音に振り返ると、巨大なかたまりが飛びついてきて、リディアは全身を強張らせた。


「うわわっ!」


「キュウウン!」

 高らかに鳴き声をあげた()()は、グリフォンのノクスだ。


 リディアは押し倒されて何度も(ほお)ずりをされ、ノクスの尻尾は自己主張激しく、天を突くように立っている。



「心配してくれてたんだってね、ありがとう」

 下から()い出て柔らかい羽毛を抱きしめると、ノクスは嬉しそうに目を細めた。



「さぁて、次はお前さんの後悔話でも聞こうかね」

 今度は背後からライリーの声が聞こえ、リディアは慌てて立ちあがり、姿勢を正す。


 ライリーには怒りや悲しみの色は見られず、“あきれる”という言葉が最も当てはまるような表情をしていた。



「ごめんなさい! 勝手に船を出たりなんかして……」

 深く頭を下げたリディアに、小さなため息が降り注いでくる。


「騙されたんだ、気にするな……と言いたいところだが、これに関してはおれもお前さんも悪い。世の中いいやつばっかりじゃねぇし、同じ船の仲間とはいえ、信じる相手を見極めなきゃなァ」


「身をもって感じました……私がここにいるってバレて、皆が危険な目に遭うかもしれない。どうしよう……」

 泣き出しそうなリディアを見つめてきたライリーは、参ったな、と言わんばかりの表情を浮かべ、ガシガシと頭をかいた。



「責任は、アイツを信じたいと思って泳がせていたおれにある。小僧やカルロからは“危険だ”と言われていたんだがな」

 悲しげな瞳をするライリーに、過ぎし日の会話を思い返す。


 “俺は、信じてやりてェんだよ”という団長の声と“人は弱いぞ”というファルシードの会話は、このことを指していたのだろう。


 団長の願いは届かず、ビルは甘い誘惑に負け仲間を裏切る道を選び取ってしまったのだ。


 

「リディア、頼むから“次の町で船を降りる”なんて、おれにも小僧(ファルシード)にも言うなよ」

 ライリーの言葉に、リディアは首をかしげる。


 “降りろ”と言われるならまだしも、“降りるな”と言われるとは思っていなかったのだ。


 ライリーは岩のようにごつごつした手をリディアの頭の上に乗せてきて、優しく笑う。


「お前さんは仲間だ。誰かのミスは仲間がカバーする。これもフライハイトの掟。あいつらの言うように、美味いメシ作ってやりゃ、それでいいさ」


 温かい言葉とぬくもりに、リディアの胸はいっぱいになっていった。


「団長、ありがとうございます。ですけど……そんな掟、ありましたっけ」

 乗船した日のことを思い返しながら、尋ねる。


 決して仲間を裏切るな。非常時も諦めることなく、最善を尽くすよう努力しろ。働かざるもの食うべからず。

 掟はこの三つだけだとファルシードから言われていたが、他にも自分の知らない決まりがあるのかもしれないと思ったのだ。



 尋ねられたライリーは、ふっと柔らかく笑う。

「これだけ長く共同生活してりゃあ、自然と身体に染み付くもんさ」


「それなら、私もそうやって恩返ししていかなきゃですね」


「ああ、そうさな。それにしても……あの小僧がお前さんにあんなにも入れ込むとはなァ」

 ライリーは船尾方向を見つめて、ぽつりと呟く。


「え?」


「重なるのかねェ。過去の自分に」


「どういうことですか? もしかして……」

 証と関係あるのか聞こうとした途端、ライリーは誤魔化すように笑った。


「いや、何でもねぇさ。小僧にも礼言っておけよ。お前さんが思う以上に、アイツはお前さんのことをよく見ているし、気にかけているからよォ」


 リディアの肩を叩いてきたライリーはいつものように豪快に笑い、団長室の方へと戻っていく。

 ライリーの心づかいに、リディアは感謝の思いが止まらず、また頭を下げた。


「団長、本当にありがとうございます」

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