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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
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おかえり

 五人の盗賊は夜道を進み、ようやく港へたどり着いた。

 深夜に出港しようとする酔狂な者はいないようで、あたりはしんと静まり返り、波の音だけが響いている。


 やがて、ぽうっと灯りに照らされている場所が目に入り、男たちの声が聞こえてきた。

 盗賊団フライハイトの船だ。



「おうおう、お前ら無事か!?」

 五人が駆け足で船へと向かうと、頭上から低い声が聞こえてくる。


 顔を上げると、船尾甲板から団長のライリーが覗き込んできていた。

 いつものように豪快に笑い、もっさりとしたひげから白い歯をのぞかせている。


「ああ。だが、とっとと出港したほうがよさそうだ」

 ファルシードは忌々しげに町の方を見つめていき、隣にいるバドは真剣な面持ちでライリーを見上げた。


「ビルのことも片付けてきたんで、問題なしっス」


 ライリーは、どこか浮かない顔をしている二人へ交互に視線を送り、父親のような目で優しく笑う。 

「よし、上出来だ。まぁとにかく乗れ、準備が整い次第、出港すっぞ」


「アイ・サー」

 五人は同時に声をあげ、団長の命令に従って乗船した。



 船に乗ったリディアは四人を置いて、すぐさまライリーのもとへと駆けていく。

 言いつけを破って下船したことを謝ろうと思ったのだが、ライリーは忙しいようで「お望み通り、あとで説教してやるから待ってろ」と、苦笑いされた。


 帆を張ったり、縄を操ったりしていた団員たちは、リディアの姿が見えた途端、作業の手を止めていく。

 全員の視線が注がれているのを感じとったリディアは、後悔と申し訳なさから縮こまった。


 ――どんな怒りの言葉が飛んできても、船を降りろと言われても、仕方ない。私のせいで、皆の危険が増してしまったんだから。


 リディアはうつむき、覚悟を決めていく。


 だが、いつまでたっても怒声が飛んでくることはなく、不思議に思ったリディアは顔を上げ、驚いた。

 団員たちの瞳には怒りの感情はみられず、安堵(あんど)したような顔をしていたのだ。



 向こう見ずな行動を悔いたのと同時に、胸がいっぱいになった。

 仲間たちが“リディア・ハーシェル”を心配してくれていたことが嬉しかったのだ。



「ご心配とご迷惑をおかけして、本当にごめんなさいっ!」

 全員に聞こえるよう大声を出して、腰を直角に折り曲げて謝る。

 声は風にさらわれ、しんとした静寂があたりを包み、波音だけが響いた。


 そうだよね。ごめんで済む問題じゃないよね、とリディアは、強く目をつむった。



「お帰り! また、うまいメシ作ってくれりゃ、それでいいさ!」

 明るい声が頭上から降り注いでくる。


 顔を上げていくと、縄ばしごに足をかけている青年が、にししと笑っていた。


 「(ちげ)ぇねェ」と他の団員たちも声をあげて笑い、またそれぞれの作業へと戻っていく。


 予想外の展開に、リディアは目を丸くしてその場に立ち尽くした。


 ――お帰り、なんて言われたの、何年ぶりだろう。

 人は嬉しくても涙が出るのか、と、リディアは目に浮かんだ雫をそっとぬぐった。

 


「あの、リディアさん、ご無事でしたか?」

 突如後ろから声をかけられ、振り返る。


 そこにいたのは、金髪青目の華奢(きゃしゃ)な少年で、いかにも“おぼっちゃん”という風体をしていた。


「レヴィさん、よかった……!」

 リディアは大事なさそうなレヴィを見て脱力し、ほっと息を吐いた。


 裏切り者のビルが、レヴィを人質の名として出していたこともあり、気がかりに思っていたのだ。



 リディアの言葉に、レヴィは困ったように笑った。

「すみません。僕が誘拐されたことになっていたらしいですね。倉庫に閉じ込められるなんて、情けないです……。リディアさんは怪我したりしてませんか?」


「私は大丈夫、皆が助けに来てくれたから」

 リディアが微笑むと、レヴィは口元に手を当ててくすくすと笑った。


「よかった……。ふふっ、それにしてもキャプテンは、リディアさんのことを本当に大切に思っているんですね」


「え?」


「あの方と団長は司令官のようなお立場ですから、有事の際はすぐに船へと戻ってくることが多いんです。でも今回キャプ……」


「レヴィ、良いご身分じゃねぇか。無駄口叩く暇があんのかよ」

 すれ違いざまにファルシードが、レヴィを横目で睨み付けて言う。


「ひっ、すみません!」

 背すじを勢いよく伸ばしたレヴィは、海図やコンパスといった航海道具を抱え、船尾甲板の方へ、そそくさと去っていく。

 それを追うようにファルシードも団長のいる方へ、足を進めていった。



 ――ファルが、私を心配してくれてた……?


 そんなはずはないと思いながらも、リディアの心はそわそわとして落ち着かない。

 ライリーと話すファルシードの横顔をぼんやりと眺めたリディアは、(ほう)けるように息を吐いた。


 はじめて感じる、動揺と喜びが入り交じったような複雑な感情に、リディアの困惑は止まることはなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめから再読させていただいております。 改稿されたのですね、以前の流れと少し変わり、序盤の引きがより強くなっていると感じました。 1,2章の怒涛の流れ、囚われの境遇と海で味わう自由の間…
[良い点] 第二章拝読しました! リディアちゃん、よくぞ言い切りました! とても気持ちの良いタイトル回収でした。 そしてなんとびっくり、ファルさんも何やら訳ありなようで、二人の出会いは運命的だったの…
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