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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
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黒い刃

「私は……間違っていたのかもしれません」

 リディアは視線を落とし、力なく言った。


「誰しも間違いはあります。ですが、間違いなど正せばいい。貴女様も世界のため、命を捧げてくださるんですね?」

 洗脳にも似た状況下にあるリディアに、エドガー司祭は柔らかく微笑みかけてくる。


 リディアは血色の悪い唇を震わせながら開いていくが、どこからか物音が聞こえてきて、動きを止めた。



「前半は同意するが、後半はいただけねェな」


 呆れたような声が聞こえてきて、エドガー司祭は慌てた様子で振り返る。

 リディアも顔を上げていき、信じられない光景に唖然とした。

 扉の前にはファルシードが立っており、不敵に笑っていたのだ。



「テメェがいるってことは、黒幕はカーティスか」

 エドガー司祭に視線を送ったファルシードは、面倒そうに息を吐く。


「お前はもしや……」


「ここにカルロがいなくて命拾いしたなァ。アイツの獲物じゃ()るわけにもいかねェし」

 ファルシードは(あざけ)るように笑う。


 どうやら二人は顔見知りなのだろう。

 だが、親密からはほど程遠い関係のようだ。


 背を向けられているため、司祭がいまどんな顔をしているのかリディアにはわからない。

 だが、両手が(もも)の横で微かに震えているところを見ると、司祭にとってファルシードは嫌な相手であることは確かだった。



 やがてファルシードは、声を失っている司祭をけしかけるように言葉を放った。


「なぁ、ついでにカーティスに伝えておけよ。高みの見物が出来るのも、いまのうちだけだ、と」


「貴様……大神皇(だいしんのう)に敬称をつけぬどころか愚弄するなど、無礼であるぞ!」


「俺にとって、敬称をつけてしかるべき存在は、ジィサンとレオンくらいだ」


「小僧が生意気な口をききおって!」

 怒りに震え、叫ぶように言葉を放ったエドガー司祭を、ファルシードは鼻先で笑う。


 続いて、自分のほうに視線を送られたリディアは、身体を強張らせ、思わず後ずさりをした。



「おい。逃げようなんざ、いい度胸してんじゃねぇか」


「やだっ……来ないで。私はもう使命から逃げたくない」

 リディアは顔を背けて、ファルシードを拒絶した。


 やっとついた決心を揺らがされ、また夢や希望を見せられることが、何よりも怖かったのだ。



「お前の都合なんざ知らねェよ」

 ファルシードは、青い顔をして震えるリディアに一歩ずつ近づいてくる。


「貴様、巫女に何をするつもりなのだ!?」


 ファルシードは、慌てた様子のエドガー司祭を苛ついたような瞳で睨みつけた。



「そりゃこっちのセリフだろうが。狂った女がようやくマトモになってきたってのに」


「まともだと? ハーシェルを悪魔に変えたのは、貴様か……!」


「これは、話が通じそうにねェな」

 ファルシードは息を吐き、胸元から小型のナイフを取りだした。

 不思議なことに、()どころか、刃までもが闇のように黒い。


 そんなものを取り出して、どうするつもりなのか。

 それを考える間もなく、ファルシードは鋭い目で司祭を見据え、流れるように速く手を動かした。



「ぐぅあああッ!」

 鈍い音と共に(うめ)き声が響く。

 やがて司祭は崩れるように倒れこみ、身体を縮こまらせた。


 彼の左大腿にはナイフが刺さっており、痛みのあまりのたうちまわっている。

 磨かれた白い床には、深紅の血だまりがじわじわと広がっていき、血の(にお)いが微かに漂いはじめた。

 


「……うるせェなァ。アイツと同じ目に遭ってるってだけじゃねぇか。こんなのは見世物なんだろ? せいぜい楽しめよ」

 くつくつとファルシードは笑い、二本目のナイフを取り出していく。

 ヒッ、と小さく唸る司祭を見下ろすファルシードの瞳が恐ろしく、リディアは思わず身震いした。


「ファル、こんなのやめてよ! 私は司祭様の元に残るって言ってるじゃない!!」



 絶望と希望、諦めと執着……相反するような感情の渦に巻き込まれているリディアを、ファルシードはまっすぐに見つめてくる。

 弱さを見透かされた気持ちになったリディアは、小さく震えて慌てて視線をそらした。


「やっと覚悟を決めたのに。全部を諦めようと思えたのに。どうして放っておいてくれないの……」

※大神皇という言葉も造語です。理由は前話と同様です。

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