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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
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不思議な変化

 リディアとファルシードの二人は港に降り立ち、ニナリア町の大通りへと足を進めた。

 港自体はミディ町と大差なかったが、町の雰囲気は大きく異なり、活気に満ちていた。


 石畳で舗装された大通りには、レンガ造りの家や店が立ち並び、ところどころに花壇が置かれている。

 花壇には知っている花だけではなく、リディアが一度も見たことのない花も咲いていた。



「わぁ、大きい町だね!」


「……きょろきょろすんな、さらに浮く」

 ファルシードの言葉通り、男物の服を着るリディアは町から浮いており、まるで田舎者。


 たしなめられたリディアだったが、見たこともない景色に興奮せずにはいられない。


 色とりどりの帽子が所狭しと置かれている帽子屋や、うずたかく本が積まれた本屋、甘い香りが漂うケーキ屋など、心躍らせる店が並んでいるし、仕方のないことだろう。



「……あそこか」

 あたりを見渡したファルシードは服屋を見つけ出したようだ。

 リディアは彼に続いて、店へと入っていった。


「うわぁ、服がいっぱいだぁ!」

 店内は広く品数も豊富で、リディアは次から次へと目移りをしてしまう。



「俺はここにいる。終わったら声をかけろ」

 ファルシードは、店の端にある椅子にどっかと腰かけた。

 恐らく誘拐防止のために待機してくれているのだろう。


「わかった。なるべくはやく選んで買ってくるね!」


「ああ。……いや、待て。買う前に一度見せに来い」


 見せろと言われる理由はわからなかったが、あのファルシードの言うことだ。

 意味のないことではないのだろう、とリディアは言われた通りにすることにした。



 やかて、リディアは悩み抜いて選んだ服を抱えるように持ち、ファルシードの元へと戻って来た。


「おまたせ! これを買おうと思ってるの」


 選んだ服を見せると、彼の眉は中心に寄っていき、だんだんと表情が不満げなものへと変わっていく。


「やっぱり派手すぎ……?」

 恐る恐る尋ねるリディアを、ファルシードは呆れたような目で見てきた。


「地味でダセェ」


「そうかな、結構派手だよ。このスカート、ブーツが見えるくらいだから短いでしょ? こっちの茶色のシャツなんか、(そで)刺繍(ししゅう)が入ってるんだよ」


 リディアの言葉にファルシードは大きくため息をついて立ち上がる。


「とりあえず、お前はそこに座ってろ。俺が選んだほうがまだマシだ」


 呆れられ困惑しているうちに、持っていた服全てを奪い取られてしまった。



 彼は店内をぐるりと一周まわり、目ぼしいものを見つけたのか、いくつか服を手に取っていく。


 どんな服を選んでいるのかわからないリディアは、おろおろとうろたえながらファルシードの様子を見つめていた。


 ファルのことだから、娼婦しょうふたちが着るような襟ぐりの広い服を選んだり、ボディラインがくっきりとわかるようなスカートを選んでくるかもしれない――

 

 リディアが露出度の高い服をじいっと見つめていると、横から声が聞こえてくる。


「へぇ……」

 ハッと我に返ったリディアが隣を見ると、何時の間にやらファルシードがにやりと笑いながら立っていた。



「違うの! 着たいわけじゃないよ!」


「あっそ。とりあえず、そこの倉庫を借りれることになったから着替えて来い。いまのままじゃ悪目立ちする。店員にはもう話してあるし、服も向こうにある」

 ファルシードがあごで示した先には、店員らしき女性が、にこにことした顔で立っていた。



「えぇと、ありがとう」

 礼を言いながらも、心は穏やかではいられない。

 あの店員はもしや、恥ずかしい服を見て笑っているのではないだろうか――と、そんなことまで考え始める。


 重い足取りで倉庫へと入り、畳まれた洋服を手に取ったリディアは、今まで着たことのない形の服へと袖を通していった。


 ――大丈夫かな、変じゃないかな……

 倉庫を出たリディアは、わずかに身体を強張らせをながらファルシードのもとへと向かう。


「ごめんね、お待たせ」


 そう話すリディアの出で立ちはもう、ダサいとは到底言われぬものになっていた。

 さらっとした白い長袖のシャツに、こげ茶色のベスト、そして黄色の飾り布がついた黄緑色のスカート、細身だが歩きやすそうなブーツ。

 動きやすそうで、どこかひまわりを思わせるデザインの服は、リディアにしっくりとはまっていた。



 ファルシードはリディアの姿を見つめてしばし言葉を失っていたが、ふぅん、と満足げに笑った。


「変じゃ、ない……? こういうの着たことないからわからなくて」


 あわあわとした様子で尋ねると、ファルシードは買った服の袋をとって立ち上がる。

 どこか柔らかい瞳をした彼は、リディアの頭の上に手のひらを乗せてきた後、わずかに微笑んできて。

 一言だけつぶやくように言い、そのまま店を出ていった。



 その場に立ち尽くしたリディアは顔を赤く染めて微かに震え、ファルシードの後ろ姿を見つめていた。


「な、なに、いまの……」



 良く似合ってる


 たった一言そう言われただけ。

 ほんの少し頭に触れられただけだ。


 それなのに、どうしてこんなにも胸が高鳴って、顔が熱くなるのだろう。私の身体、一体どうしちゃったの――



 十八歳にして、恋という感情をまだ知らないリディアは、自分の身体に起きた不思議な変化に驚き、困惑し続けていたのだった。

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