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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
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新しい町

「ねぇ、ファル」


「放っておけ。アイツもそのうち飽きる」

 リディアはファルシードを追いかけるが、彼は一度も振り返ってくることなく部屋の扉を閉めていく。


 その姿が『何も聞くな』と言っているように見えたリディアは口をつぐみ、すっきりしない心を抱えたまま、船内をひたすらうろついていったのだった。



 それから数時間がたち、外の様子が騒がしいように思ったリディアは急ぎ甲板へと向かった。


「何かあったんですか?」

 ケヴィンを見上げて尋ねると、彼は太い腕をゆったりと動かしていき、船首方向を指差していった。


「停泊予定の、マリナル大陸が見えたんだ」


 確かに目を凝らすと、水平線の上にぼこぼことした影が見える。



「すぐそこなのに、入港は明日の朝みたいっス。安全のために夕方の入港はしたくないって、団長から言われちった」

 呑気(のんき)な声に顔を向けていくと、にししと笑うバドがいた。


「安全のため?」

 リディアが首をかしげると、途端にバドは視線を泳がせる。


「うーん、ええと……リディアってさ、祈りの巫女だろ? 闇に乗じて(さら)われる可能性があるから、って団長が警戒しててよ。それで、うん、まぁ、そういうわけ」


 ばつが悪そうなバドの言葉に、リディアの胸はつきりと痛んだ。

 “祈りの巫女”という事実は、どこまでも付きまとってくる。

 どんなに普通になりたいと願ったところで、課せられた使命は決してそれを許してはくれないのだ。



 暗い表情でうつむくリディアを、バドは隣で心配そうに見つめてきていて。

 それに気づいたリディアは、努めて明るくふるまった。


「そうやって心配してくれてるなら、私も拐われないように気を付けなきゃね」


 リディアの笑顔にほっとしたようなバドは、歯を見せて笑う。


「そりゃそうさ! ま、誘拐されたところで盗み返すけど。なんせ俺ら盗賊だし」


「そっか、そういえばそうだったね……」

 リディアは苦笑いをこぼした。

 何かを盗む場面を見たことがないからか、フライハイトが盗賊団だったことをすっかり忘れていたのだ。


 さらには団長のライリーは元々腕利きの交易商だったらしく、倉庫には薬や香辛料、珍しい紅茶や織物などが、所狭しと置いてあって。

 主に交易で得た金で生計を立てていることもあり、ここが盗賊団であること失念してしまうのも無理はなかった。



「ま、よほどの金欠じゃない限り盗みはやらねーしな。あ、そうだ! 明日さ、町で新しい服買っちゃえよ。団長から小遣いもらったろ?」


 楽しげに笑うバドの顔を見たリディアは、つられるように笑う。

「そうだね、新しい服か。久しぶりに欲しいかも」



 徐々に近づく大陸を見つめていると、心は期待と不安とで自然と高揚していく。


 すぐに明日にならないかと胸を踊らせていたリディアだったが、あっという間に次の日の朝を迎えることとなった。


――・――・――・――・――・――・――


 朝の太陽を浴びながら船は港に着き、団員たちは帆を張る棒へと集まった。

 不安定な場所で作業する様子を、リディアは緊張しながら見守っていたが、彼らは臆することなく声を掛け合い、巻きとるように帆を手繰り寄せていく。



「わぁ、あっという間だ……」

 みるみるうちに帆は畳まれ、今度は上陸のための足場が組まれていった。


 甲板では、誰もがせわしなく動き回っていたが、一人だけその場にとどまっている人がいる。

 ファルシードだ。


 耳を澄ませると、数々の指示が聞き取ることができ、団員たちの流れるような仕事ぶりに納得をした。

 船上で混乱なく仕事ができているのは、彼が指示出しをしているからなのだろう。



 いつも乱暴で、お酒を飲むか、本を読むかしかしてないけど、ああやっていると慕われるのがわかる気がするなぁ――と、リディアはファルシードの姿を見つめる。


 すると、見られているのを感じたのか、ファルシードもこちらを見てきて、視線が重なった。



「おい。リディア、来い」

 ファルシードは、くいとあごを動かして、呼びつけてくる。


「またそうやって、犬みたいに呼ぶんだから!」


「まぁ、嫌ならここで留守番しててもいいんだが」

 ムッとしていたリディアだったが、留守番、という単語に慌てて声をあげた。


「もしかして、町に連れてってくれるの!? 行きたい! このままじゃ服も大きすぎて……」


「ダセェし、色気もねェからな」


「ダサくて色気がないって……言っておくけど、シャツは元々ファルのなんですからね!」

 服のセンスと色気について指摘をされたリディアは、むくれながらファルシードを睨みつけていく。


 って、そういえば、色気があるとかないとか、そんな話を前にファルとしたような――

 いつのことだっただろうか、と、考えていると、ファルシードの声が聞こえる。


「お前は、マトモになるのが(おせ)ェよ」

 そう話す彼はいつもとは違い、どこか柔らかい表情をしているように見えたのだった。

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