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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
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雨の記憶

 本日の食事係であるバドとケヴィンらが作った夕飯は、散々なものだった。

 原型がわからないほどに焼かれた魚の塩焼きで、とても食べられたものではなく、フォークが全く進まない。


 だが団員たちの話を聞くと、違う曜日の食事当番も似たようなものらしく、ファルシードは野菜の皮を剥くのを面倒くさがり、カルロは異常な堅さにパスタを茹でるらしい。


 あまりの惨状にリディアが明日の食事係を立候補すると、団員たちに諸手をあげて喜ばれ、受け入れられた。


 急遽、明日の食事係に加えられたリディアは、翌朝食堂の前に集合することとなった。

 一人で来られるように道を覚えなくては――と、意気込み、食堂を出て薄暗い廊下をまっすぐ歩く。


 やがて、突き当たりへとたどり着き、立ち止まった。

 彼女の目の前には扉があり、左右には上下に続く階段がある。


「どっちだっけ……」

 リディアは帰り道を思い出せず、口元に手をあてて考え込んだ。


「そこ上って、舵棒(かじぼう)のある場所に出たら、その先にある階段を下りろ」


 振り返るとファルシードがおり、彼は一足先に階段へと足をかけた。



「ありがとう! それで、さらに上に行ったらライリー団長の部屋、で合ってる?」


「ああ。それで、ここの扉の向こうは野郎ばかりの第一船室。入っていたら、質問に答えきるまで帰されなかったかもな」


「そんな大げさな」

 さすがにそれはないだろう――とリディアが笑うと、ファルシードはにやりと口角を上げていく。

 そして、第一船室のドアノブに手をかけていった。


「確かめてみるか?」


「え、ええと、遠慮しとくよ」

 提案に顔をひきつらせると、ファルシードは楽しそうに笑っていた。


――・――・――・――・――・――


 リディアはファルシードの部屋を経由して自室へと戻り、ガラス窓のほうへと向かった。

 もちろんその前に、先刻ファルシードが侵入してきた扉へ、鍵をかけておくことも忘れていない。

 また勝手に開けられでもされたら、たまったものではないからだ。



「雨?」

 日暮れまで空は晴れていたのに、いつの間にか雨雲がやってきていたようだ。

 窓に水滴が叩きつけられ、ぽたりぽたりと泣いているかのように流れている。


「おかあさん……」

 そっと窓に触れ、モノクロに包まれた世界をぼんやりと見つめていく。

 雨でにじんで、景色が歪んだ。



 あの日もこんな雨だった――

 リディアは視線を落として、窓に触れていた手を強く握りしめる。


 あれから何年もたっているのに、今もこうやって胸が苦しくなるのは……

 きっとこの雨のせいだ――


 もうどこにもいない母を想い、祈るように目を閉じる。


 やがて、天井に吊るしたランプのオイルも切れていく。

 ふっと微かな音をたてながら灯りは消えて、静かな闇があたりを包んでいったのだった。

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