団員集合
次の見張りと交代し、二人は食堂へと向かう。
甲板を下りて突き当たりの扉を開けるのと同時に、一斉に視線が注がれた。
「やーっと来た。キャプテンてば何してたんスか、遅すぎっスよ!」
「まだ食ってなかったのか?」
ファルシードの返答に、バドはわずかにむっとした様子を見せるが、団長のライリーが慌ててそれをなだめた。
「まぁ俺も言ってなかったし、仕方ねぇさ」
ファルシードが怪訝な顔をしていると、ライリーは呆れたように笑う。
「コイツらに新入りを紹介するために待ってたんだ。野郎なら放っといてもいいんだが、女じゃ危険だろう?」
団員たちのほとんどは惚けた目でリディアを見つめ、鼻の下を情けなく伸ばしている。
「なるほどな」
合点がいったのかファルシードは、ふんと鼻で笑った。
船内ではまず見ることのない女の姿に、団員たちのざわめきはとどまるところを知らない。
「なぁ、新入りってあの子? 思っていたより可愛いな。服装はダサいけど」
「今晩誘ってみろよ。いいワイン手に入れたんだろ?」
若い男たちがにやけながら話していると、間からオレンジ色の髪の男が割って入る。
「止めておいた方がいいですよ。彼女、キャプテンのですから」
カルロの一言で、ぴたりと皆の動きが止まり、嵐の海が突然凪いだように、ざわめきも静まった。
「きゃ……キャプテンの女!?」
誰かが声を上げると同時に、今度はどよめきが走る。
恐らく、ファルシードが女を作るのは、よほど珍しいことなのだろう。
団長のライリーは、騒がしい団員達の様子を楽しげに見つめて笑った。
「ま、そういうわけだ。リディア、自己紹介を」
突然話を振られたリディアは、降り注ぐ視線に負けないようにロングスカートを強く握り、口を開いた。
「え、えと、リディア・ハーシェルです。十八歳です。よろしくお願いします」
深々と礼をすると、生徒さながらに挙手をする男が目に入る。
「趣味は何ー?」
楽しそうに聞いてくる男に、リディアはたじたじとしながら口を開いた。
「ええと……植物を育てるのが好きです」
困惑しながら答えると、それを皮切りに男たちは我先にと手を上げて矢継ぎ早に質問を飛ばしはじめた。
「好きな男のタイプは?」
「得意料理は何?」
「今まで付き合った男って何人くらいいたの?」
「ファーストキスはいつ?」
「どうしてそんな変な服を着てるの?」
膨大な量の質問にリディアはおろおろとうろたえる。
「あ、ええと、どうしたら……」
その時、左肩を力強く掴まれ、リディアの身体は勢い良く引き寄せられた。
「お前らいい加減にしろ」
リディアの頭の上からファルシードの低い声が降ってくる。
急に感じた熱と圧迫感とに、リディアの動揺は止まらない。
抱き寄せられたリディアを冷やかすように口笛が響きわたり、リディアの顔は更に赤く染まっていく。
「ちょっと、何する……!」
慌てて突き放そうとするが、ファルシードは力を込めているのか離れる気配が全くと言っていいほどにない。
そして耳元に顔を寄せてきて、囁くようにこう言った。
「お前は俺の女、なんだろ?」
その声に動揺したリディアは、うつむいてファルシードの足元を睨みつける。
”仮初めの関係なのにそこまでしないで”と足を踏んづけてやりたい気持ちを必死に抑えた。
守ろうとしてくれているライリーのためにも、自分の身の安全のためにも、演技でヘマをするわけにはいかない。
それに癪だけど、協力してくれているこの人のためにも――
リディアは小さく息を吐き、誰にも見られないようにコツンと軽く、ファルシードのブーツを蹴った。
結局はそんな精一杯の反撃も鼻で笑われただけで終わり、二人が席についたところでようやく夕食の時間がはじまっていったのだった。