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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
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驚くふたり

 意味不明なライリーの提案に、二人は動揺を隠せずにいた。

 ファルシードはライリーを睨みつけ、リディアはおろおろと視点を定めることができずにいる。

 この部屋で、ライリーだけが余裕に満ちた表情を浮かべていた。


「なぁ小僧、別にいいじゃねぇか。お前にゃ決まった相手もいねぇし。キャプテンの女になりゃ、誰もリディアに手出しできないだろう? なにも本当に付き合えとは言ってないんだ。フリでいいからよォ」


 なんだ、フリで良かったのか――と、リディアは、安堵の吐息をつく。

 だが、すぐに不安が波のように襲ってきた。



 付き合うフリをするということはつまり、恋人同士らしく見せなければならない、ということだ。

 町にいた男女のようにファルシードと手を繋ぎ、椅子に座って仲睦まじく話をしなければならないのかもしれない。


 さらには、お菓子を口に入れてあげたり、腕を組んでみたり、も。

 そして、人気(ひとけ)のないところで見つめ合い、キスを――


 そこまで考えて、リディアは慌てて首を横に振った。


 ――ただのフリだし、そこまではしないから!

 荒れ狂う心を必死になだめようとするが、顔どころか耳までも真っ赤に染まりあがっていた。


 今日嫁ぐ予定だった者にはとても見えないが、そうなってしまうのも無理はない。

 リディアには恋愛経験が全くといっていいほどになく、文字を禁じられていて恋愛小説を読むなどもってのほか。

 キスなんてものは刺激が強すぎたのだ。



 ファルシードはそんなリディアを気にもとめていないようで、鋭い目でライリーを見下(みお)ろしていた。


「理屈はわからなくもない。だが、俺である必要はねェだろう。バドやケヴィン、カルロ、適役は他にいる」


 その提案に、ライリーは静かに首を横に振った。


「バドはスケベでうっかり者、ケヴィンは脳みそまで筋肉、カルロは女癖が悪い。どうだ、適役はいるか?」


「チッ……」

 ファルシードは合点がいったのか、舌打ちをして横目でリディアを睨みつけてきた。


 スケベな男も困る、女癖が悪い男も困る。

 身の安全を図るどころか、かえって逆効果になってしまいそうだ。

 そして、脳みそが筋肉というのは別段気にはならなかったが、演技が上手くできるかと言われれば、首をかしげてしまうだろう。



 ――でも、だからといって……この(ひと)の彼女役になるっていうのは、怖すぎる! 


 異様に鋭い瞳と全身から発せられる威圧感とに、リディアは身をすくめた。

 こんな様子では、恋人同士らしくどころか、手を繋いだ瞬間に失神してしまいそうだ。



「あの……」

 他に候補はいないのかと抗議しようとするが、口をはさむ暇もなく、ライリーが言葉をかぶせてきた。


「ちょうど、お前の隣の部屋が空いていた気がするしな。そこをリディアの部屋にしよう。それで、何か言ったか?」


「い、いいえ。何も。ありがとうございます」

 ぎこちない顔でリディアは笑う。


 がっくりと肩を落としていたリディアだったが、すぐに顔を上げた。

 これ以上を望むのは贅沢(ぜいたく)というものだ、と気がついたのだ。


 ライリーは強大な力を持つネラ教に(くみ)さず、危機を救ってくれた上に居場所まで用意し、安全も考えてくれた。

 本来なら今頃リディアは、最悪な婚約者ピートの元にいたはずであり、死が訪れる日まで、恋も友も自由も知らず、他人が望むままに生きていたのだろう。

 それを考えれば、今の状況はまさに、夢のようなものだ。



「よし、リディアのほうは良さそうだ。あとはお前の返答一つ。“団長が連れてきた巫女に惚れて、自分の女にした”と言ってくれるだけでもいい。なぁ、ファルシード、頼む。この通りだ!」


 ライリーは勢いよく頭を下げていく。

 その様子にファルシードは目を丸く見開き、すぐに顔をしかめた。


「おい。団長が部下に頭なんざ下げんな」

 重みのある声にも、ライリーは微動だにせず、顔を上げようとしない。


「……それほどの頼み、ってことなのかよ」

 呟きのようなファルシードの問いに、ライリーははっきりと言葉を返した。


「ああ」


「……わかった。仕方ねェな、やってやる」

 ライリーの態度に根負けしたのだろう。

 ファルシードはいかにも面倒そうに、深くため息をついていた。



「すまねぇ、恩にきる」

 ライリーは(おもて)を上げて、無邪気に笑う。

 それを見たファルシードも、呆れが混じったような顔で微かに笑った。



 ――ああ。この人、こんな顔もするんだ。


 リディアは、ファルシードの横顔を見つめてそんなことを思う。

 言葉も態度も乱暴で、常に不機嫌そうな顔をし、威圧感を発してばかりのファルシード。

 だが、いまの彼の横顔はなぜか柔らかくて、美しく見えた。


 リディアにとって、ファルシードという男は謎に満ちていて、よくわからない。

 だが、結婚するはずだった許婚(ピート)に比べれば、ずいぶんとマシな男のように思えたのだった。

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