表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第二章 盗賊団フライハイト
14/132

レイラを知る男

 “なぜレイラを知っているのか”という問いに、彼らは言い合いを止めて視線を送ってきて、リディアは身体を強張らせる。


 ひげ面の男は怯えるリディアを安心させようとしたのだろう。

 柔らかく微笑みかけてきた。


「お前さんは、若い頃のレイラによく似ているよ。おれはな、じつはお前さんにも会ったことがあるぞ」


 予想外の返答に、リディアは戸惑う。

 必死に記憶の糸をたどってみるが、こんな男に会った覚えなどなかった。



「不思議でしょうがない、って顔だな。確か、十七・八年前だったか。お前さんがまだチビスケで、おれが交易船の船員だった頃の話だ。嵐に襲われて海に転落し、島へと漂着したおれをレイラが助けてくれたのさ。あれは本当にいい女だった」


「おかあさんが、あなたを……?」


「ああ、そうさ。いま思えば、後にも先にもこのひげを褒めてくれたのは、あいつだけだったなァ」


 ひげ面の男は、あごをさすりながら寂しげな表情を浮かべ、横で聞いていたファルシードは、ふんと鼻で笑った。



「ムサいとけなされたところで、剃る気もねぇくせに」


「うるせぇ。これはおれのチャームポイントなんだ。小僧は黙って、そこで聞いてろ」

 ひげの男はむすっとした表情でファルシードを見上げた。


 ケンカになるのではないか、と内心不安を感じながらリディアは二人を見つめる。

 だが、ファルシードは言い返すこともなく呆れたように肩をすくめ、ひげの男は笑みを消してリディアに視線を送ってきた。



「おれはレイラと過ごすうちに、あいつが置かれている状況を知った。夫を事故で失い、幼子と二人で生きてきたことも、祈りの巫女とかいう、イカレた使命を背負わされていることも……。なぁ、理不尽な扱いを受けているとは思わねぇのかい? どうしてお前さんもレイラも、現状に甘んじる」


 ひげ面の男の言葉に、リディアは何も言えないままに視線をそらした。


 祈りの巫女に生まれたからには、人のために死ぬしかないと思っていたし、周りからも巫女とはそういうものだと思われていた。

 だからこそ、彼の問いかけはリディアにとって衝撃が強く、言葉を失ってしまったのだ。



 ひげ面の男は、ふ、と小さく息を吐いて、再び口を開いた。


「おれはな、レイラがあまりに憐れで、こう提案したんだ。“使命など捨てて、一緒に逃げないか”と。だが、見事にフラれちまったよ。この世界は巫女にとっちゃ鳥かごで、どこにも自由なんざないんだと。どうだい、お前さんもやっぱりそう思うのかい?」



 考えもせず、うつむくようにうなずいた。

 リディアはこれまでずっと、自由など望んではいけないものだと思っていたのだ。


 だからこそ、意図的に考えることを避けてきたのに。

 昨晩、“世界で一番の自由”という言葉を耳にしたせいで、抑え続けてきた感情があふれ出てしまった。


 自由とは、一体どんなものなのだろう――と。



「おいファルシード、お前はどうだ。祈りの巫女に自由はないと思うか?」

 ひげ面の男の呼び掛けに、彼は面倒だとでも言いたげに顔をしかめた。


「んなことは知らねェよ、俺に振るな」


「はは、誰よりも自由にこだわる小僧がよくいう」

 愉快そうに笑うひげ面の男にリディアが首をかしげると、彼は慌てたように話を戻した。



「おお悪い悪い、話がそれちまったな。レイラは自分の未来こそ諦めていたが、娘には自由に生きてほしいと願っていた。だからおれはあの日、レイラへ誓ったのさ。いずれ盗賊団を結成して力をつけ、娘を盗み、かくまってやるってな。だが、こんなにも月日がかかるとは思いもよらんかった!」


 ひげの男は豪快に笑い、リディアは目を丸くする。

 ファルシードは深いため息をついていたが、慌てたように声を上げた。


「おい、ジィサン。あんたまさか、コイツを一味に加える気なんじゃねぇだろうな」


「ん、悪いか? 華があっていいじゃねぇか」

 悪びれる様子もないひげ面の男に苛立(いらだ)っているのか、ファルシードの眉がぴくりと動く。



 一方のリディアは現状の理解ができず、二人を見つめ続けることしかできずにいる。

 先程ひげ面の男は、リディアの母に恩義を感じており、盗賊団の結成を決めたと話していた。


 まさか、この(ひと)が団長なのだろうか。昼間から酔っ払って腹を出し、情けなくいびきをかいていたこの男が――

 そんなことはない。きっとない、とリディアは思考を振り払う。


 荒くれ者たちを束ねる団長が、こんなにもいい加減なはずはなく、そもそも団長は身長が二メートルもあるはずなのだ。

 そうやって困惑するリディアの耳に、怒りを含んだファルシードの声が響いた。



「また勝手に決めやがって。このクソジジィが」

 ファルシードは全身から威圧感を放ち、鋭い瞳でひげの男を見おろしていた。

 その様子にリディアは怖気づいてしまうが、ひげ面の男は(おく)することもなく、にやりと笑う。


「何の問題がある? それに、お前にとっても、都合がいいんじゃねぇのか」


「は? そんなわけが……!」

 続きを言いかけたファルシードは途端に口をつぐみ、しばし考えたのちにこう言った。 


「ないと思ったが、確かに都合はいい。奴らにひと泡吹かしてやるのも悪くねェ」


「そんなら、これで決まりだな」


「ああ」


 どうやら盗賊二人は意気投合したようだ。


 完全に会話に乗り遅れてしまったリディア。

 自身の行く末を勝手に決められていたことにようやく気づいたが、今となってはもう遅い。


 盗賊達に楯突く勇気などない彼女には、ぼんやりと立ち尽くすことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ