予想外
1日と15日の更新を続けていたのに、プライベートがゴタついていてすっかり抜けていました、すみません(>_<)
楽しみにしていた祭。
それが、危険を孕むものだと知ったリディアは、緊張した様子で賑やかな広場を見つめる。
時間にうるさいファルシードが遅れて来たこともどうやらこのことに関係していたようで、宿屋の娘にしつこく迫られた、とのことだった。
「この村の人は皆、古代言語をわかってるのかな……なんか、また騙されちゃいそうで怖いね」
リディアが小さく身震いすると、ファルシードが口を開く。
「いや、恐らく知っている言葉はごく一部だけだろう。どちらにせよ、聞き覚えのない言葉は全て無視しておけ」
「わかった」と、リディアは頷く。
知らず知らずのうちに、村の男と勝手に恋人同士にされてしまうなど、たまったものではない。
「リディア、大丈夫よ。対処法もわかったし、さっきみたいな変なヤツなんてそうそういないから」
コーネリアがあっけらかんと言うと、リディアも険しかった表情を緩ませた。
「うん、そうですね! せっかくのお祭り、楽しまないと損ですもんね」
「そうそう。ってわけで、私は単独行動させてもらうわ。恋人たちの間にいるのは不自然でしょう?」
にやりと両口角を上げて含み笑いをするコーネリアに、リディアとファルシードは無言のまま目を見開いた。
「それじゃあ二人とも、またあとでね。どうぞ、ごゆっくり」
「え、ちょっとコーネリアさん、待って!」
リディアは慌てて声をあげたが、コーネリアが止まることはなく、彼女は足早に広場へと消えてしまった。
「どうしよ……」
「アイツの勝手はいまに始まったことじゃねェし、放っときゃいいだろ。腐っても元騎士、多少の危険くらいどうにかする」
面倒そうにファルシードはため息をついて、隣に立つリディアはもじもじと身体を縮こまらせた。
「コーネリアさんなら大丈夫だと思うんだけど、そうじゃなくって……」
ちらと上を覗くと、紫の瞳と視線が交わる。
途端に大きく鼓動が跳ねて、リディアは慌てて顔を背けた。
コーネリアと出会うまでは二人で旅をしてきたはずなのに、いまはそれがむず痒くて仕方ない。
まともに顔を見ることすらできないのは恐らく、今朝コーネリアが恋愛について問い詰めてきたのと、普段見慣れない衣装を彼が身にまとっているせいだ。
「おい、どうした……?」
不意に顔を覗かれ、リディアは大きく後ろへのけぞる。
「なんでもない! なんでもないから!!」
二人きりだと変に意識してしまって心臓に悪い、と、リディアはコーネリアが消えていった広場を恨めしそうに見つめた。
――・――・――・――・――・――・――・――
二人は無言のまま、会場へと歩いていく。
普段は何も話さなくても居心地が良かったはずなのに、いまのリディアにとっては会話がないことが落ち着かない。
無言の空間に耐えられず「ええと」と、リディアは口を開いた。
「コーネリアさんの見立て、すごいよね。コーネリアさんも綺麗だったけど、ファルの衣装も似合ってるよ」
深紅の衣装は情熱的で妖艶なコーネリアにしっくりとはまっていて、異国を思わせる青の衣装は、珍しい紫の瞳を持つファルシードをより魅惑的に見せてくる。
リディアには見慣れた二人がやけに色っぽく、大人に見えた。
「アイツの見立ては、確かに悪くない。リディアのことも、一瞬誰かわからなかった」
いつもとは違うどこか優しげな表情に動揺し、胸がきゅっと締め付けられる。
だが、誰かわからない、とはどういう意味なのだろうか。
リディアは隣を歩く彼の横顔を見るが、あまり表情がなく読み取れない。
「ええと、もしかしてお化粧、変かな……?」
恐る恐る尋ねると、怪訝な顔をされてしまった。
どうやらリディアは、ずいぶんと的はずれな質問をしてしまったらしい。
「いやよく似合っている。ずいぶんと大人びて見えた、ってことだ」
放たれた予想外な言葉に、リディアは目をぱちくりとさせて、驚きを隠せないまま口を開いた。
「わっ、ほんと!? もう私のこと“色気のないガキ”なんて、言えないよ!」
「……ああ、そうだな」
優しく微笑みかけられて、リディアはどぎまぎとして何も言えなくなる。
彼からいつも世間知らずの子どものように扱われてきたぶん、こんなことを言われてしまっては、女として見られているようで動揺してしまうのも無理はない。
照れ隠しに放った、イヤミ混じりの言葉。
きっと、いつものように軽くあしらわれるものだと、リディアは思っていたのに。
優しげな瞳と思いがけない返答とにリディアは耳まで赤く顔を染め、うつむくことしかできなかった。